レポート 007 「戦闘開始だ」
「グリちゃん!そこ〜」
そうアリスが言うとグリフォンはゆっくりと崖の端へと降下した。
「ありがとね〜!」
そうして頭を撫でられたグリフォンは満足そうに群れへと帰っていった。アリスは大きく手を振り、またね とか言っている。
冗談じゃない、また会ってたまるかよ。
「さてと、ここからどうしょうか。洞窟に戻るのもいいが結界が壊れてるしな。それに現在地もわからないとなると迂闊には動けない。カンナに助けを求めるしか…でも連絡手段が…。」
ボソボソと独り言をつぶやくケンタにアリスは元気よく、
「ハトさん!」
「ん?」
「ハトさん!」
ケンタは別段子供が嫌いと言うわけではないが、アリスのその喋り方には少しだけイライラとしてしまう。ーー ハトがなんだよ!主語述語を使え!
そんな感情が顔に出てしまったのか、アリスは少し不機嫌になりながらも何やら変な模様を地面に描きだした。そしてその幾何学的な模様を描き終わるとクマのぬいぐるみの手を握り、目を閉じ手を前に出した。
しばらくすると彼女の変な落書きは青白く発光し、ポッと白い鳩がその上に現れた。アリスが何かをボソッと唱えると鎖のような形をした光が鳩の足に絡まり消えていった。
「ハトさん!カンナおねぇちゃん つれてきて〜」
「クルッポ!」
了解したと言わんばかりに鳩は空へ飛び立っていった。
「召喚魔法…なのか。」
「うん!アリスはね、ショウカンシなの!」
えっへん!とない胸を張るアリスはとても得意げにしているが、ひとつだけ確認しておきたい事があった。
「カンナってどこに住んでんだ?」
「おねぇちゃんはやまごやにいるよ。ぼーけんしゃのやどをけーえーしてるの!」
「冒険者の宿か。んで、それをあの鳩は知ってんのか?」
「…あっ」
「「……」」
「えへへ」
「えへへ、じゃねぇよ!どうすんだよ!」
「だいじょうぶ!ハトさん頭いいから!」
「あぁ!お前よりいいことを切に願うよ!」
幼女にキレる17才がそこにいた。
「暇だ。」
リンゴのような木の実をかじりながらケンタは思わずそう溢した。毒の有無なんて気にもしない。
あれからどれほど経っただろうか、何もすることがない。今ケンタはアリスと崖の淵、正しくはアルル高山第二層の端、にいる。
そこから眺める風景は綺麗には違いないのだが、流石に何時間も見ていると飽きてしまう。
アリスは地面に座りながら小鳥たちと喋っていた。どうやらカンナのいる場所を必死に説明しているようだ。
「あいつはどこの白雪姫だよ」
本当に動物に愛されているらしい。さっきから色々な種類の小鳥たちがアリスの元へ訪れている。
小鳥のみならず狐のような小動物も集まって来ているみたいだ。そこへあの白い鳩がふらふらと帰ってきた。
「あっ!ハトさん!カンナおねぇちゃんはね、やまごやにいるの、よんできて〜」
「ク、クル、くるっぽー」
あてもなく森を彷徨さまよっていたのだろう。飛ぶのも疲れたのかその白い鳩はよちよちと歩きながら主の命令に従い、森の茂みの中へと去っていった。
「あいつも…立派な社畜になりやがって…」
ケンタが鳩に謎の同情をしているなか、今まで空気のように影を潜めていた彼が動いた。
何を隠そう、それはクマだった。アリスに手を握られ、普通のぬいぐるみのように振舞っていた彼がピョコンと彼女の手を払い地面に立った瞬間、辺りにいた小鳥や狐たちが一斉に逃げていった。クマはそんなことは気にもせず、ただ一人森の中へと消えていった。
「テディ〜、どこいくの〜?」
それを見たアリスはテディの後を追い、何のためらいもなく森の中へと入ろうとした。
「ちょ、森はダメだろ!」
ケンタはアリスをとめた。
「でもテディが…」
「あんなぬいぐるみどうでもいいだろ、それよりもお前が森で迷子になる方が困る」
「テディは、テディはどうでもよくない!」
そう言うとアリスはケンタの手を払い森の中へと走っていった
「あっ、おい!」
本当はケンタはアリスの心配、ましてやテディの心配をしてなともいなかった。単純に一人になるのが怖かったのだ。
「ったく、しょうがねぇな」
自分の気持ちに素直になれないまま、ケンタも森の中へと足を踏み入れるのだった。
「おーい、アリスー!おーい!」
高い草や伸びる蔓を払いのけながらシティボーイことケンタは慣れない手つきで森を散策していた。
「ひぃ!」
おかしな虫がうじゃうじゃと徘徊するなか、ケンタは地面に注意しながら進んでいた。前方不注意だった彼は何かと激突してしまった。
結論から言おう、それはくまだった。
「おい、テディ…って言ってたけっけ、アリスを見なかったか?お前の後を追って森に入ってったんだけど…」
反応がないくまの背をトントンと叩きながら、ケンタは違和感を感じた。毛が硬いのだ。そこにはぬいぐるみのような柔らかさはなく……
もう一度言おう、それは熊だった。
大人二人分ぐらいの大きさの茶色い野生の熊モンスターだった。ケンタは固まった表情で振り返る熊のその顔を見上げながら、とりあえず立ったまま死んだふりをしてみた。
「グルウォーーーー!!!」
「ぎゃーーーーーー!!!」
そんな二人の叫びのコンチェルトが静かな森の中を響き渡った。
ケンタは必死に走った。相手が座って背を向けていたのが幸いしてある程度の距離まで逃げることができた。しかしその距離は刻一刻と縮まっていく。
「はぁ…はぁ…埒があかねぇ。」
上手く木の後ろに隠れることはできたが、熊は俺の匂いを辿って近づいてきている。
俺は攻撃に出ることにした。逃げる体力がなくなったとも言う。
しかし攻撃といっても効果のありそうな策は一つしか思い浮かばないわけでして…
「ファイヤーボール」
ボソッとつぶやいたケンタの手の上にはほんの僅かな火種がポッと現れ、すぐ消えた。そう、ケンタは行き当たりばったりの魔法で攻撃しようとしているのだ。
「ダメか、ならウォーターボール」
今度は上手く空中で水球が形成された。それと同時に体に気だるさを感じる。術は大成功だ。ただ、
「使えねぇじゃねぇか!」
そう言って初めての使えた魔法を思いっきり地面に叩きつけた。出てきたのはただの水なのだ。水で熊を倒せるわけがない。窒息させるほどの量を生み出せば話は別だが先ほど感じた気だるさから推測するとそれほど魔力を持ってはいなさそうだった。刃物のように射出することも考えたが、それなら、
「ウインドカッター」
そう唱えると目の前の枝がスパッと切れて落ちた。
「おぉ、これならいけそうだ」
俺は心臓に手を当て息を整えた。そして覚悟を決めて木の陰から飛び出した。熊は依然として辺りの匂いを嗅ぎまわっているがちょうど俺に背を向けていた。今が好機だ。
「さあ、戦闘開始だ」
背後からの奇襲を狙う姑息な男は自分に喝を入れるためにもカッコをつけてそう言った。
やっぱりこの話からスタートして、説明は回想の方が良かったか…
これまでの長い説明回読んで下さった方ありがとうございます!




