七十八話
ぼくの肩に、手を置いた。それにぼくは顔を向け、
「か、嘉島……な、なんだよ? いきなりスキンシップだなんて、大胆――」
「俺、お前……好きだ、ぞ」
唐突過ぎる告白時間突入だった。ぼくは初めのソレがいきなりそれも男からのモノということで、大いに混乱――しかけたが、しかしその本心が読めないほど愚鈍でもなかった。というよりぼくは自分の心こそ読めずにいたが他人の心の変化には敏感だったりしたのだが。
それがわかったからといって、そう簡単に変わることが出来ないのが人間なのだが。
「や、いやお前なに言って……」
「おいも好きぞ、上月――――――――っ!!」
「おわっ!?」
今度は結構本気でビックリした。
後ろから赤羽が、飛び掛かる勢いで抱きついてきていた。ガックン傾き、ぼくは半ばガチで焦りながら、
「あ、あ、ま……ちょっなにやってんだよ、離れろよキモチ悪いなオイっ!」
「好きぞ上月ー、おいがついとるけんなー、なんも心配せんでよかけんなー」
「わ、わけわかんねーよッ!」
もちろんわけわかんないわけがなかったのだが。
そんなぼくを、菅原さんは腕組みして生温かい目で見つめていたちょっと嫌な感じだった一言いうことにした。
「あの……なんですか?」
「いや、青春だなーって気がしてね、フフフフフフ」
「なんか普段より……フ、多くないですか?」
「フフフフフフフフフ」
「……完全に、遊んでますよね?」
「うちも之乃くんのこと、好きよ?」
心臓が銅鑼かなにかのようにゴーン、と鳴った。
もちろん恋愛的ななにかではないのは重々承知なのだが、それでも女性しかもこんなに魅力的な京美人からラブコールをされれば男ならどうにかなるというのが人情というものではないのか。
ぼくは――なにも言えず、ただにへら、と口元を歪めた。
取り繕おうとすれば、それは当然いくらでも出来た。
しかしそれをする意味が、もはや見い出せなかった。
ぼくは所在なくなり、最後の一人と視線を合わせた。
「深雪は好きなんかじゃないデスよ、喜一郎一筋デス」
「ハハっ」
思わず、笑ってしまった。みんな素直だった。ここには内面と裏腹な言葉を吐く人種はいない。
だからぼくも、宇宙人を辞めていいんだと――許されているんだと、勘違いしてもイイかと思った。
「でも先輩の事も、別に嫌いでもないデス」
「そっか、ありがとう」
ぼくは、笑った。
「へー」
なぜか菅原さんが、喰いついていた。
それにぼくは不思議なくらい上機嫌に、尋ねた。
「? どうしたんですか、菅原さん?」
「きみ、今とっても良い顔してるわよ?」
「へ……?」
ぼくは自分の顔を、ぺたぺたと触った。ほとんど条件反射だった、そんなことしたってわかるわけがない。どうせなら携帯の自撮り昨日で――と気づいたが、
「おー上月、よか笑顔やなー」
「え……余暇?」
「だ、な……いい、笑みだ」
「……嘉島?」
「深雪もそう、思いマス」
"あの"深雪ちゃんさえ、認めた。
それにぼくは少し恐怖さえ覚えながら、携帯を取り出そう――として菅原さんに、手鏡を差し出され、恐縮しながらそれを受け取り、自分の顔を見た。
笑っていた。それも、さっぱりした様子で。なんだかどこにも、憑き物のようなものが見て取れないというか。
なんていうか。
ただ笑いたくて、笑っているというか。
「っハ」
そんな自分に、思わず笑ってしまった。それを見て、赤羽が、嘉島が、菅原さんが、深雪ちゃんが、続くように笑ってた。笑い方に共感するよう、安心したよう、生温かく、蔑むようにという違いはあったものの。
ぼくは、
「……みんな、」
呼びかけに、みんな微笑んだままこちらを向いた。それにぼくは少しだけ覚悟を決め、
「オレ……輿水さんの、力になりたい」
「おう」
言葉を越えて理解してくれているのが感じられるから、ぼくは余計な言葉は付け足さなかった。
「――力を、貸してくれないか?」
「よかぞ」「ハイデス」「ええよ」「……ああ」
即答してくれたその頼もしさに、ぼくは胸が少し熱くなった。
コレが愛かな、と考えたりした。
*
ぼくは自分の心と、向き合おうと思った。腐ってても、カスでも、人間失格でも、それでもソレ含めてぼくそのものなのだから。受け入れなくては、生きていけないのだから。
「……受け入れられる、だろうか?」
不安が、口にすればドッカリと両肩にのしかかってきていた。正直欠片も、自信などはない。今までそれから目を逸らして生きてきて、18にして見つめ直すのだ。不安しかないといっても過言ではないのかもしれない。




