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四十三話

 そうウインクした赤羽を深雪ちゃんは睨み、それをやはり軽く受け流して赤羽はこちらを向き、

「なンがあったか、詳しく話してくれんか?」

 ろくに考えず、訊き返す。

「なんで?」

「おいはわいの、友達になりたかっさね」

 予想外とは言わないが、予想以上とはいえるその言葉に、ぼくは特に何も言えなかった。言えなかった、思えなかった、なにも。

「その為には、わいのこと深く知って、そのうえじゃないと駄目っぽかもんな。魂とか、自分と向き合ってくれただとか、信頼する人間が信頼しているからだとか、そういう感覚的な条件じゃ、納得できんみたいやもんな」

 条件、という言葉が胸を抉るようだった。

 自分では決して、そんなつもりはなかった。だけど言われてみたどう考えても、そうだということに気づいてしまった。間違いなくぼくは、条件付けをしている。信頼に足る、友達と思える、その対象を。

 そしてぼく自身をすらを。

 相手に、足る人間かを。

「…………そんな、こと」

「親御さんが、死んだって言っとったな?」

「…………言った」

「なんがあったとや? もちろん寿命じゃなかとは思っとったけど、病気や? それとも、なんか――」

「事故だ」

 一瞬誰が喋ったんだと、ぼくは思ってしまった。

 その無機質で、低音域のその声に、ぼくは聞き覚えがなかったから。

「事故で、死んだ。飛行機事故。生き残ったひとは、誰もいないらしい。死体もみつかってない。最後に交わした言葉さえ、ぼくは覚えてない」

 それがぼく自身の言葉だと知った時、なにかが、腑に落ちた気がした。

「……事故、か」

「そうだ、事故だ。ぼくが小学二年生の時、両親はぼくを従弟の家に預けて、海外旅行に行っていた。どこの国に行ってたのかは知らない、だってその時のぼくは従弟の家で遊べる事で頭がいっぱいだったから。だから両親が死んだって聞いた時も、なにも実感が湧かなかった。この年になるまで、涙だって流したことは無い。だって色んなことがあまりに唐突過ぎて、理解とかそういうことをする前に――」

 バサッ、という音がした。

 気づけば嘉島が、なぜかぼくを抱きしめていた。それにぼくは、眉をひそめる。

「? なにするんだ、嘉島? 話の途中だろ、よく聞けよ。みんなも知りたがってんだから、邪魔せず――」

「いや、もういい」

「赤羽まで、なに言い出すんだ?」

 訳がわからない出来事が勃発していた。聞きたいというから話しているのに、なぜそうなるんだ?

 ぼくはこの場にいる最後のひとりに、視線を合わせた。

「深雪ちゃんは、聞きたいよね?」

「聞きたくないデス」

「なんで? さっきからぼくのこと色々追及してたじゃない? 怖がらないで、前を向いて、立ち向かえだとかなんとか。だからぼくは恥ずかしいぼくの過去と両親のことを、ぼくは両親が唐突にいなくなったのに涙も流せなかった人でなしでそのあと従弟の家に居候になってなに不自由なく暮らしてきたけど申し訳なくて顔色を窺ってるうちにひととの接し方がわからなくなっ――」

「聞きたこーねーんっ!!」

 激しい口調と耳を塞ぐその悲痛な表情に、場の空気は静まり返った。ぼくは、ただ茫然としていた。なにがどうなって、こうなったのかわからなかった。さっきまで、ぼく自身は攻撃されながらもどこか和やかに場は動いていた。それが一瞬で、なんでなんだ? わけが、わからなかった。

 ぼくはトン、と抱きついている嘉島の身体を押した。どこか切なげな表情が、そこにはあった。赤羽を見ると、複雑な顔で腕を組んでいた。

 ぼくはぽつり、と呟いた。

「……わりぃ、帰るわ」

 まったく同タイミングで、下校時刻を告げるチャイムが鳴り響いた。


 ぼくはなんだか、なにも考えられなかった。自分がどうしてここにいるのか、こうしているのか、少しもわからなかった。いわゆる脳がオーバーヒートを起こしているような状態だった。だから帰りたかった。帰って、寝て、脳を冷やして正常な状態に戻したかった。

 それなのに――

「……なぁ、赤羽」

「なん?」

「なんでオレは……ここに、いるんだ?」

「そりゃみんなでカラオケ行こうぜ! っておいが提案して、みんながそれに乗ったからやろ?」

 その赤羽の言葉通り、ぼくたちはなぜかカラオケボックスにいた。経緯をよく覚えていない。確かシダックスだとかカラカンだとかパセラだとかFカケ2かドラゴンうんたらの呪文のようなやり取りを聞いた気がする。そして気づけばL字型のソファーに、奥からぼく、赤羽、嘉島、深雪ちゃんの順で座っていた。

「…………」

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