気持ちを伝える事
…考える事が多い。
布団の中に入っていても中々眠りに入れない…
今まで次の日が楽しみで眠れない日は多くあったが、新たな境地に立つ事を考えて眠れないのは始めてでどう考えても結果が出てこない。
不安にはならないが安心もしない。
思い浮かぶのはシンセ様の暖かい笑顔と温もりだけ。
もう数時間しか眠れない…目の上にタオルを置いて暗闇の部屋の中で更に暗闇にした。
気づけば数時間眠れ出発にも間に合う時間だった。
ある程度の準備が終わり家を出てミルと待ち合わせの場所へ向かった。
その道沿いにシンセ様の家がある…ふと立ち止まりシンセ様の部屋のベランダを眺めた。
いつも私がシンセ様の家に来る前にベランダで来るのを待っていてくれる―
それを見て私は笑顔で玄関を開けて入っていくのが習慣になっていた。
今はまだ夜明けになる前でベランダが見えても誰も居ないように見える。
心の中でシンセ様へ挨拶をした。
「シンセ様、行ってまいります」
私はまた待ち合わせの場所に向けて足を歩かせた。
ふと窓の閉める音がしたような気がして振り返ったがベランダには誰もいなかった。
事務局のある前の建物に着いた。
…遅刻癖のあるミルは大丈夫だろうか?
私みたいに眠れなかったりしたのだろうか?
荷物を足元に置き階段にそっと腰を下ろした。
―― っわ! ――
―― っきゃー! ――
急に背後で声をかけられ背中を押された。
心臓がドキン跳ねると共に大声を叫んでしまった。
声の主はケラケラと大笑いしている。
「ちょっとミル!!!!夜中なのに大声ださせてどうするのよ?!驚いて誰かが出てきたら怒られるわよ?!」
ミルは手を合わせて小さな声でごめんごめんと謝っている―
でも、待ち合わせに先に来ることなど今まで無かった。
「ねぇ…ミル?もしかして眠れなかったんじゃない?」
そう声を掛けると明白に肩をガクンと落とした。
「やっぱり…眠れなかったか!」
自分の事を棚に上げてさっきのお礼のように笑いながら肩を叩いた。
「だって!これからの不安もあるし…ダグ様とは昨日ちゃんと約束したし…っていうか眠れるアムエルの方は神経が太いわ!」
私はミルの言った一言が気になった。
「えぇ?私も中々眠れなくて数時間よ。これから新しい境地にたつんだから。で、ダグエル様とはどんな約束をしたの??」
ミルの笑みがどんどん増していくのがわかる。
…きっと、相当嬉しい事なんだろうな~。
「アムエルあのね?ダグ様がね?帰ってくるのを待っててくれるって。中間報告のときも直ぐに私のところに逢いにきなさいって…ダグ様が逢いたいって言ってくれたの!」
私に話ながら1人で舞い上がっている…こりゃ数日は元気いっぱいだわ。
ミルもそうだけど…ダグエル様もはっきりお付き合いすればいいのに…お互い恥ずかしくて言えないのかな?
「お互い恥ずかしくてお付き合いって言葉に出せないのね~?私は昨日送ってくれていた時に寂しくって話ができなかったの。
勿体無いわよね?でも、手を繋いでいたらシンセ様の温もりが伝わってきて安心できたわ?
言葉は相手に気持ちを伝えるのに必要な物だけど、言葉がなくても伝えれる事ってできるんだなって思ったの。そう考えたら、私たちは幸せものだね?」
二人で一緒にニコニコ話をしていた。
そんな会話をしていたら事務局に行く時間になっていた。
「そろそろ行きましょう?」
ミルに声を掛けて事務局に入った。
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「ちゃんと時間通りに入ってたな?あの二人は本当にいつ見ても可愛いし面白いな…
ダグエル?ミルと付き合うって言えよ。ミルちゃんがずっと片思いだと勘違いしてるじゃん」
シンセはダグエルにぼそっと呟いた。
ダグエルは困った顔をしていた。
「なぁシンセ?お前みたいに素直にアムエルを受け入れれる方が凄いわ。男から告白なんかできないだろ?」
それを聞いたシンセは余計口を開けて呆れた。
「なんだよそれ?気持ちを伝えるのに男女関係ないだろう…まぁ今の所は大丈夫そうだな?」
二人は事務局に入っていく二人を見送り家路に帰った。