ヒロイン健康改善計画
セシリアはまずサーシャと一緒に散歩をするべく、学校に設置されている運動場へとやってきていた。
(ここがアルフォンス様が言っていた運動用の施設なのね)
運動場はかなり広めに取られており、トラックのようなものがあったり投げ槍のようなものが置かれていたりと、結構本格的だ。
将来武官として働くのを目指している生徒達が剣を振っていたり、走り込みを行ったりしている中を、セシリア達は無理のない範囲でゆっくりと歩いていく。
「皆すごいなぁ……やっぱりしっかりと体型を維持するためには、あれくらいの運動は必要なのかな」
どうやら心を許してくれたようで、サーシャは『ひとドル』の中でヒーロー達にしていたように、やや砕けた口調で話してくれるようになった。
「他人と比較して落ち込む必要はないわ。まずはきっちりと無理ないペースでアンダーカロリーを目指していきましょう」
「カロリー?」
「簡単に言うと食事の消化で得られる熱量のことよ」
ダイエットの基本はアンダーカロリー……つまりは消費カロリーが摂取カロリーよりも下の状態を作ることにある。
ダイエットのために食事を白パンだけにしていたサーシャが身体に悪いやり方ながらも痩せていたのは、食べる量を減らして摂取カロリーを減らしていたからだ。
ただそんな無理なやり方をして落としても、身体から筋肉が落ちてリバウンドのしやすい身体になってしまう。
故にセシリアが目指すのは運動をして消費カロリーを増やして、アンダーカロリーを作ること。
無理して食事量を減らさずとも健康的に痩せられると聞いて、サーシャは目を輝かせていた。
「そんな方法があるなんて……まるで魔法みたいですね!」
パーソナルトレーニングをする度に言われるその言葉に、セシリアは笑いながら頷いた。
無理矢理断食をしたりせずともきちんと痩せられるのは、魔法でもなんでもない。
適切なカロリー計算に裏打ちされた、科学の力だ。
「三食きっちり食べながら、こんな風にお散歩をしてカロリーを消費する。無理なく続けていきながら、健康的な肉体を作っていきましょう」
「はい、セシリア様とのお散歩、私は好きです!」
トラックを、今度はアルフォンス様と来ましょうかと思いながら歩いていく。
それほど早いペースで歩いているわけではないのだが、サーシャがすぐに息切れし始めた。
「もしかしてサーシャって、全然運動してない?」
「はは……お恥ずかしながら」
どうやら彼女の運動不足は、かなり深刻なようだ。
まずは毎日のお散歩から、運動習慣を身につけてもらうのがいいだろう。
そして散歩をしているうちに、セシリアはサーシャについてもう一つ気付いたことがある。
多分だが彼女は、全然睡眠時間が足りていない。
高い頻度であくびをしているのは、間違いなく睡眠不足のサインだ。
「ふわぁ……」
「かなり眠そうね……昨日は何時間くらい寝たの?」
「授業の予習復習もしてたし……四時間くらい、かなぁ」
「四時間!? それじゃ絶対ダメ!」
運動と同様、セシリアは睡眠の重要性を懇々と繰り返した。
先天的なショートスリーパーでもない限り、人は最低でも六時間以上の睡眠が必要だ。
「しっかりと眠って空いた時間で予習復習ができるようにしていきましょう。最終的にその方が勉強の効率も良くなるはずよ」
「……わかった。自分の今までのやり方を変えるのには抵抗がありますけど……セシリア様に従います!」
こうしてサーシャはセシリアの指導に従う形で生活習慣を変え始めた。
そしてその結果は、一週間も経たないうちに出始めた。
「思ってたよりもきっちり食べられるんだね!」
まずはきちんと三食ご飯を食べることができるようになり、低血糖気味だった生活が改善されたことで、サーシャの顔色が明らかに良くなった。
「すごい……前より勉強している時間は減ったのに、きちんと無理なく予習復習が終わるなんて!」
そしてしっかりと睡眠時間を取るようになったことで、サーシャの集中力は以前よりも明らかに上がった。
深夜に二時間はかけていた勉強を早朝の一時間できちんと終わらせることができるようになり、睡眠時間をしっかりと確保しながらでも問題なく授業についていくことができるようになった。
おかげでサーシャは以前のようにあくびをしたり、ふらふらになりながら学校に来ることはなくなった。
あとはこれをきっちりと続けながら適切に筋トレを続けていけば、しっかりとつけたいところに筋肉をつけて美ボディを手に入れることもできるはずだ。
(元からかわいいサーシャが更に綺麗になっていったら……末恐ろしいわね)
実際以前より溌剌とした彼女は魅力的に見えるようで、最近では男子生徒達などから話しかけられることも増えてきたらしい。
本人は気にしていなかったが……ひょっとするとセシリアは、とんでもない存在を生み出そうとしてしまっているのかもしれない。
すると早速その効果が現れたということなのか、昼食を一緒に取っていたセシリア達の下にアルフォンスがやってきた。
「最近ずいぶんと仲が良さそうだね」
「はい、ありがたいことに面倒を見ていただけております!」
「セシリアは本当に面倒見がいいからねぇ……なんでも二人で運動場を使ってるらしいじゃないか。もしよければ今日、一緒に歩かないかい?」
まさかのアルフォンスからのお誘いに、セシリアとしても気が気ではない。
(これはひょっとして……アルフォンスフラグが立ったのかしら!?)
今のところサーシャに誰かとフラグが立った形跡はない。
やはりゲームよりもイケメン度が増したアルフォンスに惹かれたということなのだろうか。
そんな風に考えていたセシリアは、アルフォンスも入れて放課後に三人で散歩をすることにした。
いつものように左側にサーシャがいて……そしてなぜか右側に、アルフォンスがいる。
「ずるいじゃないか、僕をのけ者にするなんて」
「そ、そんなつもりはなかったのですが……」
「わかってるよ、セシリアは優しいもんね」
アルフォンスはそう言うと、キュッとセシリアの手を握った。
「わ、私も負けません!」
するとまるでそれに対抗するように、サーシャがセシリアの手を握る。
(これ……どういう状況!?)
セシリアは脳内に大量の疑問符を抱えながら、二人に手を取られながら歩き出すのであった――。
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