Fランク、探索する
さて、入り口候補が複数となれば、分かれて探索が視野に入る。しかし、誰もそれを提案しなかった。私たちは狙われているからである。モンスターからも人からも。
「んで、どれから行くの?」
「あちらの洞窟は大きな荷物を持った冒険者が入っていったそうです」
「なら、そこから行こう」
何が建造物につながるか手がかりがない。しらみつぶしで回っていく。
「ここは関係なさそう」
洞窟の入り口でノルンが教えてくれた。気配に鋭いローザを見ても首を横に振るので後回しにする。私の魔力察知は熱なら地中のモンスターであまり役に立っていない。ふたりとレオハの鳥が頼りだ。
「それじゃ、ここはどう?」
冒険者証の地図にレオハが共有してくれた目印を元にゴルディが提案してくれた。否定する理由はない。
「うーん、ちょっと違和感あり?」
「じゃあ入ってみよう」
ノルンによればやや違和感ありとのこと。早速中に入ってみると、先ほどの洞窟より濃い気配がする。
「足跡がありますね」
その足跡は複数あり、奥まで続いている。これは冒険者の探索か、それとも建造物の関係者か。
「この洞窟、モンスターが作った跡だ」
「なんでわかったの?」
「これを見て」
洞窟の側面を観察していると、螺旋状に削られた跡が見える。これは『ボルケーノピード』、火山に住むムカデが掘削した痕跡の特徴だ。ただ、人が楽々通れるような大きさとなれば相当の大物が作った証に他ならない。
このような知識はエリンのおかげで楽々集まった。先生様々である。
「それじゃあ、ここは当たりかもね」
ノルンがそう言いながら進んだ先に分かれ道、いや、横穴が掘られていた。
「採掘、というわけではなさそうですね」
「……罠もあるだろうな」
「何か感じる?」
「全然、こっちも相当長いくらい」
明らかに怪しい横穴の方が目的地に近いだろう。他に手がかりもないので進んでいく。
「ん、この先行き止まりに擬装されてる。隠し扉」
ノルンの言う通り、行き着いたのは行き止まりだった。どうやって中に入ろうか。
「扉の開け方とかわかる?」
「機械で管理されてるみたい……そこのでっぱりとか」
確認すると、手形がある。これで認証しているのだろう。
「これだと開けられないか」
「別の入り口を探すしか……」
諦めてきた道を戻ろうとしたその時、遠くから地響きが聞こえる。それは徐々に振動としても、気配としても伝わってくる。
「あー……罠、ってこと?」
ゴルディがそう発言するころには、来た道から大量のムカデが這ってきていた。一体一体の大きさは大したことない……人間よりは大きいが。こちらの感覚に染まってきたかな。
「一応伝えるけど、奥にもウジャウジャね」
「それじゃ、駆け抜ける方がいいか」
「強行突破ね、わかった!」
ゴルディはすぐさま金の雲を作り出してくれる。私は迷わず先頭で盾を構える。全員が乗り込むと、雲は浮かび上がる。瞬間、ひんやりしたものが足元を通り抜ける。
「ひゃっ」
「ご安心ください。此方です。保護します」
ローザが自分の能力でコーティングしてくれる。他人にもコーティングができるようになったのは特訓の成果か。こんなひんやりなんだ。
「なら、あーしも」
「行きますよ!」
ノルンも煤を前方に集め、レオハの合図で突っ込んでいく。ノルンのおかげか、こちらへの反応が鈍いため頭を上げた何匹かを跳ね飛ばすだけで進めている。
跳ねるたびに衝撃はあるが、耐えられないこともない。これなら行けそうだ。
「急カーブする!」
横穴に入ったので、洞窟から出る際に曲がる必要がある。そこで私がモーニングスターを伸ばし、地面に打ちつけることで勢いを保ったまま強引に曲がっていく。この時、ゴルディが風魔法でムカデを退かしてくれた。ナイスアシスト!
「! 奥から親分出てくる!!」
「牽制を……!」
「レオハ、再加速! ゴルディは後ろに爆発を!!」
ローザが背後に向かって串を放つ。親分の姿を一目見ようと振り返る。首が真後ろまで回る違和感で首と身体の関係を再認識しつつ、洞窟と同じ大きさの巨大ムカデが勢いよく迫る姿が見える。胴体を壁に擦りながら、他のムカデを押しつぶし迫ってくる。
「これでも喰らえ!」
「まずい! 入り口……」
ゴルディの魔法が炸裂すると同時にノルンが爆音に遮られながら何かを言った。爆風を受けさらに加速する私たち、正面の何かにぶつかった。とんでもない衝撃だったがなんとか踏ん張った結果、突き破る感覚と共に外に飛び出す。勢いよく投げ出され宙に舞う私たち。
「みんな、衝撃に……」
「追撃くるよ!」
落下しながらみんなの無事を確認しようとした時、ゴルディの叫びで洞窟から大量に火の玉が飛んできたことに気づく。
盾を構えて防御態勢を取る中、だんだんと全員の距離が離れていく。このままでは、バラバラになってしまう。
「アンタが受け止めなさい!」
「え、ちょ——」
ノルンはそう叫びながら煤を使って飛んでくる。そして、私を掴み地面へと思い切り投げた。飛んでくる火の玉はローザとゴルディが迎撃してくれる。これなら、私は着地に専念できる。
地面に向かって思い切りモーニングスターを伸ばし、ぶつける。鉄球は地面に少しめり込んだ。魔力を流し込み、柄や鎖ごと魔力で動かないようにし、まるで地面から一本の棒が伸びているかのように固定する。そして、足で滑りながら勢いを殺し着地に成功する。
「ゴルディ!」
次はゴルディに向かってモーニングスターを伸ばす。ゴルディが掴んだのを確認し、一気に引き寄せ、全身で受け止める。あと三人、間に合うか。
「レオ……」
三人は地面から街灯一本分ほどの高さに迫っていた。これでは全員を受け止められない。そんな状況で、私は迷わずレオハの落下地点に駆け寄り、こちらも全身で受け止める。ローザとノルンは、軽く浮いて着地に成功する。ふたりなら大丈夫だと信じてた。ふぅ、よかった……。
「て、敵は?」
「おそらく地中から来るかと。迎撃態勢を」
ほっと一息……する暇もなさそうだ。
こんなことになるなら、みんなを抱えて斜面を一直線に進めばよかった。盾にこびりついたムカデの足と体液を見て余計にそう思う。入り口を塞いだのは間違いなくムカデであり、火の玉を飛ばしてきたのもムカデ。私たちを的確に狙う、こんな行動をするのは——。
「真下! 散開!!」
地響きと共に他の火山や地中で蠢く魔力とは比べものにならない巨大な魔力が競り上がってきた。全員が飛び退くと、巨大なムカデが地面を食い破って現れる。
「侵入者、始末する」
「……嘘でしょ」
「なんと面妖な」
「スッゴイムカつく……!」
全員の顔から血の気が引いた。巨大ムカデの額にこべりついた、人の顔のような突起。それが口をきいたのだ。ムカデは何者かに操られているからこその行動だと推理し、それは当たっていた。だが、これは予想外だ。
「強敵です。森へ逃げることを提案します」
「わたしも逃げに賛成です」
ローザが即座に提案し、レオハも賛同する。ローザがこんなに早く逃げを提案するなんて。
巨大ヘビと戦った時を思い出す。あの時より、自分は強くなった。だからこそ、目の前のムカデがあのヘビより体も魔力も強大な存在であることがわかる。逃げ切れるかはわからないが、立ち向かうよりはマシだ。
「森を逃げるのに固まると隙を生みます、目的地までバラバラに逃げましょう」
「うん、わかった」
「……わかったわ」
ゴルディもノルンも賛成してくれた。ノルンは悔しさが滲み出ており、そこには勝てない悔しさの他にもある気がした。ノルンが勝てないと思うほどの敵、逃げ切れるだろうか。
「逃がさない」
湧いて出てくるムカデ、巨大ムカデも口から火の玉……いや、溶岩の塊を吐き出そうとしてくる。それは先ほどの火の玉よりはるかに大きく、人間を楽々覆うことができるほどだ。
「全員死ぬんじゃないわよ!」
縁起でもないことを叫びながら、ノルンは私たちを覆い隠すほど大量の煤を生み出す。さながら煙幕のようだ。ムカデは溶岩はためらいなく放つが、煤の力で細かい居場所が察知できなかったのだろう、誰か一人を狙った攻撃にならなかった。しかし、飛び散った溶岩が雨のように襲いかかる。みんなの無事を祈りながら、私は盾をかぶるようにして全力で走った。
小型ムカデは森に入ってもしつこく追ってくる。木を避け枝を折り根っこをまたぐ、森を逃げるのは困難だ。その分、視認性が悪いので、一度撒いてしまえば逃げ切れる。そこまで踏ん張るしかない……そう思っていた。
「逃がさない!」
私の考えは甘かった。巨大ムカデは巨体で森に道を作りながら私たちが走るより早く猛進し、回り込む動きを見せる。そこを起点に操った小型ムカデを広げてくるだろう。
追ってきているムカデと挟み撃ちにされる、ピンチである。が、巨大ムカデは理知的ゆえにミスを犯した。先ほどまでとは異なる手段……。それを選んだ理由に心当たりがある。
この挟み撃ちさえ潜り抜ければ、ムカデの負けだ。




