釣鐘村
鐘は囁く――次はお前だと
男の厄年は、二十四歳、四十一歳、六十歳と続く。
ただ、ほとんど知られていないが、十三歳もまた、れっきとした厄年なのである。
清田崇は、その事実を骨の髄まで理解していた。二十四歳の秋、村から届いた分厚い封筒を開けた瞬間、崇の背筋を冷たい汗が伝った。
手紙には簡潔にこう記されていた。
「今年の厄落としに、参加されたし」
かつての記憶が、水底からゆっくりと蘇った。あれは十一年前、十三歳の秋だった。同い年の少年が十五人、白装束に身を包み、村の広場に集められた。
大きな釣鐘――それは人の背丈の倍はあろうかという鉄の巨塊で、村に古くから伝わる「厄受けの鐘」と呼ばれていた。
その下を、ぐるぐると回りながら歩いた。念仏ともお経ともつかぬ、低く淀んだ声が村中に響き渡る。少年たちはその声を合わせ、足を揃えて歩いた。
誰もが青ざめ、唇を震わせながら。
やがて、鐘がゆっくりと傾き、地面に落ちた。重低音が大地を震わせ、埃が舞い上がった。鐘は二度と持ち上がらない。
それは人の力では到底動かせぬ代物だった。中に閉じ込められた少年の名を、誰も口にしなかった。
ただ一人、厄を背負い、永遠にそこに佇むことが決まっただけだ。
残った十四人は、厄を逃れた。崇もその一人だった。そして今、再び。村は祭りのように賑わっている。
提灯が揺れ、太鼓が鳴り、しかしそのすべてが、どこか歪で不吉な響きを帯びていた。
崇は白装束に着替え、広場へ向かった。そこには自分を含め十二人の同年の男たちが集まっていた。
参加を拒んだ二人の家は、すでに村から完全に絶縁されていた。そうなると親類縁者も村では生きていけない。参加は、絶対だった。
十一年前に落ちた古い鐘は、そのままの位置に鎮座していた。表面は赤茶色の錆に覆われ、まるで血を吸ったように黒ずんでいる。
中には、あの日の少年が――まだ生きているのか、死んでいるのか――厄を一人で背負い続けているはずだ。
新しい鐘が、縄で吊るされ、準備されていた。再び、あの淀んだ声が村中に満ちた。
十二人の男たちは、知った顔同士で互いの目を見交わしながら、古い鐘と新しい鐘の間を、ぐるぐると歩き始めた。
足音が揃うたび、恐怖が胸の奥で渦を巻く。崇は隣を歩く晋太郎の横顔を見た。晋太郎は幼なじみで、昔から無口で、しかし優しい男だった。
声が、徐々に高まる。空気が重くなる。そして――鈍い、しかし決定的な金属音が響いた。
新しい鐘が、晋太郎の真上に落ちた。
地面が震え、埃が舞い、晋太郎の短い叫び声が途中で途切れた。鐘は完璧に地面に据わり、二度と動く気配はなかった。
崇は立ち尽くした。隣にいたはずの男の体温が、忽然と消えていた。
古い鐘と新しい鐘が、並んで鎮座している。錆びた過去と、血の匂いのする現在。村の男たちは静かに頭を垂れ、念仏を続けた。
誰も晋太郎の名を呼ばない。ただ、次の厄年を待つだけだ。崇は震える手で自分の白装束の袖を握りしめた。
次は四十一歳。
そのとき、鐘の下にいるのは、自分かもしれない。村の闇は深く、鐘の影は年を重ねるごとに長く、冷たくなる。
崇は悟った。
これは厄を落とす儀式などではない。
生き残った者たちに、いつか自分が鐘の下敷きになる恐怖を、ゆっくりと味わわせるための、村の呪いなのだと。
そしてその呪いは、決して解けることはない。 崇の視線の先で、二つの鐘が、まるで次の獲物を待つように、静かに佇んでいた。
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