第一話
ーーガタンーー
倉庫の閂を溝に乱暴に落としたような音と共に目が開く。
「…なんだ、今のは夢か。」
昨日、寝る直前まで読んでいた本たちが、枕元から崩れ落ちたらしく、床に散乱している。
寝起きの体を起こし本を散乱した本を拾い集めていると、起きているのに気づいたのか、一階から突き抜けて母の透き通るような声が響いている。
「早く起きて、ご飯食べないと」
母の声を聞き、床と梯子を軋ませ、礼拝の時に覚えた讃美歌をハミングしながら、一階に降りる。
「いつもより起きるのが遅いわね、カイ」
傍から聞けばいつものトーン、だがこれは怒っている、そう直感した。
降りてくると、最初に呆れた顔で何か言いたげにパンを頬張っていり、口をモゴモゴさせている。
自分の食欲に誘導されるように、机の上に目をやると自分の席にご飯が置いてないではないか。
「お母さん、ご飯…」
と困った顔をして見せた。
「寝坊したんだから、自分で用意しなさい」
呆れた顔で答えた。
「はぁい」と小さく呟きパンやサラダなどを盛った皿を机に持って行った。
「昨日の夜からずっとお母さん不機嫌なんだからしっかりしなさい」
と姉、イザベルが金色の髪をかきあげながら小さく囁いた。
そういえばなんで昨日の夜からお母さん不機嫌だろう、そう思考を巡らせながら毎朝日課のサラダを食べる。
何か違和感を感じるが、前の様な、そうおもちゃが神隠しにあったようにその違和感の正体に気づけない。
また讃美歌をハミングし始めると、母が木皿を台所に打ち付けるように、「ゴン」と乱暴に置いた。
そんな母を見ていたベルは見てはいけない物を見てしまったように、目線はすぐに引き返して、目線を僕に向けた。
母がこんなふうに怒る時は大抵、父が何かをやらかした時位で、ここまで怒っているのだから、相当なことを父はしたのだろう、と引き攣った顔のベルを見ながら考えた。
そういえば…と、目線を右横にやると、机の真ん中にいつも朝から騒いでいる男がいないのじゃないか。
違和感の正体がわかったところで疑問ができた。
「なんであいついないの?ベル」
と小さく耳打ちをした。
「それが昨日都市に行ったきり、帰ってこないのよ」
やっと気づいたか、と言わんばかりの呆れ顔になりながらベルは答えたが、それは僕に向けての物ではないと感じた。
「えぇ…」
と返して、帰って来た時に起こることを予想すると身震いがした。
少年カイ・ワトソン8歳でも理解した。
父はどうせ、友達と酒でも飲んで、女と遊んでいたりするのだろうと。
僕はベルに眉を顰めながら質問した、答えは知っているが。
「父さん大丈夫かな?」
もちろんそれは身の安全とかではなく、帰ってきた時の話である。
そもそも父は元々王国の騎士団長だったから、身の心配をすることはまず無い、だから母も疑いなく怒っている。
おそらくベルも質問を聞いて父が帰ってきた時のことを考えたのだろう。
ベルが不適な笑みを浮かべながら答えた。
「大丈夫だと思う?」
早く帰って来てくれと思うのと反面帰って来たらと思うと憂鬱な気持ちになった、だが、問題は早く解決したほうがいいとも考えた。
「早く帰ってきてくれ…」
心の中で愚かな父に救いのお祈りをした。
機嫌が悪いことは滅多にない母だが、機嫌が悪いといつもは優しく注意ぐらいで済むものが、この世の終わりのようなことになってしまう。
そのため、なるべく母の注意を引かないように、食後は母から逃げるように、ベルと一緒に書斎で本を読み、飽きたら外で遊び、父が帰ってくるまで時間を潰していた。
朝から時間が経ち、日が暮れ始めた頃ベルと花に水やりをしていた時、一本の畦道の遠くから白と黒の馬車馬が馬車を引いているのが見えた。
ベルはその馬車を見て眉を顰めて、「父さん」と呟く。
もちろん父が帰ってきて嬉しいが母が怒ると考えると嬉しさが半減してしまう。
元々軍人だったのにどうしてこんなだらしのない人になってしまったのだろうか、今は子供の反面教師の様になってしまっている。
「ただいま、いい子にしてたか?」とは満面の笑みで問いかけて来た。
「ええ、父さん」と答えるが。
家で龍、いや魔王よりも強い人が待っていることを教えるべきなのか迷っていた、しかしつい先程、外で花に水やりをしている時に、ベルが久しぶりに痛い目を見てもらわないといけないのかもしれないと結論づけたとこで二人の中では考えは固まっていた。
「父さん、お母さんが待ってるから、けどね、おか…」
「おぉ!そうだな早く会わないと!」と溌剌とベルの一応の忠告を初めから遮りながら答えた、その勢いのまま、父は玄関扉を開けた。
あぁ、終わった。
愚かな父を見ているのはなんとも悲しくなった。
「ただいま!」
この返事に「おかえりなさい」と定型文を言いながら温かく迎えてくれる最愛の妻はいなかった。
「椅子に座りなさい」と裁縫針を置きながら、ゴミを見る様な目で言う妻、いや魔王がいた。
この魔王は魔法こそ使えないが、1番強いと思われる方だ。
流石の父も状況が分かった様で、先程とは打って変わって、動きに五月蠅くなくなり、静かに椅子を引いて座った。
ここで母から「あなた達はもう遅いから寝なさい」と魔王から告げられた為、二人で梯子の為に空いている床から丁度父が座っている場所が見えるため、寝不足覚悟で戦場となっている一階を見下ろした。
父はまるで魔王の玉座の前で膝を折る勇者のようだった。
父は敵兵が尋問されているかの様な緊張感の中、問い詰められ続けていた。
何故遅れたのか、何故早く連絡しなかったのかなどなど噴火した山の様に怒りと共に勢いのまま言葉が沸き出てきている様だった。
父が「だって、、」などと言い訳を言おうものなら、母の噴火はさらにグツグツと煮えたぎり、うちの魔王から聞いたことないぐらい罵詈雑言を浴びせた。
結果は当然父は無事撃沈した。
全く穏やかではない休日になったがまぁこれはこれでいいだろう。明日は学校だし、早く寝ようとベッドに潜った、今朝見た夢と同じ日であった、この頃正夢が続いている。
読んでくださりありがとうございます!
記念すべき1話目です、かなり慎重に書いたつもりなんですが意見や感想、改善点などあれば教えて欲しいです。
今日の20時10分程に投稿します、ぜひ見てください!
なるべく毎日更新をしていく所存です…
またブックマーク、コメント、評価、リアクションを良ければお願いします。
ー追記ー
見やすくする為文章を変えました。




