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お兄様とお姉様にお話をよく聞いて、学園に入学した。学園は寮に入らずに、公爵家から毎日馬車で通うことにした。わたしの設定が病弱で外に出ることができないっていうのだから、寮には入れないぐらい病弱設定にしてあるのだ。
あ、名前は学園にいる間はサンディじゃなくなった。まぁ生まれた時に登録してあった、名前を使うしかない。ノーチェという。夜っていう意味だと聞いた。そんなに真っ黒で生まれた娘を嫌っていたんだなって今更に思うが、夜は嫌いじゃない。
髪も目も明るい色になってしまったので、見た目ノーチェではなくなってしまったのだけど、猫目の美少女だから、それはそれでいいか。人は自分が見たいように見るんだしね。
びっくりするぐらいの猫目の美少女でノーチェという使ったことのない名前で、コスプレした人が役になりきるような感じでいってみよう。擬態は昔から上手いのだ。
「ごきげんよう。アルマ様、お久しぶりです。」
「お久しぶりです。今から入学式にご出席でございますか?」
「ええ、今日からノーチェでいきますので、よろしくお願いいたします。」
「まぁノーチェ様は、公爵家の外に出たこともないほどの病弱な次女様ということですね。」
アルマ様が扇子で口元を隠しながらも笑う。そうだよね。アルマ様はドレスと装飾品のブティックのお得意様の子爵家のご令嬢だ。お店で何度もサンディとして会ってきている。
今回の経緯も知っているので、病弱設定が笑えるのだろう。
「ノーチェ様、さぁ。ご一緒いたしましょう。入学式の会場は向こうのホールみたいですよ。」
「アルマ様はお詳しいのですね。ではご一緒に。」
学園は王立と冠名がつくほどの立派な学園で、敷地も広いし建物も立派だ。
制服もあるけど、ドレスを着ている人も多い。わたしは面倒だから制服派だ。毎日どのドレスを着ようかとか悩むのが嫌だ。公爵家では専用の侍女もいて、いつでもドレスで着飾りましょうと待ち構えているので、怖いのだ。生まれてきてから15年お気楽な服しか着ていないのに、毎日ドレスはキツイ。
制服があるんだから、制服でいいじゃない。
アルマ様はドレスだ。それもうちで購入してくださったものだ。公爵家のドレスをリフォームしたものだから、質は良い。ごてごてした華美な装飾は外しているので、入学式にもぴったり?
似合っているからそれでいい。
アルマ様とホールに行くまでの小道を歩く。学園の中なのに緑が多い。一人だと迷子になりそうだ。ホールに近づくにつれ、人も多くなってくる。アルマ様以外にも男爵家のニナ様も今回の経緯を知っている方だ。会えるかな。ニナ様。
「ノーチェ様、ここが会場ですわ。お好きな席に座って良いみたいですね。」
「アルマ様とご一緒で心強いですわ。」
「まぁ、わたくしも、ノーチェ様とご一緒できて光栄ですわ。」
ふふふ。ほほほ。という感じでお互い微笑みあい、席に着いた。どうだ。ちゃんと淑女に擬態できているであろう。ちょっと頑張っている。
入学式は新入生代表の挨拶と在校生代表の挨拶等と先生のお話で終わった。挨拶はあんまり聞いていないけど、先生の話では、クラス分けは外に張り出されているそうだ。事前に入学試験があった。あれかな、能力別っていうやつ?
アルマ様とご一緒にクラス分けを見に行くと、なんとAクラスだった。え!?なんで?家庭教師に学んだのは1年ぐらいなのに?学園に行くって決まってから、最低限は勉強しとかないと後しんどいよって言われて、公爵家に通って少し勉強したんだよね。その最低限のレベルだったのに。何故にAクラス?
「まぁノーチェ様はさすがAクラスですね。わたくしは残念ながらBクラスですわ。」
「えー。そんなぁ。」
「ノーチェ様、サンディ様になってしまわれていますよ。」
アルマ様は小さな声で笑いながら嗜めてくださった。せっかくのお友達のアルマ様とご一緒できないとは。
「ノーチェ様、ランチはご一緒できますわよ。ニナ様もお誘いして3人でランチ行きましょうか。」
「あ、アルマ様!とても嬉しく存じます。是非ご一緒してくださいませ。」
「では、ランチの時にお誘いにいきますので、また、後ほど。ごきげんよう。」
「ごきげんよう。」
アルマ様とお別れして、一人寂しくAクラスに行く。寂しいね。いくつになっても、友達のいないクラス分けの最初の1歩はどきどきする。
友だちはアルマ様とニナ様がいるから、後はいじめられなければいいんだけど。
どこに座ろうかと悩んでいたら、煌びやかなお人たちがいる。高位貴族様でしょうか。あ、わたしも公爵家だから高位なんだけど、病弱設定で誰とも会ったことがないということで、誰も知らない。どうしようかな。煌びやかな人たちが先に席に座ってくれるとありがたい。そこを避けて座れるからね。
隣に大人しそうな女の子がわたしと一緒でどこに座ろうか思案していたけど、二人で残った席に着けた。やれやれ。
「みんな、座ったかー。担任のアルノ・カールトだ。錬金術の担当だ。紙を渡すから、自分が受けたい講義名を書いて1週間後に提出すること。1週間各講義は授業を覗けるからいろいろ試してみるのがいいぞ。」
先生がそう言うと、少し教室がざわついたが、お試しで教室を見て回れるのは楽しみだ。同じクラスで回る必要もなさそうだし、一人でゆっくり回ってみようか。
後、簡単な自己紹介があったけど、煌びやかな人たちは、第三王子殿下とその仲間たちみたいだった。綺麗なお嬢様方もいて、王子殿下お1人と側近らしき人たちが3人、綺麗なお嬢様方が人3といった7人でグループを作っていらっしゃるようだ。わたしには関係ないけどね。
ただ、わたしが自己紹介した時に、ざわっときた。『幻の病弱な公爵家の末っ子か』『ドブスだからずっと隠していたって言っていたの誰だよ』『想像していたより美人だぞ』とか、つぶやきがあちこちで聞こえた。わたしは幻か、つちのこか。まぁお披露目もなくずっと引っ込んでいたという設定だものね。珍しさも慣れたらなくなるだろう。
ちょっとわたしについて皆が騒いだことで、煌びやか7人組が眉をしかめていらっしゃる。自分たちがいつでも話題の中心にいないとダメなタイプか。面倒だな。でも、今回だけだ。あとはじっと潜むつもりだからね。
そんなこと考えていたら。わたしの後、隅っこの方に座っていた彼が自己紹介したら、話題を全部攫って行った。
彼グレイ・ホスターは遠目では黒目黒髪に見えた。ひそひそと『呪われている子が一緒だなんて』と顔をしかめているご令嬢がいたりする。彼は呪われているのに、15歳までちゃんと生かしてもらっているんだなって、変なところで感心した。顔はなかなか男前。黒目黒髪なんて前世の記憶を持っているわたしからすれば懐かしい。彼は遠巻きにされていたけど、いつかちょっとお話してみたいなと思った。
ランチの時間、アルマ様とニナ様がお誘いに来てくれたので、そそくさと教室を出ていく。
「ノーチェ様、ランチは1階の食堂でよろしいでしょうか?公爵家なら2階のサロンに使わるのですか?」
「1階がいいですね。サロンの方はまだまだ緊張いたしますので。」
「では、3人で1階の食堂へ行きましょう。」
アルマ様ははきはきしているし頭も良い見た目は美人だ。ン?頭が良いのは知っている。もしかしてクラス決めの試験、Aクラスにならないように実力を落としたのかも。子爵家で高位貴族ばかりのAクラスにいるのは精神的にきついかもしれない。
ニナ様はぽやぽやしている。天然さん。ひたすら可愛い。わたしとアルマ様の癒しである。ブティックで初めてあった時、同じ年だとわからなかった。
アルマ様はお姉さんに見えたし、ニナ様は年下に見えたしね。
二人方すれば、わたしは男の子に見えただろう。髪が伸びるまで男性の服でお店に出入りしていたからね。
女子としてはキツイ系のこの顔も、男子とすればきりりとしたカッコよい顔と褒められるのだ。
3人で食堂に辿り着くと自分でトレーを持って並ぶカフェテリア形式だった。学生っぽくて良いね。
「ノーチェ様はどうされますの?」
「最初だからAランチにしようと思っています。順番に食べていこうかなと。」
「まぁ。ではわたくしはBランチにしましょうか。ニナ様は如何されます?」
「わたしは、チーズケーキが食べたいです。」
「いきなりデザートでございますか。お食事は?」
「お母様の目がない、学食。好きなものを食べることができるのです。チーズケーキとイチゴケーキにしたいです。」
「よろしいのですか?」
「ええ、大丈夫です。朝も夜もしっかりバランスよく食べるようにしていますので、学園に通っているお昼だけは好きにしようと思っていたのです。」
目を輝かせて断言するニナ様は可愛いから、それでいいか。お腹が減ればまた明日以降考えればいいしね。それに今日、初日の午後は講義を決めるため授業見に行くだけだものね。
「ノーチェ様は何を学ばれるか決められました?」
「わたしは、薬草学と錬金術と魔法の初級と、できれば神様について学びたいと思っています。」
「薬草学に錬金術ですか。公爵家のご令嬢が学ぶにしては珍しいかもしれないですね。魔法の初級はわたくしも学ぼうと思っているところです。あと、神様でございますか。神学はあったかと思います。こちらも珍しいものを。わたくしは、マナーとダンスと刺繍を選択しようかと思っておりますの。」
「薬草学と錬金術は昔、少し教えていただいたことがあるのですが、もう少し学びたくて。魔法も基礎しか学んでいませんので。神様については、神学というものがあるんですね。是非、学びたいです。大きな声では言えませんが、いくつかの神様から加護も頂いています。このことについても知りたいのです。」
「ノーチェ様、ご加護を!なんて素晴らしい!」
「に、ニナ様、もう少し小さな声でお願いします。」
ケーキを幸せそうに頬張りながら目を見開いて興奮したニナ様の声だったけど、入学式初日とあって、食堂を使用する人が少なかったので、その声を意識する人はいなかったようだ。ちょっとほっとした。まだ神様からの加護は珍しいとされているのだ。
「あ、すみません。あまりにも素晴らしいことをお聞きしたので。びっくりしましたわ。」
「ニナ様、そのお話はまた3人だけのところでしましょう。」
「ええ、そうしましょう。楽しみにしています。」
「ノーチェ様は今日の午後はどちらへ?」
「まったく予想のつかないルーンの授業がどんな内容なのか知りたいですが、今日は初日なので、図書室を見に行こうかと思っているところです。」
「まぁそうなのですね。わたくしとニナ様は二人で刺繍の授業を見に行く予定です。」
「では、明日もよろしくお願いしますね。」
アルマ様とニナ様とお別れして、一人で図書室へ足を運ぶ。学園へ通う一番の目的といってもいいぐらい。本たくさん読みたいな。




