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シスターズアルカディアSideC-妖獣ハイスクール物語-  作者: 藤本零二
第1章~妖狐のプライド~
3/15

第2話「高校デビューへ向けて」

*


 ヨウ兄と姉妹達とのデートが終わり、ボクとアカリちゃんも無事ヨウ兄との“相棒パートナー”契約出来て、さらにはボク達の処女(初めて)もヨウ兄に捧げられた(この辺りの経緯は本編の方を読んでね♪)、そんな日の翌日、6月2日の日曜日。


 ヨウ兄の最後のデートが終わったその日の夜、マイカ姉達との夜の営みの前に、陽恵はるえ母さんがやって来て、一度ボク達全員を“ワールドフラワレス”のイツキちゃんの屋敷の居間に集めた。

 そこで、ボク達が何処の世界の学校に通うかの最終確認を行った。



 まず、“ワールドアクア”のヨウ兄とカズヒちゃんの学校に通うのは、イツキちゃん、ハルカちゃん、ツキヒちゃん、セイラちゃん(飛び級制度が無いので『成人化』して通うそうだ)、レイヤちゃん、ヒカリちゃん、ユエちゃん、ユナちゃん、ヒナちゃん。


 そして“ワールドシルヴァネア”のマイカ姉達の学校に通うのは、マコトちゃんとモトコちゃん。


 最後に、“ワールドアイラン”の妖獣高校に通うのは、ボクことアキラと、アカリちゃん、キョウカちゃん、リンちゃん、ノゾミちゃん、ショウちゃん、アキホちゃん。


 サクヤ姉とカナン姉は学校に通わずに、“ワールドアイラン”の“喫茶妖獣メイド”で、メイドのレイさんと一緒にアルバイトをするそうだ(お金に関しては気にしなくていいと陽恵はるえ母さんが言ったのだが、社会勉強にもなるからと言って陽恵はるえ母さんを認めさせた)。



 皆の通う学校が決まったところで、すぐに編入出来る、というわけでは当然ない。

 学校に編入するには、一週間後、つまり6月10日の月曜日に編入試験があり、それに合格出来れば、最短で17日の月曜日から学校に通うことが出来るとのこと(日程がそれぞれの学校で全く同じなのは偶然だそうだ)。



 というわけで、ボク達は翌日3日の月曜日から編入試験のための猛勉強が始まった(一応、ヨウ兄とデートしてない日にも少しは勉強してたけどね)。


 今日は妖獣高校に行く予定の七人で、“ワールドアイラン”の屋敷に集まって筆記試験の勉強をしていた。

 


 妖獣高校の編入試験は、実技試験と筆記試験がある。

 それに加えてキョウカちゃんとリンちゃんは飛び級となるので妖力測定も必要となる。


 妖力は年齢と共に成長し、成人する歳、だいたい18歳前後で最大値となる。

 なので、妖獣ごとに年齢による平均妖力というのが設定されていて、飛び級する際には、飛び級する年齢(今回は16歳~17歳)の平均妖力を超えていなければ、飛び級が認められない。

 とはいえ、キョウカちゃんとリンちゃんに関して言えば、その妖力は現時点でボクやノゾミちゃんよりも遥かに高い(キスによるパワーアップとかの影響もあるだろうけど、あの病弱だったリンちゃんがボクよりも強くなってるなんて感慨深いものがあるよ…)ので、飛び級は難なく認められるハズだ。



 そして実技試験は、主に妖術の扱いや、威力、命中制度なんかを測るものらしいけど、この点に関しても、実戦経験のあるボクらからすれば大した難関ではなく、合格点は貰えるだろう、とのこと。

 心配なのはアキホちゃんとアカリちゃんくらいで、二人は前世が魔人(魔獣)で、転生してから魔人(魔獣)と妖獣のハーフとなったから妖力の扱いに慣れてないみたいだけど、ショウちゃんに妖力の扱い方を習って猛特訓中みたいだから、こちらも多分大丈夫だろう。



 最大の問題は、筆記試験なのだ。

 妖獣高校の編入試験では、実技試験がほとんどメインで、筆記試験は点数で言えば六、七割程度の点数が取れていれば問題なく合格出来る、とのことだが、その六、七割がボクにとっては鬼門なのだ。



 ボク達クローン姉妹は、生まれた時に、自分達の生まれた状況や言語、基礎教養などは予め脳にDLダウンロードされているため、最低限の計算力や漢字の読み書き、歴史などの知識はある(ボク達転生者には前世で得た知識もあるしね)。


 しかし、それだけで筆記試験が受かれば苦労はしない。

 それら基礎教養を使った応用問題となると、ただ知識があるだけではダメで、それ以前にボクの場合は、



「ねぇ~、ノゾミちゃ~ん、ここはどうすればいいんだっけー?」


「それは解の公式を使えばいいだけの基本問題でしょーが…」


「うぇ…?あ、本当だ…」



 その基礎からしてよく理解していないのだ。

 知識があるのと、実際にその知識を使えるというのは、また別問題なのだ。


 ちなみに、ノゾミちゃんとショウちゃんとアキホちゃんは、自身の勉強をしながらも、残りの四人の勉強をみられるくらいには余裕があった。


 とはいえ、ボクだって、一般的に暗記科目と言われる社会系や理科の生物系、国語の漢字や熟語などを答えるといった問題はなんとかなりそうだけど、数学や物理化学系は難儀しそうだ…

 と、そんなことを先日、数学が得意なカズヒちゃんに言ったら、



「何言ってるの?数学だって暗記科目だよ」



 という答えが返ってきた。



「大学以降の答えが分からない、答えを導く必要がある超高等数学はさすがにそうはいかないけど、

 高校までの数学は、答えが分かってる、答えがある数学なんだから、公式と解き方さえ覚えてしまえば、後はそこに数を当てはめていくだけの単純作業なんだから楽勝だよ」



 カズヒちゃん、他の科目に関してはボクより悪い代わりに、数学だけ無駄にずば抜けてるから、言ってることは正しいのかもしれないけど、その公式や解き方のパターンを満遍なく覚えるという作業が大変なのだ…(逆にそこまでの暗記力がありながら、何故それを他の科目で活かせないのか謎だ。ヨウ兄曰く、興味のあるなしの問題だと言うが…)



 いや、愚痴ってても仕方がないな。

 ノゾミちゃん達と同じ高校に通うためにも、勉強頑張らないと!

 それに、本当に大変なのは飛び級試験を受けるキョウカちゃんとリンちゃん、それとほぼ生まれたばかりのアカリちゃんだろう。

 学年が違うからといって、筆記試験の内容が変わるわけじゃないし、アカリちゃんに至ってはほぼ生まれたばかりで、勉強に関してはボク以上に大変、



「おおっ!解けたぞ!ノゾミ姉ぇ、教え方上手だぞ!!」


「そんなことないよ、キョウカが頑張ったからよ!よく出来ました♪」


「えへへ♪」


「リンも出来たにゃー!ショウねーね、教えてくれてありがとにゃ!」


「どういたしましてニャ。

 ご褒美に約束通りぱふぱふしてあげるニャ♪」


「わーい!!やったにゃー!!

 ショウねーねのおっぱい気持ちいいにゃ~♪」


「ボクも、出来ました、合ってますか、アキホ姉たん?」


「うん!大正解!

 これならアカリちゃんも試験は問題なさそうね♪」


「はい!ありがとう、ございます!」



 …あれ?

 ひょっとして大丈夫じゃないの、僕だけ……?



「…アキラ?ボーッとこっち見てるけど、さっきの問題解けたの?」


「え?あ、えっと…、いや、まだ、だけど……」


「もう、しっかりやんなさいよ?

 まだ一週間あるとはいえ、アンタの場合は余裕かましてる暇は無いんだからね?」


「…はい、ごもっともです」



 うぅ…、皆の前ではカッコいいボクでいたいのに、一人だけ筆記試験不合格は、さすがにカッコ悪すぎる…

 そうならないためにも、今は本気で集中しないと…っ!



「そうだ!アキラねーねにも何かご褒美があったらやる気が出るんじゃないかにゃ?」



 ショウちゃんのおっぱいに後頭部をあずけながら(曰くおっぱい枕と言うらしい)、リンちゃんがそんな提案をしてきた。



「ああ!それはいいかもしれないニャ!」



 リンちゃんにご褒美をあげている側のショウちゃんも、その話に乗ってきた。



「ご褒美って…、私かアキホがアキラにぱふぱふしてあげるってこと?」


「私はいいですよ!アキラちゃんにならぱふぱふしてあげます!!むしろ、してください!!」


「たっ、確かにそれは魅力的…、じゃなくて!

 どうせご褒美なら、ボクはヨウ兄から貰いたいな~」


「出たにゃ、甘えん坊モードのアキラねーねだにゃ」


「甘えん坊モードのアキラ姉ぇはカワイ過ぎて、あに様が暴走モードに入るくらいだからな~…」


「あっ、甘えん坊モードって…、ぼ、ボクそこまで甘えてないもん!!」


「いやいやいやいやいや、それはさすがに言い訳が過ぎるぞ」


「あれで、甘えてない、は、さすがに、無理がある、と思います」



 キョウカちゃんとアカリちゃんから全否定された。



「私、甘えん坊モード全開のアキラを見たことないから、見てみたいわね」


「自分もニャ」


「わ、私もぜひ!というか私に甘えて下さい!!」



 さっきからアキホちゃんの圧が強いっ!



「そ、そんなことより!ボクのご褒美の話だよ!

 ボクが勉強頑張ったら、ヨウ兄からご褒美貰えるって話!」


「いや、まだヨウイチからご褒美が出るとは一言も言ってないけどね」


「というか、ヨウイチちゃんニャら、合格祝いとかでウチら全員にご褒美用意してくれてるんじゃないかニャ?」


「ほっ、本当に!?」


「いや、分かんニャいけど…」


「ヨウ兄からのご褒美っ!!うぉおおおおっ!!燃えてきたよぉおおおおおっ!!」



 ヨウ兄からご褒美が貰えるとなると、俄然勉強にも身が入る。



「…まぁ、本人がやる気になってるならいっか」


「ヨウイチちゃんにはウチらの方からも一応言っておこうかニャ…」


「アキラねーねには何としても合格して欲しいからにゃ~…」


「さすがに自分達だけ受かってアキラ姉ぇだけ不合格というのは悲しすぎるぞ」



 そんな感じで、それからの一週間は勉強に次ぐ勉強の日々だった。

 時折、ヨウ兄やイツキちゃん、それにツキヒちゃんやレイヤちゃん、マイカ姉といった頭のいい家族きょうだいからの指導もあったりして、ボクの成績はみるみる伸びていった。



 そして、試験前々日の土曜日には、ヨウ兄達の用意した模擬試験(実際の試験より少し難易度高めに作ったものらしい)で、無事合格点を取れた!



「…うん、これなら問題ないだろう。

 後は本番で実力を出せるかどうか、だな!」


「任せてよ、ヨウ兄!ボクが本番に強いの知ってるでしょ?」


「ああ、そうだな。

 それと、気が早いが、合格した後のご褒美に何が欲しいかも考えておけよ?」


「え、本当にご褒美くれるの!?」


「ああ、勿論。

 …と言っても、さすがに何でもってわけにはいかないけどな、俺に出来る範囲で、」


「ボクが欲しいのはヨウ兄だよ!」


「…って、俺!?」


「うん!ボクと一日二人っきりで過ごしてくれたらそれで十分!」



 転生してから、ボクとヨウ兄が二人きりになったことはない。

 前世でも、リン(スズネ)ちゃんと三人だったり、レイヤ(ツキヤ)ちゃんやノゾミ(イザヨイ)ちゃんとの四人だったりということがほとんどだったし。


 皆と一緒にいるのが嫌いなわけじゃなくて、むしろボクは大勢でいることは好きな方だ。

 だけど、たまにはヨウ兄と二人っきりになりたいこともある。

 …特に、ヨウ兄と両思いになって、ヨウ兄と結ばれてからは、より一層その想いが強くなってる。


 とはいえ、他の姉妹達を差し置いてとか、抜け駆けしたいとか、そういうわけじゃない。

 他の皆だって、少なからずボクと同じ想いを抱いているハズだから。



「ツキヒ姉ちゃんからも同じようなこと言われたな~」


「あー、やっぱりそうだよね!

 ヨウ兄は本当にモテモテだよね~!」


「ただのシスコンなんだけどな。

 まぁ、他にも俺と一日二人だけで、っていう姉妹もいるかもだし、その場合は皆で順番とかを話し合ってお互いに納得のいく形で決めて欲しいな、難しいことだとは思うけど…」


「それは大丈夫だよ!

 ボク達はヨウ兄のことも好きだけど、他の姉妹の皆のことだって大好きなんだから!」



 同じ男性ひとを好きになった姉妹同士なんだもん、嫌いになんかなれるわけがない。



「分かった。

 まぁ、何はともあれ、まずは編入試験に合格しないとな!」


「もっちろんだよ!」


「よし!じゃあ、明後日の試験に向けて、明日はゆっくりと休め。

 前日にバタバタしてもいいことは無いからな、勉強は軽い復習程度に済ませて、頭も体もゆっくりと休めるんだぞ?」


「了解!」



 ヨウ兄に言われた通り、試験前日の日曜日はゆっくりと休み、睡眠時間もバッチリとって、万全の体調で試験当日を迎えることが出来た。




*


 国立妖獣大学付属北九州女子高等学校、というのがボク達の受ける高校の正式名称だ。

 場所は小倉こくらの中心部辺り、モノレールの駅沿いにある。


 基本、この世界の学校は、人、妖獣、魔人など関係なく通える一般の学校と、霊能力者を育成するための専門学校や、ボク達の通おうとしている妖獣を育成するための専門学校がある。

 それら専門学校を出た生徒達は、後に世界を守るための自衛組織などへの就職が優遇されることになるらしい。



 試験は午前中に筆記試験、午後に実技試験(飛び級組のキョウカちゃんとリンちゃんはここで妖力測定を行うことになる)となっている。

 ちなみに、実技試験は全員同じ会場で行うので、他の人の実技を見学することが出来る。


 筆記試験に関しては…、うん、多分大丈夫、だと思う……

 時間いっぱい使って、名前の書き忘れや回答欄のズレがないかどうかの確認まできっちりとやったので、問題はない、ハズ……



「大丈夫よ、アキラ!

 この一週間しっかり勉強したんだから!」



 そう言って励ましてくれるノゾミちゃん。



「う、うん…」


「ともかく、午後からの実技試験に備えましょ!

 …と言っても、実技試験に関して言えば、アキラよりも私の方が危ないんだけどね……」


「そんなことはないと思うけどな~」



 そんな風にノゾミちゃんは心配していたが、確かに妖力だけでいえば、ボク達の中ではアキホちゃんに次いでノゾミちゃんが低い方ではあるが、それでも一般レベルからするとかなり高い水準だと思うし、妖力が高くてもそれを使いこなせる技術があるかどうかはまた別の話だしね。

 というか、比較対照にキョウカちゃんやリンちゃん、それにショウちゃんという規格外な子達が多過ぎるのだ。


 実際、妖力測定を終えたキョウカちゃんとリンちゃんに、結果がどうだったか聞いてみると、



「リンは測定計が9999ってなって、オーバーSランクだって言われたにゃ」


「自分は測定計壊しちゃって測定不可って言われたぞ」



 妖力を表すのに、妖力ランクというものがあり、一番上をAランクとし、平均がCランク、一番下がFランクで、ごく稀に存在する規格外の妖力を持つ人をSランクとして格付けしている(ちなみに、後日、ボク達の妖力測定を行ったところ、ボクとアカリちゃんはAランクで、ノゾミちゃんとアキホちゃんがBランク、ショウちゃんがSランクだった)。


 Sランクで規格外なのに、リンちゃんはさらにその上のオーバーSランク、キョウカちゃんに至っては測定不可って、規格外の中でも規格外過ぎる…

 恐らくこの時点で、筆記試験や実技試験の結果に関係なくキョウカちゃんとリンちゃんは合格だろう(さすがにオーバーSランク以上の二人を入学させないのは学校側としても惜しいだろうし)。


 ちなみに、この妖力ランクというのは年齢ごとに変わるもので、分かりやすく説明するなら、7歳のAランク相当の妖力で、おおよそ17歳のCランク相当の妖力になる。

 なので、仮に7歳でAランクの妖力を持っていたとしても、その後17歳になって妖力が変わらなければCランクになってしまう、ということだ(まぁ、そういう事例は滅多にないらしく、普通はずっとそのランクを維持し続けるか、多少の前後はしても、大きくランク変動することはないという)。


 そして、キョウカちゃんとリンちゃんのランクは17歳の平均妖力をCランクとして計算されたランクだ。

 二人の年齢を考えれば、妖力の伸び代はまだまだあるハズなので、そう考えると末恐ろしいな…



 話を戻そう。



 実技試験に不安を感じていたノゾミちゃんを励ましながら、ボク達は実技試験の行われる会場へと向かった。


 会場は校内にある施設で、運動場の端にある、テニスコートくらいの広さの空間が三つある区画だった。

 それぞれの空間は、特殊な繊維で編まれた防護網で区切られており、通常の妖術や武器なんかでは一切傷付けられないという(ヨウ兄がボク達のために作ってくれた特殊な戦闘スーツに使われている素材と同じらしい)。

 普段は主に戦闘訓練などで使われる“戦闘場”となっているようだ。



 三つの戦闘場の内、二つを使って行われる試験が、術の命中精度を問う試験と、術の威力を問う試験となっていて、大雑把に言うなら前者が遠距離攻撃の精度、後者が術師の純粋な戦闘技能を問う試験と言えるかな。

 試験内容は毎回変わるらしく、今回は遠距離攻撃が得意な術師に若干有利な内容となっている。



 試験官である“妖狐ようこ”の女性の先生が、試験の説明を始めた(ちなみに、編入試験を受けるのはボク達姉妹以外にも何人かいた)。



「では、これより実技試験を行います。

 まず最初の試験では、妖術の命中精度をみさせていただきます。

 あちら、コートの奥に数の書かれた、動く大小の的がランダムで出現しますので、遠距離攻撃用の妖術を使ってそれらの的を破壊してください。

 制限時間は三分です。

 その間に放った術の数と破壊された的の数、そして破壊された的に書かれた数などから点数を決めます。

 一つ、注意事項としては、的に書かれた数には負の数もあり、その的を破壊した場合は減点となりますのでご注意くださいね」



「…ノゾミちゃん、負の数って何だっけ?」


「嘘でしょ、アキラ、筆記試験終えたと同時に覚えたこと全部忘れたの…?」



 先生に聞こえないよう小声でノゾミちゃんに質問したら、ノゾミちゃんからゴミを見るような目で見られた…(でも、その後で「負の数ってのはマイナスの数のことよ」とちゃんと教えてくれた)



 ともかく、この試験でやることは、コートの端から、反対側にランダムで出てくる大小の的を、遠距離攻撃用の妖術で破壊していけばいいということ、ただしマイナスの数が書かれた的は破壊しちゃダメ、ってことだ!



「では、受験番号1番の方からどうぞ」



 試験官に言われて、“妖犬ようけん”の少女がコートの端に立った。

 合図と同時に、少女の反対側のコート端に大小の的がランダムで現れた(恐らく“妖狸ようり”の扱う固有妖術『幻影』で作られた的だろう)。


 “妖犬ようけん”の少女は次々と術を放って的を破壊していくが、かなり苦戦しているようで、命中率は六割から七割といったところか?

 マイナスの的も、数個間違って破壊していた。


 そもそも“妖犬ようけん”は接近戦が得意な妖獣だから、遠距離攻撃を苦手としていても仕方がなく、この命中率自体はむしろ良い方だと思う。

 ちなみに、“妖狐ようこ”は主に遠距離攻撃が得意で、“妖狸ようり”は『幻影』『幻覚』を駆使したトリッキーな戦法が得意、そして“妖猫ようびょう”は状況に応じて戦い方を変えるオールラウンダーな種族だ。

 勿論、例外や個人差もあるし、“猫又ねこまた”や“九尾きゅうび”などの進化種族はまた違ってくるし、キョウカちゃんのような“銀毛ぎんもう九尾きゅうび”ともなるとそういった常識は一切通じない。



 そんな感じで試験は進み、いよいよボク達姉妹の番となった。



「では続いて受験番号9番の方」


「はい、です!」



 最初はアカリちゃんだ。

 ボク達姉妹の順番は、アカリちゃん、アキホちゃん、ボク、キョウカちゃん、ショウちゃん、ノゾミちゃん、リンちゃんとなっている(皆名字が同じなので、名前の五十音順だ)。



(アカリちゃん、頑張れ!)



 試験なので、大声で応援するわけにはいかないので、小声で声援を送る。


 ちなみに、今のアカリちゃんの姿は、犬耳に、犬の尻尾を生やした“妖犬ようけん”姿だ。

 本来の戦闘スタイルでは、尻尾は魔獣ジラスのものが生えるのだが、ヨウ兄とのエッチ、というかヨウ兄の精液を体内に取り込んだことで、ヨウ兄の加護が使えるようになり、呪術を使って尻尾の見た目やらを変えられるようになったらしい(セイラちゃんの開発した呪術『人化』の応用らしい、詳しくは分かんないけど)。


 実は、ボクもそれを使って露出している肌の機械部品とかを隠せるらしいのだが、それはボクの美学に反するのでしていない。

 ボクはありのままでいく!

 ただ、そのせいで、生体金属で作られたボクの犬耳に、試験官の先生が「人間が“妖犬ようけん”のフリをしているのでは?」と疑ってきたけど、妖力や、犬の尻尾は生身のままだったので、ボクが本物の“妖犬ようけん”だと信じてもらえた(生体金属はこの世界に無い技術だけど、間にダイダロさんが入って色々説明してくれたらしい。ダイダロさん、何気にこの世界ではそれなりの力を持った人らしいけど詳しくは教えてくれなかった…)。



「では、始めてください!」



 合図と同時に、コートの反対側にいくつもの的が現れた。

 それらに向けて、アカリちゃんが妖術を放った。



「『風刃ふうじんそう』っ!」



 ボクとアカリちゃんは“妖犬ようけん”なので、いわゆる“風雷の妖術使い”と呼ばれ、風と雷の属性の妖術の使い手だ。

 基本的には、風や雷を拳や伸ばした爪に乗せたりしての接近戦を行うが、『風刃爪ふうじんそう』や『雷刃爪らいじんそう』は、遠くへ飛ばすことも出来る。


 アカリちゃんは『風刃爪ふうじんそう』を飛ばして、的を攻撃していく。

 その精度はかなりのもので、九割近くの的を破壊し、なおかつマイナスの的は一つも破壊しなかった。


 とても“妖犬ようけん”らしからぬその正確さに、他の受験生達は驚きを隠せていなかった。



「はい、そこまで!」


「ありがとう、ございます!」



 ペコリとお辞儀をして帰って来るアカリちゃんは、うまくいったという顔をしていた。



「良かったよ、アカリちゃん!」



 そんなアカリちゃんに、ボクは小声で賞賛の声を送ると、アカリちゃんからも「はい!」と小声で返ってきた。



「では続いて受験番号10番の方」


「はい!」



 次はアキホちゃんだ。


 アキホちゃんは、ショウちゃん(“妖猫ようびょう”と魔人のハーフ)のクローンであり、魔獣ガモスのコアを埋め込まれた合成獣キメラでもある。

 ショウちゃんのクローンではあるけど、肉体的な違いとして、ショウちゃんは猫耳に魔人の尻尾が生えているけど、アキホちゃんは猫耳に猫の尻尾という、パッと見ではハーフとは分からない見た目をしている(もう一つの見た目の違いとして、背中の羽が魔人のものか、ガモスのものかという違いもあるが、二人とも普段は羽を隠している)。

 何故尻尾が違うのかは定かではないが、どちらでも普段の生活に支障は無いので、特に気にしていないようだ。



 そんなアキホちゃんの試験内容だが、アカリちゃん同様特に何の問題もなくこなしていた。



「では続いて受験番号11番の方」


「はい!」



 そして、いよいよボクの番だ。

 ボクはコートの端のライン手前に立ち、開始の合図を待った。



「始め!」



 合図と同時に、コートの反対側にランダムで的が出現したので、ボクは、



「『雷刃爪らいじんそう』っ!!」



 雷の爪を同時にいくつも飛ばして、全ての的を破壊した。

 マイナスとか関係なく、全て、だ。



「細かい調整は苦手だからね。

 だから、マイナスを補えるだけの点数を稼ぐ!」



 出現した的に、百発百中で術を命中させ、全ての的を破壊していく。

 アカリちゃんとは正反対の大雑把なやり方ではあるが、術を外しさえしなければ、多少マイナス的で減点されようとも問題は無いハズだ。



「はい、そこまで!」


「ありがとうございます!」



 結局、ボクは全ての的を正確に百発百中で破壊して終わった。



「まったく、アキラちゃんらしいやり方だニャ~」



 控え席に帰ってくると、小声でショウちゃんにそんな風に言われた。



「では続いて受験番号12番の方」


「はいだぞ!」



 続いてはキョウカちゃんの番だったんだけど、キョウカちゃんは試験開始と同時に、普段は一本だけを出している尻尾を、本来の九本に戻し、その九本の尻尾の先端から『雷刃獄炎弾らいじんごくえんだん』を放ち、的を正確に、しかもマイナス以外の全てを破壊した。



「そ、そこまで!」


「ありがとうございまーす!」



 文句なしの百点満点の結果に、さすがの試験官も驚きを隠せていなかった。

 キョウカちゃんは、他の受験生達もドン引く程の実力を見せたのだ。



「キョウカねーねスゴいにゃ!リンも負けてられないにゃ!!」



 そんなキョウカちゃんに対し、リンちゃんが対抗意識を燃やしていた。

 まぁ、今いるメンバーの中でキョウカちゃんにまともに対抗出来るのはリンちゃんくらいだろうからね~…



「で、では続いて受験番号13番の方」


「はいだニャ♪」



 続くショウちゃんも、キョウカちゃん程の派手さはなかったものの、マイナス以外の全ての的を百発百中で破壊し、またも試験官を驚かせていた。

 後に知ったところでは、この試験で満点を取った者は過去にも数える程しかいないらしく、かなり難易度の高い試験なのだそうだ。


 ちなみに、ショウちゃんは魔人とのハーフであることを隠しておらず、尻尾だけは元の魔人のままで試験を受けていた(一応、ショウちゃんもヨウ兄の加護があるので、尻尾を猫のものに変えることも出来た)。



「え、えーっと、続いて受験番号14番の方」


「はい!」



 続いては“妖狐ようこ”のノゾミちゃん。

 実技が苦手だと弱音を吐いていたノゾミちゃんではあるが、正確さを求めるこの試験に関しては然程問題なくこなし、マイナス以外の八割から九割の的を破壊して終了した。



「では、続いて受験番号15番の方」


「はいにゃ!」



 最後はリンちゃん。

 リンちゃんは、人間と“妖猫ようびょう”のハーフでありながら、“猫又ねこまた”になれる特異な例だ。

 その妖力は先程も言った通り、規格外中の規格外なのだが、その実力もスゴかった。



 開始の合図と同時にリンちゃんは右手を頭上に掲げると、



「いっくにゃー!!『水竜降来すいりゅうこうらい』っ!!」



 そう叫んで、水の竜を生み出すと、その竜を自在に操ってマイナス以外の的を次々と破壊していった。

 そして、たった一発の術で全ての的を破壊してしまったのだ。



「な…っ、こっ、こんなことって…!?」



 この事態に、試験官の先生が何度目かの驚きの表情を見せていた。



「おおぅ…、リンちゃんやるじゃニャいか…!」


「まさか『水竜降来すいりゅうこうらい』にこんな使い方があったなんて…!?」


「は、初めてみたよ、あんな使い方…!」



 驚いたのは先生だけでなく、ボクやノゾミちゃんも同じで、特に同じ“妖猫ようびょう”のショウちゃんは、顔にこそ出していないけど、かなり驚いているようだ。



「『水竜降来すいりゅうこうらい』はある程度、誘導が出来る術ではあるんだニャ。

 だから、ウチも逃げる敵を相手に使うことはあるけど、あそこまで自由自在に動かすことは出来ないのニャ…」


「ショウ姉さんでも無理なんですか?」


「無理だニャ。

 まず三分も同じ術を維持し続けること自体が異常だニャ…」


「おおー!!リン、スゴいぞー!!」


「リン姉たん、スゴい、ですっ!!」



 百個の的を百発の術で仕留めるだけでもスゴいのに、リンちゃんはたった一発の術でそれをやってみせた…

 100点満点のテストで150点を取るようなものだ。

 改めてボクの姉妹達はスゴい子達揃いだと実感した…



「では、次の試験に移りますので、皆さん隣のコートへ移動してください」



 気を取り直した試験官の先生の誘導で、ボク達は隣のコートへと移動した。



「…皆スゴいな……、やっぱり私なんかじゃ無理だったのかな……」



 移動する途中、ボク達の力を見て、受験番号1番の“妖犬ようけん”の女の子が、不安げな顔をしていたので、ボクは思わずその子に声をかけていた。



「ねぇ君、大丈夫?」


「え、あ、あなたは…、」


「ボクの名前はアキラだよ、よろしくね!」


「あ、よ、よろしく…」


「君の術、見てたけど、スゴくキレイな術だったね!」


「あ、ありがとうございます…

 でも、ミスショットも多かったですし、他の皆さんのようには、」


「そんなことないよ!

 ボクら“妖犬ようけん”は元々近接戦闘が得意な種族だから、苦手な分野であれだけ出来れば十分だと思うよ!

 ボクなんて、力業で押しきっただけだし!」


「あ、それは見てました!

 スゴく豪快な人だなーって…」


「あはは、まぁね!

 えーっと、だからさ、他の人のことは気にせず、君は君の実力を十分に発揮すればいいと思うんだ!

 そうすれば、君だってきっと合格出来るよ!」


「そ、そうでしょうか…?」


「うん!一緒に合格して、一緒に学校通おうね!」


「あ…、は、はい!ありがとうございます!」



 うん、どうやら元気が出たみたいで良かった!


 そうしてボク達は次の試験が行われる隣のコートへとやって来た。




*


「うん!一緒に合格して、一緒に学校通おうね!」


「あ…、は、はい!ありがとうございます!」



 アキラが、落ち込みかけていた“妖犬ようけん”の女の子に声をかけて励ましていた。



「さすがアキラちゃん、イケメンだニャ~♪」


「普段は意識してカッコよく見せようとしてるけど、あの子、何気に無意識でイケメンムーブやることあるから困るのよね…」



 私こと、ノゾミは、アキラとは前世からの付き合いで、あの子のお節介癖とかは知ってたけど…



「そのせいで、変な親衛隊が出来たりしたこともあってね」


「ニャるほどニャ~

 ということは、あの子はその第1号になりそうだニャ~」



 ショウの言う通り、アキラに励まされた子は、頬を染めて恋する乙女の顔になっていた。



「本人にその気もなく、全く気付いてないというのがね…」


「どっかで聞いたような話だニャ~♪」


「ヨウイチもヨウイチなら、アキラもアキラ。

 ある意味、お似合いよね」



 そんなことを話しながら、私達は次の試験が行われる隣のコートへと移動するのでした。




*


「えー、では、続いての試験では、皆さんの術の威力をみさせていただきます。

 見て分かると思いますが、コートの向かい側に半径3メートル、そして厚さが3メートルの、特殊な素材で作られた的がありますので、その的に向けて術を一発だけ放ってください。

 術は、遠距離攻撃用でも、近接戦闘用でも、何でもいいです、皆さんの一番得意な術で構いません。

 その的に与えたダメージで、得点をつけます。

 ダメージ計算は特殊な機械で行っており、具体的な算出方法は言えませんが、主に的の表面や削った深さ、ヒビの入り方などを元に計算します」



 次の試験は術の威力テストだ。

 要は得意な術で、あのでっかい的を破壊すればいいわけだ。



「では、受験番号1番の方からどうぞ」


「はい!」



 さっきまで元気を無くしていた“妖犬ようけん”の女の子だったけど、今はスゴく良い顔をしてる!

 これなら高得点が期待できるのでは?



「では…、いきます!!

 『雷華豪風拳らいかごうふうけん』っ!!」



 “妖犬ようけん”が使える妖術の中でも、最強クラスの術である『雷華豪風拳らいかごうふうけん』は、敵の足下から雷の檻(上から見ると花のように見える)を出現させて敵を閉じ込め、身動きとれなくさせたところへ、竜巻を右腕に纏わせながら強烈なパンチを食らわせる術だ。


 的を捕らえた雷の華が、的の周囲から中心へと向けてヒビを入れていく。

 そして、的の中心めがけて“妖犬ようけん”の女の子が駆けていき、竜巻を乗せた拳で思いっきり的の中心を殴った。


 的の中心には半径1メートル、一番深い所で約30センチメートル程のクレーターが出来た。



「こっ、これは…っ!?」


「ま、マジで…!?」


「す、すげぇ…っ!!」



 その結果に、試験官の先生や他の受験生達が驚きの声をあげた。

 そして、当の本人も、予想以上の結果だったらしく、大声をあげて喜んでいた。



「やった!!やりましたよー、アキラさんっ!!」



 そして、ボクの方を向いて指で“Vサイン”をしてきたので、ボクもお返しに“サムズアップ”をすると、その子はにっこりと微笑んで戻ってきた。



「…あの子、また頬染めてたニャ」


「完っ全に落ちたわね…」


「ん?ショウちゃんとノゾミはちゃんは何の話をしてるの?」


「「いや、別にー」」


「?」



 気になったけど、今は試験中なのでそれ以上は聞けなかった。



 それから、新しい的が用意されては、次々と他の受験生が術を放っていくが、半径数センチメートルの穴を開けるだけで精一杯という感じだった。

 後に聞いたところによれば、この的は世界一硬い鉱石に、さらに妖術や霊能力、魔術なんかを使って、より強度を高めた鉱石らしく、深さ10センチメートルの穴を開けるだけでもAランク以上の実力が必要なのだとか。

 とはいえ、妖力があるだけでは当然ダメで、その妖力をいかに集中させて術に込められるかとか、無駄に妖力が分散していないかとか、色々とあるので、Aランク相当だからといって的に穴を開けられるわけでもなく、逆にCランクであってもやりようによっては的に穴を開けられる、これはそんな戦闘技術やセンスを問う試験なのだ。


 

 それからボク達姉妹の順番となるが、アカリちゃんで半径1メートル、深さ20センチメートル程のクレーター、アキホちゃんで半径50センチメートル、深さ20センチメートル程のクレーターしか作れなかった。

 あの“妖犬ようけん”の女の子、術の威力に関しては、ボクら姉妹に匹敵するだけの力を秘めてるわけだ。



「あの的、スゴく固かった…、です…」


「くぅ~っ!魔術でならもっと大きな穴開けられるのに…っ!!」


「アキホちゃん、それはさすがに反則だニャ」



 アカリちゃんやアキホちゃんは元々魔力の使い手だから、当然、魔術の方が扱いやすいため、妖術よりは魔術で攻撃した方が確かにより大きな穴を開けることが出来るだろう。

 でも、今は妖獣学校への編入試験の場であるため、あくまで妖術で実技試験を受けなければならない。


 悔しがる二人ではあったけど、試験の結果としては十分以上の結果を出している。

 こうなると、ボクも負けてられないな…!



「えー、では受験番号11番の方どうぞ」


「はい!!」



 新しい的が用意されたのを確認し、コートの端に立ったボク。



「せめてアキホちゃんやアカリちゃんよりは大きな穴を開けなきゃね…!」



 ボクは妖力を右手と両足に集中させていく。

 雷を纏わせた両足で地面を踏み込み、音速を越えた速さで的へと突っ込み、妖力を込めた拳で的の中央を一転突破する!



「『雷速風雷拳らいそくふうらいけん』ッ!!」



 ドゴンッ!!と鈍い音がするより先に、ボクの身体は的の中心を通り抜けて、その背後に立っていた。



「かっ、貫通したっ!?」


「厚さ3メートルのあの的を…っ!?」


「なっ、何なの今の術!?」


「あの子何をしたの!?」


「かっ、カッコいい…!さすがはアキラさん…♪」



 背後で試験官や他の受験生達の驚きの声が聞こえてきたけど、ボクとしてはそれどころじゃなかった。



(ぐぁああああっ!?痛い痛い痛いっ!!

 この的メチャクチャ硬すぎっ!!右手が痛いよぉおおおおっ!!)



 妖力を纏った拳であっても、痛いものは痛いっ!!

 だけど、ここで痛がってしまってはせっかくカッコよく決めたのが台無しになってしまう!


 ボクは泣き叫びたいのを必死に我慢しながら、平気なフリをして待機席へと戻っていくのだった。




*


「あの子、痛いのメチャクチャ我慢してるわね…」



 『雷速風雷拳らいそくふうらいけん』で的の中心を貫通したアキラが、平気そうな顔をしながらこちらへと戻ってきていたが、付き合いの長い私には、あの子がやせ我慢しているのに気付いていた。



「アキラ姉たん、スゴい、です!!」


「おおおおっ…!自分も燃えてきてぞっ!!」


「さすがはアキラねーねだにゃ!」



 年少組はアキラのド派手なパフォーマンスに目をキラキラさせていた。



「今の術は、アキラちゃんのオリジナルかニャ?」



 一方、冷静に観察していたショウが、ノゾミに尋ねてきた。

 敵同士だった前世とは違い、今は血の繋がった姉妹であるため、隠す必要もないので、私は素直に答えた。



「ええ、あれはアキラのオリジナル術である『雷速風雷拳らいそくふうらいけん』。

 その名の通り、超加速で相手に近付き、雷と風を纏わせた拳で相手を攻撃する単純明快な術よ」


「アキラちゃんらしい術だニャ~…

 でも、単純な術ではあるけど、制御が難しそうな術だニャ」


「そうね、ショウの言う通り、あの術は誰でも真似出来るけど、望んだ結果を得るには相当な訓練が必要になるわね」



 私達妖獣は、二つの属性の術を操ることが出来る。

 基本は一つの属性の術を交互に扱うような戦闘スタイルになるが、術師のレベルが上がっていくと、二つの属性を組み合わせた術を扱えるようになっていく(『雷華豪風拳らいかごうふうけん』や『雷刃獄炎弾らいじんごくえんだん』などだ)。


 『雷速風雷拳らいそくふうらいけん』も、雷と風の二つの属性を組み合わせた()()()術ではあるが、雷のごとき速さで相手に突撃するというとんでもない術であるため、まともな術師であれば加速した瞬間に、その速さに対応出来ず、術の制御を失って見当違いの方向に吹き飛ばされていってしまう。

 ヨウイチやハルカ、ヒナ達の“雷化”は、自身を雷と同一化することで、行動だけでなく、思考も加速させるため、加速中であっても、普段と同じレベルで行動が可能となるわけだが、雷の妖術による加速ではそうはならず、生身で音速を超えるスピードにさらされることになるので、いくら術師と言えどただではすまない(風の妖術による加速レベルであれば、どんな術師でも制御可能だろうが)。


 雷速だけでも制御が難しいのに、その上アキラは拳でも雷と風の妖力を制御して攻撃しているため、さらに難易度が増している。

 故に、『雷速風雷拳らいそくふうらいけん』は誰にでも真似の出来る術ではあるが、その制御は誰にも真似出来ない超々精密な調整が必要となる、アキラだけのオリジナル術となっている。



「でも、あの大雑把なアキラちゃんがあんニャに正確に妖力を制御出来るなんて意外だったニャ~」


「アキラからしてみれば、そんな自覚はないのかもね」


「どういう意味ニャ?」


「あの子、なんとなくであの術を使ってると思うわ」


「ニャんとニャく!?」


「うん、細かい理論とか無視して、自分の感覚だけで使ってると思うの。

 まぁ、いわゆる天才ってやつね、あまり認めたくはないけど…」


「ニャ~…、やっぱりヨウイチ(サウ)ちゃんのパーティはとんでもない連中ばかりだニャ…

 前世の時に君達とやりあって、毎回生き残れたのが不思議なくらいだニャ…」


「それはこちらのセリフよ。

 というか、お互いに本気は出してなかったでしょ?」


「…まぁ、それはそうニャんだけど……」


「やっぱりね。

 あなた達が本気なら、ヨウイチ(サウ)アキラ(サキ)はまだしも、私達(ツキヤとイザヨイ)はきっと生き残れてなかったわ」


「それはどうだかニャ?

 見た感じ、ウチはノゾミちゃんにはまだ秘められた力があるように感じてるんだけどニャ」


「私に?ないない、そんなの無いわよ。

 私は正真正銘、普通…、よりは少し妖力の高い“妖狐ようこ”の女の子よ」


「…ま、こういうのは本人に自覚がニャいものニャのかもしれニャいニャ」


「ニャが多過ぎて、何て言ったのかよく聞き取れなかったんだけど?」


「ニャはは、こっちの話だニャ!

 ニャ!次はキョウカちゃんの番だニャ!

 キョウカちゃんがどんな結果を見せてくれるのか楽しみだニャ♪」



 結局、私達の話はそれまでとなり、再び皆の試験を見守ることとなった。




*


 キョウカちゃんの試験内容は、文字通りその場にいた全員の顎を外すくらいにとんでもない結果だった。



「いっくぞーっ!!」



 そう叫ぶと同時に、『“九尾きゅうび”化』させたキョウカちゃんの両腕と両足、そして九本の尻尾が銀色に染まっていく。



「なっ、あ、あれは…!?」


「ま、まさかあの子、」


「“銀毛ぎんもう九尾きゅうび”っ!?」



 この時点で、ボク達以外のその場にいた全員が驚きの声をあげる。



「ちょっ、キョ、キョウカ!?

 さすがに試験でそこまでしたらマズっ、」



 慌ててノゾミちゃんが、キョウカちゃんに声をかけるが、時すでに遅し、キョウカちゃんは最強の術を放った。



「『炎竜牙水爪風刃雷咆波えんりゅうがすいそうふうじんらいほうは』っ!!」



 掟破りの四属性混合妖術は、巨大な的に直撃すると、一瞬にして蒸発させ、跡形も無くなくなってしまった。



「「「「「……ッ!?」」」」」



 ボク達を含めて、その場の全員が、驚きのあまり何も言えなくなっていた。



「ありゃりゃ?的が無くなっちゃったぞ?

 この場合どうなるんだ??」



 当の本人は何事もなかったかのようにそう言っていたが、キョウカちゃん的には、的を破壊することで点数になると思っていたようで、的を蒸発させてしまったら点数にならないのではないかと思ったらしい。

 だが、勿論そんなことはなく、キョウカちゃんの点数はぶっちぎりで最高得点だろう。



「まったく…、少しは手加減しなさいよキョウカ…」



 待機席へ帰ってきたキョウカちゃんに、そう声をかけるノゾミちゃんに対し、キョウカちゃんがこう答えた。



「うーん、これでも結構手加減したつもりだったんだぞ?」


「え?」



 あ、あれで手加減してた、だと…?

 まぁ、確かにボク達妖獣は、人間形態より、妖獣形態の方が力は出せる(某マンガ作品に出てくるサ○ヤ人みたいなものだ)から、そういう意味では本気を出していないとは言えるけど…



「手加減してあの威力なの!?」


「うん」


「確かに、キョウカねーねが本気出したら、多分この場にいるリン達も無事では済んでないにゃ」


「キョウカ姉たんの、本気は、あんなものじゃ、ない、です…」



 ジラスだった頃に、キョウカちゃんにやられたトラウマが蘇ったのか、アカリちゃんがぶるぶると震えている。



「本当に末恐ろしい妹だニャ…」


「でも、ある意味でキョウカちゃんが妹で良かったよ。

 万が一にも敵対するようなことがあったりしたら、ボク達じゃどうしようもないし…」



 さて、その後の試験の内容だけど、キョウカちゃん程の派手さはなかったものの、ショウちゃんとリンちゃんが共に的を粉々に破壊し、ノゾミちゃんは半径1メートルで深さが1メートル程という、かなり大きな穴を開けて終了した。

 ちなみに、この穴開け試験に関してだけでみれば、ノゾミちゃんの成績は、キョウカちゃん、ショウちゃん、リンちゃん、ボクに次ぐ五番目だった。



「ノゾミちゃんやるじゃん!!」


「まぁ、皆のを見れたというのが大きかったわね。

 おかげで、どこにどの程度の力を注いで術を放てばいいのかとかが分析出来たから」


「簡単に言うけど、見ただけでそこまで分析出来る人なんてそうそういないし、

 分析出来たところで、それを実行に移せる人もそうそういないと思うよ?」


「まぁ、それが私の取り柄だしね」



 妖力ランクで劣るノゾミちゃんが、格上相手よりよい成績を出せたのは、ひとえにノゾミちゃんの分析能力と、妖力の扱いの上手さゆえだろう。

 そうした器用さがあったから、前世におけるボク達パーティメンバーの縁の下の力持ち足り得た。

 これで、ノゾミちゃんに妖力がもっとあれば、ボク達の中では一番強い存在になっていたかもしれない。



 とまぁ、そんなこんなで全ての試験が終わり、後は数日後の合格発表を待つだけとなったのでした。

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