第9話「“妖狸”の罠」
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6月22日土曜日、アタシことハルカは“ワールドアイラン”でアルバイトをしていた。
以前にもお世話になった“喫茶妖獣メイド”、そこで週末限定の短期バイトをさせてもらうことになった。
というのも、ここの店主であり元六魔皇でもあるダイダロさんにはキョウカやカナン姉ぇなどの件でお世話になったので、少しでもその恩が返せればいいなという思いと、魔王ヤミとの戦いが終わって、サク姉ぇ達がアルバイトを始めたことで、お客さんが急増し、忙しくなったのでダイダロさんの方から休日だけでも姉妹の誰かにヘルプに入ってもらいたい、という直々のオファーがあったからだ。
そこで、今日はアタシとキョウカ、ノゾミ、そしてレイヤの四人が助っ人アルバイトをすることになった次第だ(ちなみにレイヤはメイドではなく執事コスをしている)。
カナン姉ぇとレイさんはいつも通りシフトに入っているが、サク姉ぇは午後からアニぃ達と何やら大事な話があるということで休みとなっている。
また、本来アルバイトとして働いていた人は、アタシ達が以前この世界に来た時から長期入院していて、まだ復帰出来ていないとのこと。
しかし、元々店主のダイダロさんと、“妖狸”のチーフメイド・ユリコさんと、数人のアルバイトでやりくり出来ていた“喫茶妖獣メイド”だが、サク姉ぇ達の人気のせいで、アタシ達が助っ人に入ってもなお忙しいレベルで繁盛している。
「うぉおおおっ!!今日のバイトさんもべっぴんさん揃いでござるよぉおおっ!?」
「正直サクヤさんが休みと聞いてショックだったでござるが、神対応のノゾミちゃんと、塩対応のハルカちゃんと出会えたことに感謝でござる…っ!!」
「むはーっ!!キョウカたんギザカワユスーっ!!」
「キャーッ!!レイヤさんカッコいいーっ!!」
それに加えて今日に関しては、アタシ達の人気もプラスで大繁盛している。
というか誰が塩対応よ!?
さて、改めてこの喫茶店では、ケモ耳+尻尾にメイド服(もしくは執事服)が基本である。
元々妖獣であるキョウカやノゾミはそのままの姿にメイド服を着用すればいいが、アタシやレイヤ、カナン姉ぇはコスプレ用の耳と尻尾を付けた上でのメイド服着用となっている。
アタシは以前にも着ていた白と赤のデザインのメイド服に、キツネ耳と尻尾の“妖狐”スタイルだ。
そして、本物の“妖狐”であるキョウカは白とオレンジ、ノゾミは白と朱色のメイド服だ。
そして、レイヤは犬耳と尻尾を付けた“妖犬”スタイルの執事服を着用している。
午前中から早くも客が殺到していたのだが、アタシ達のことがSNSで拡散されたりして、お昼になって早くも食材なんかが切れ始めたという。
「ごめん、ハルカちゃん、キョウカちゃん、それにレイヤちゃんとノゾミちゃんも!
今から買い出しに行ってもらっていいかな!?」
チーフメイドのユリコさんがアタシ達四人に買い出しに行って欲しいと言ってきた。
「え、四人もですか?」
「買い出しなら私だけで行きますよ?」
ノゾミが自分一人で行くと言ったのだが、
「ううん、結構荷物多いから一人じゃ大変だと思う。
それに、四人ともお昼休憩まだでしょ?
買い出しのついでに外でご飯食べてきてもいいから!」
「でも、四人も抜けて大丈夫なのか?」
そう尋ねたのはレイヤだ。
確かに、この盛況の中、四人も抜けるのは気が引ける…
「だーいじょうぶよ!
それに、四人がいないとなれば出直す人もいるだろうし、逆にお客さんも落ち着くわよ。
それと、制服は着たままでお願いね!お店の宣伝にもなるから!」
そういうことなら…、とアタシ達は四人で買い出しに出ることになったのだった。
*
「ハル姉ぇとおっでかけ~、だぞ~♪くふふ~♪」
「ちょっとキョウカ?一応これはお使いなんだからね?」
「そんなこと言いつつ、ハルカの顔、満面の笑顔よ?」
ユリコさんに買い物メモとお金を渡されたアタシ達は、お店のすぐ近くにある商店街を歩いていた。
上機嫌なキョウカは、アタシの腕に抱きついて、スキップをしながら鼻歌まで歌っている。
そんなキョウカが可愛すぎて辛い…
「にしても、さすがに見られてるな、オレ達…」
「まぁ、こんな格好だし、仕方がないと言えば仕方がないけど…」
そう、お店の宣伝にもなるということで、メイド服(レイヤは執事服)を着たまま(耳と尻尾もそのままだ)出てきたので、アタシ達はめちゃくちゃに目立っている。
「さっきから視線が痛いわね…」
「仕方がないぞ!ハル姉ぇもノゾミ姉ぇも美人でカワイイし、レイヤ姉ぇもカッコいいもん!!」
「それはキョウカも同じよ、というかアタシのキョウカが一番カワイイわ!!」
「とりあえず、早いとこお使い済ませて戻ろうぜ」
「レイヤに賛成だけど、お昼も済ませてきたら、ってユリコさんに言われてるのよね、どうする?」
「あ~…、どうしようか?」
「キョウカは何か食べたいものある?」
「自分たこ焼きがいいー!!」
「たこ焼きかー…、なら、商店街に持ち帰り専門の店があるし、そこで買って帰って、店の休憩室で食うか?」
「それがいいかもね」
「なら、さっさと買い出し済ませてたこ焼き買いに行きましょう!」
「わーい!やったー!!」
と、行動指針を決めたところで、不意に言い知れぬ違和感を感じた。
「…あれ?なんか、急に周りが静かじゃない……?」
「んん?本当だ!!周りに誰もいなくなってるぞ!?」
「嘘でしょ?さっきまであれだけ買い物客とかいたのに…?」
「いや、買い物客だけじゃねぇ、商店街の店の従業員なんかもいなくなってるぞ!?」
そう、違和感の正体は、突然周りからアタシ達以外の人がいなくなっていたことだ。
「ど、どういうこと!?一体何が…!?」
「こいつはまさか…、『狸結界』か…!?」
『ご名答です』
レイヤの問いに答えたのは、いつの間にかアタシ達の目の前にいた、黒いフードを頭から被った謎の少女だった。
少女だと思ったのは、声が若い女性のものだったのと、身長や体格などからまだ成人してないだろうと思ったからだ。
「てめぇ、こんなことしてオレ達に何か用か?」
『ええ、少しあなた達の実力を試してみたくてこんなことをしました』
レイヤとその少女が睨み合っているスキに、アタシは疑問に思っていたことをノゾミに小声で尋ねた。
「ノゾミ、『狸結界』って?」
「『狸結界』は、“妖狸”が使える特殊妖術の一つよ。
対象の人物を捕らえて、こことは別異相の空間を作り出し閉じ込める術。
規模が大きいものだと、村を丸々一つ作り出して、そこに隠れ住む者達もいる、って話よ…」
「つまり、自分達はアイツに閉じ込められた、ってこと!?」
アタシ達の会話を聞いていたキョウカが思わず大声で叫んだ。
その声が聞こえたのか、フードの少女が答えた。
『ええ、閉じ込めさせていただきました』
「オレ達の力を試したいってことだが、それは何のためだ?
アンタは、オレ達の敵なのか?」
『そうですね、今は敵だと思っていただいて結構です。
そして、あなた達の実力を試す理由ですが、それは…、』
フードの少女が右手を前に出すのに合わせて、フードの影が伸び、そこから多数のゾンビやスケルトンがわき出てきた。
『あなた方が、“新たな魔王”様の、』
「「ギャアアアアアアアアアアっ!?!?お化けぇええええええっ!?!?」」
『ひえっ!?』
フードの少女が何かを言いかけていたが、アタシとノゾミにとってはそれどころじゃなかった。
『ちょっと、何事!?』
「あー、すまねぇ…、ノゾミはお化け系が苦手なんだよ…」
「ハル姉ぇもだぞ…」
『え、そうだったの!?し、知らなかった…』
その時のフードの少女の口調が少し変わっていることなど気にもせず、アタシとノゾミはお互い涙目になって抱き合いながら叫んだ。
「説明はいいから!!キョウカ!さっさとそいつら蹴散らして!!」
「そうよそうよ!!レイヤもとっととその元凶のフード狸をぶちのめして!!」
「やれやれだぞ…」
「まぁ、いいけどさ…」
『な、なんだかごめんなさい…』
こうして、アタシ達は唐突に、謎のフードの“妖狸”に襲われ、戦いを始めることになったのだった。
「ギャアアアアアアアアアアッ!!
こっち来ないでっ!!あっち行ってぇええええええっ!!」
*
と、いうわけで、オレ達は突然現れた“妖狸”の女に襲われているわけだが、奴が繰り出したのはゾンビやスケルトンといったお化けの類い。
幽霊や妖怪といった存在が苦手なハルカとノゾミ(そういやヒナも苦手って言ってたか、意外とオレ達姉妹にもお化けが苦手な奴っているんだな、お化けなんかより余程恐ろしい連中と戦ってきたくせに)は早々に戦線離脱して、戦えるのはオレとキョウカだけ、なんだが。
「そもそも、“妖狸”がお化けの類いを操るなんて話、聞いたことねぇぞ?」
「…ってことは、あれは『幻影』ってこと!?」
キョウカの言う通り、あれは“妖狸”のもう一つの特殊妖術『幻影』である可能性が高い。
「であれば、物理攻撃なんかは無意味、か…?」
『攻撃してきませんか?
では、こちらから攻めさせてもらいますよ!!』
フードの少女が左手を突き出すと、ゾンビやスケルトン達がオレ達に向かって攻めてきた。
あれがただの『幻影』なら、物理的ダメージは受けないハズだが、“妖狸”の三つ目の特殊妖術『幻覚』まで使われると、物理的ダメージを受けたと脳が錯覚して、心理的ダメージを受けることになる。
そのくせ、こちらの攻撃は『幻影』相手には効かないってんだから、“妖狸”を相手にまともに戦うのは不利だ。
「えぇい、迷っていても埒があかねぇ!
ここはキョウカ!一発派手に頼む!!」
「りょーかいだぞ!!」
まともに戦えないなら、こちらもまともじゃない戦い方をすればいい。
それは、圧倒的火力で『幻影』ごと術者を叩きのめす!!
「コォオオオオオオオオオオンッ!!」
キョウカの周囲に、銀色の妖力の渦が巻き起こる。
そして、その渦の中から、周囲の天候すらも操る、伝説クラスのチート生物、銀色の腕と足へと『半妖獣化』した、九本尾の“妖狐”、“銀毛の九尾”となったキョウカの姿があった。
そのキョウカの変化を見て、フードの少女がゾンビ達に指示を出した。
『我が僕達よ!散開しなさい!』
すると、ゾンビ達が四方八方に散らばり、バラバラに散開して距離をとった。
「うわっ!?これじゃ一気に殲滅出来ないぞ!?」
「いや、これが『幻影』なら無視していい!
予定通り術者本人を直接叩けば、」
『言っておきますが、私のゾンビ達は『幻影』ではありませんよ?』
「え?」
すると、相手のスケルトン達数匹が、自らの肋骨を一本ずつ折って、それをブーメランのようにこちらへ向けて投げてきた。
オレとキョウカは咄嗟に腕でそよ骨ブーメランをガードしたが、痛みと同時に、制服の袖が破け、腕に切り傷が入った。
「切り傷が!?」
「レイヤ姉ぇ!痛いぞ、この骨!
血も出てるし、これも『幻影』と『幻覚』なの!?」
「…いや、その可能性もあるが、恐らく、この傷と痛みは『幻影』や『幻覚』じゃねぇ……」
『信じてもらえて良かったです』
「別にアンタを信じたわけじゃねぇよ、オレの戦闘勘がそう告げてるだけだ。
だが、“妖狸”が何故ゾンビやスケルトンを操れるんだ…?」
その疑問の答えに、後ろで震えていたハルカが答えた。
「そいつから、魔力を感じるわ…」
「魔力、だって…?」
「ええ、アタシの中のギラドの核が反応してる…
そいつは、魔術の中でも特殊な魔術、『死霊術』を扱ってる…!」
『死霊術』っていうのは、文字通りゾンビやスケルトン、ゴーストといった死霊を操る特殊魔術で、確か六魔皇のヘラーナって女が得意としてた術だったか。
『ええ、その通り、とはいえ、私の技術はヘラーナ先輩にはまだ及ばないけれど』
「なんで“妖狸”のアンタが、魔術を使えるのか、って聞いても答えてはくれねぇよな?」
『ノーコメントで』
「オッケー、分かった!
だったら、まずはゾンビ連中から叩くしかねぇ!キョウカ!」
「りょーかいだぞ!!」
オレの指示を受けてキョウカが、両手に妖力を収束させる。
「『風刃水竜爪』ッ!!
『雷刃炎竜爪』ッ!!」
キョウカの右手に風の刃を纏った水竜が、左手に雷の刃を纏った炎竜が出現する。
それらの竜をキョウカが操り、四方八方に散ったゾンビやスケルトン達を粉々に砕いていく。
「そりゃああああああああっ!!」
特訓の成果か、竜達は縦横無尽に動き回り、ランダムに動き続けるゾンビ達を追尾しては確実に仕留めていった。
「キョウカ、やるじゃねぇか!
期待はしていたが、ここまで複雑に術を操るなんて、期待以上だ!」
「へへーん♪リンみたいに上手く出来てるかなー!?」
「ああ、バッチリだ!」
編入試験での話を聞いて、アタシも先日リンの術を見せてもらったが、リンは妖力の扱いに長けていて、かなり細かく術を操る技術を持っていた。
対してキョウカは細かい術の扱いが苦手(というかそもそもそんなことする必要も無いくらいに圧倒的な力を持っているわけだが)で、少し前までなら、ここまで繊細な術の使い方は出来なかったハズだ。
「どうやら、ノゾミからかなり厳しい特訓を受けたみたいだな」
『レイヤさん、足下がお留守ですよ?』
直後、オレの影からゾンビが這い出てきて、オレの足首を掴んだ。
「気安く触んじゃねぇっ!!」
オレは咄嗟に足を蹴り上げ、そのゾンビの頭を蹴り飛ばした。
そのせいで、ゾンビの肉片やら血やらがオレの執事制服にかかってしまった。
「あ~あ、これ汚れ落ちんのかな…
後で謝んねぇと…」
なんて思っていると、今度は正面からゾンビが襲ってきたので、制服が汚れるのも覚悟で右手で殴りにいくと、なんとオレの拳はゾンビに当たらず、すり抜けたのだ。
「何っ!?」
そして拳がすり抜けている状態で、ゾンビがオレの右腕を掴み、二の腕に噛み付いてきた。
「痛っ…!?」
その痛みに、オレは膝をつきながら、左手で噛まれた右腕の二の腕を抑えるが、出血は無く、制服にも穴などは開いていなかった。
「これは…、『幻影』に『幻覚』かっ!?」
「な、なんか急に当たらない奴が出てきたぞ!?
なんだコイツら!?」
どうやら、キョウカの方でも、本物に混じって『幻影』の偽物が出てきたようだ。
しかし偽物といっても、痛みは『幻覚』で本物のように感じてしまうから、実に厄介だ…!
『ふふふ、魔術と妖術によるコンビネーション攻撃、気に入ってもらえましたか?』
「ああ、ムカつく程に、な…っ!」
「れっ、レイヤ姉ぇ、どうすればいいんだ!?」
「落ち着け、キョウカ!
『幻覚』による偽のダメージでも受け続ければ、脳が錯覚して、動きに影響が出る!
だから、今は相手の攻撃を避けつつ、好機を見計らって…、」
すると、後ろの方から情けない悲鳴二つが聞こえてきた。
「ひぃいいいいっ!?」
「ちょっ!?なんでコイツら急にアタシらの方に!?」
「あっち行けあっち行けあっち行けぇえええっ!!
って、なんで当たらないの!?幽霊なの!?こいつら幽霊なの!?幽霊でゾンビでスケルトンとか意味分かんないっ!!」
「ギャアアアアアアアアアアッ!?噛まれたッ!?ゾンビに噛まれたッ!?アタシゾンビになっちゃううううううううっ!?!?」
「イヤァアアアアアアッ!!ハルカッ!!気をしっかり持ってっ!!ゾンビなんかになっちゃ嫌だからねッ!?そして私を襲ったりなんかしないでよねッ!?」
全く賑やかなもんだ…
と、ふと一つ気になったことが出てきた。
「…そういや、さっきまでハルカ達には攻撃してなかったのに、なんで急に今になって……?」
ゾンビやスケルトン達の攻撃は、全てオレとキョウカに向かっていて、ハルカとノゾミには一切攻撃をしていなかった。
いや、厳密には攻撃しようとしていたが、ハルカ達の手前で立ち止まって、オレ達の方へ方向転換していた。
なのに今になって突然ハルカ達を襲い始めた…?
いや、違う、ハルカ達に襲いかかってるのは全部『幻影』だ!
その証拠に、ノゾミが『半妖獣化』した爪をがむしゃらに振り回しているが、それら全ての攻撃がすり抜けていたのだ。
そう言えば、戦闘が始まる直前、確かハルカが叫んでたな…?
『こっち来ないでっ!!あっち行ってぇええええええっ!!』
「…なるほど、それならいけるか?」
「レイヤ姉ぇ!何か思い付いたの!?」
「ああ、ちょっと待ってな!」
オレはハルカとノゾミの所へ行って、二人の尻を思いっきり叩いた。
「ひゃんっ!?!?」
「あ痛いっ!?!?ちょっと、レイヤ、何すんの!?」
「ノゾミ!お前の“真紅の六尾”の力の見せ所だぞ!」
「え?」
「“真紅の六尾”も『幻影』に近い術は使えるだろうが!」
「…あ、そうか!」
そのやり取りで分かってくれたノゾミは、ハルカから離れて、妖力を己の中へと集中させた。
「特訓の成果、見せてやれ!」
「ええ…、やってやるわ…っ!!
コォオオオオオオオオオオンッ!!」
ノゾミの周囲に真紅の妖力の渦が巻き起こった。
キョウカの激しい妖力の渦に対し、ノゾミの妖力の渦は静かだった。
そして、渦が収まると、そこには紅い瞳に、真紅の腕と足へと『半妖獣化』した、六本尾の“妖狐”、“深紅の六尾”となったノゾミの姿があった。
特訓によって、VR空間以外でもその力を使えるようになった、ノゾミの真の実力、早速見せてもらうぜ?
「『狐火』!」
ノゾミがそう言うと、周囲が突然暗闇に包まれ、周囲一体に真紅の火の玉がいくつも浮かび上がると、先程までいたゾンビやスケルトン達が土で出来たゴーレムに変化していた。
『ええっ!?なっ、何で私の死霊達がゴーレムに!?』
そう、これこそ“真紅の六尾”が使える特殊妖術『狐火』。
“妖狸”の『幻影』と『幻覚』の効果を同時に引き起こすような術だが、周囲に浮かぶ火の玉の影響で“妖狸”のそれより、遥かに不気味な印象をもたらす。
その『狐火』の効果で、ゾンビ達の見た目をゴーレムに変えてしまえば、こっちのもんだ!
「ほら、ハルカ!今度はお前の出番だぞ!」
「え!?あ、アタシ!?」
「そうだ!お前の霊能力『念動力』で、」
「あ!そういうことね!
ゴーレム達!アタシに従い、そこに止まりなさい!!」
見た目を変えてしまえば、相手がお化けであっても対応出来るんじゃないか、という目論み通り、ハルカの『念動力』がゴーレム達に作用すると、およそ半数程度のゴーレム達が動きを止めた。
『なっ!?私の支配下にある死霊達を操るなんて…!?これがハルカちゃんの『念動力』…!?』
しかし、残りの半数は変わらずに動き続けている。
よし、狙い通りだ!
「キョウカ!今動いてるのが全部『幻影』だ!」
「分かったぞ!この動いてるのだけ避けて、攻撃すればいいんだね!」
「そういうことだ!」
ハルカとノゾミをゾンビ達が襲わなかったのは、ハルカが無意識に『念動力』で指示を出していたからだ。
戦闘が始まる前に叫んだ「こっちに来るな!」「あっちに行け!」という『念動力』による命令を受けて、ゾンビ達はノゾミ達への攻撃をやめて、オレ達へと向かってきていた、というわけだ。
ただ、『念動力』は『幻影』相手には効かない。
だから、ハルカの『念動力』で全てのゾンビ達の動きを止めてもらえば、後は動いている『幻影』の攻撃だけ避ければいい。
『なるほど、まさかこんなやり方で、私の死霊と『幻影』部隊を攻略するとは…!』
『幻影』達の間を駆け抜けたキョウカが、フードの少女へと一気に接近した。
「とどめだぞ!!
『炎華豪雷爪』ッ!!」
キョウカが左手をフードの少女へと向けると、少女の真下の地面から巨大な炎の華が出現し、フードの少女を巨大な華で包み込んだ。
『あ、これはマズいかも…!?』
「やぁああああああああああっ!!」
続けて、キョウカの雷を纏わせた右手の爪が伸び、炎の華ごとフードの少女を切り裂いた。
『キャアアアアアアアッ!?』
少女の断末魔の悲鳴が聞こえたかと思うと、直後風景が元に戻り、周囲に喧騒が戻ってきた。
「どうやら、『狸結界』は解けたみたいだな」
「ふ~、やれやれ、一件落着ね…」
そう言うノゾミの姿は、いつものノゾミの姿に戻っていた。
「はぁ~…、マジでアタシゾンビになるのかと思って焦ったわ…」
「…ったく、二人のお化け嫌いさえなけりゃ、もっと楽に勝てた相手だろうに」
「「だって怖いもんは怖いんだもん!仕方ないでしょ!?」」
ハルカとノゾミの声が綺麗にユニゾンしたところで、いつもの姿に戻ったキョウカが何やら落ち込んだ様子でこっちにやって来た。
その手には少女が着ていたと思われる黒いフードが握られていた。
「ん?どうした、キョウカ?」
「う~…、レイヤ姉ぇ、ゴメンだぞ…」
「…ああ、ひょっとして敵に逃げられたこと気にしてるのか?」
「うん…」
なんとなくそんな気はしてきたが、やはり逃げられたか…
「まぁ、相手は魔術も使える“妖狸”だからな、そうそう簡単に捕まるとは思ってなかったさ。
それより、キョウカのおかげで、ピンチを乗り切れたんだ!
というか、本当に謝らなきゃいけないのは、後ろの二人だからな!」
「「うぐ…っ!?」」
「だから、キョウカは気にすんな!むしろもっと胸を張れ!な?」
「…うん!分かったぞ!ありがと!レイヤ姉ぇ!」
そう言ってキョウカがアタシに抱き付いてきた。
と、「くきゅるる~」とキョウカのお腹から可愛らしい音が聞こえた。
「あぅ…、いっぱい動いたからお腹空いちゃったぞ~…」
「そーいや、お使いの途中だったな。
よし!じゃあ、さっさとお使い終わらせて、昼飯のたこ焼き買いに行こうぜ!」
「おー!!」
こうして、オレ達はひとまず謎の敵からの襲撃を追い返すことに成功した。
しかし、敵が最初に言いかけていた、
『あなた方が、“新たな魔王”様の、』
という言葉。
ハルカとノゾミのせいで、その後の台詞が有耶無耶になっちまったが、恐らくはアイツが“新たな魔王”とやらの手下で、オレ達がその魔王に敵対する勢力として、オレ達の力を確かめるために、襲ってきたのだろう。
とりあえず、このことはヨウイチ達に話しておく必要があるだろう。
…また、厄介な事件に巻き込まれそうな、そんな嫌な予感を胸に抱えつつ、ユリコさんから頼まれたお使いと昼食を済ませて、バイトへと戻るのだった。




