3チーム目決定!
序盤の一発攻勢で大差こそついたものの、その後は互角の展開となった代表決定戦第3試合。だが試合は6対1と山形スタイリーズが5点をリードしたまま、最終回の7回表、新庄ゴールデンスターズの攻撃を迎える。
「横山行くか」
「最後まで投げさせるか」
そして相澤と戸川が気になっていた7回表の山形スタイリーズの投手起用だが、背番号1、エースナンバーの横山がマウンドに行った。
『この回も横山がマウンドに行きます山形スタイリーズ。今日はここまで6回を投げて散発4安打1四球、1失点。併殺崩れの間に入った1点のみで、得点の入った4回以外は2塁を踏ませないピッチング。打線も武田、青木の2本のホームラン等9安打で6得点を奪って3連投のエースを効率良く援護しました』
―ああ思ったが…、最終回の攻防は…、特に守備は結構硬くなるぞ…。正直、5点リードでも安心できない…。東北勢って皆これでやられてるパターン多いからなぁ…。
永田は最終回の怖さを体で受けていた。新庄ゴールデンスターズの打線を3点打線と評したが、それも緊張ですっ飛んでいた。
『この回を抑えて19回目の全国大会か、それとも5点差を追いついて3回目の全国大会に望みを繋ぐか、7回表の攻防が始まります』
打順は下位。だがそういったことは関係無かった。こうなれば、迎えるバッター1人1人こそが皆強打者と思って臨んだほうが良い…、表情が硬いキャプテンは、その面持ちで観ていた。
バシィ!
「ストライクスリー! バッターアウト!」
『空振り三振!』
だが、そんな雰囲気は横山には微塵も無かった。平常心を保って最初のアウトを三振で奪う。
『横山、この回の先頭バッターを三振に取って…、あっ、新庄ゴールデンスターズベンチは動きがある様です』
1アウトを取られた新庄ゴールデンスターズは、ここで代打を使う。そしてネクストバッターズサークルにいる選手も、今日のスターティングメンバーには居なかった選手が入っている。
「代打攻勢か…」
「終盤、5点差でもう後が無い状況だから少しでも打てるヤツを送り込んで塁にランナー貯めて返す…か」
ここでの新庄ゴールデンスターズの作戦の意図を、菅沢と桜場はこう分析した。こういう采配に思い出代打とか言う批判をする人もいるかもしれないが、基本的には代打というのはその1打席を自分のバットで結果を残して次に繋ぐことである。だから、
―代打戦法…、スタメンにいたヤツらより強敵かもしれないぞ…。
永田や、他この戦法に理解がある方であれば+に取ってみてくださるかもしれない。
バシィ!
「ストライクスリー! バッターアウト!」
しかしその代打戦法を寄せ付けず、2者連続三振を奪う。めげない新庄ゴールデンスターズはネクストバッターズサークルに控えていた選手をそのまま送り込んで、代打戦法を続ける。
「もう後が無いからな…、バット持って打席に立ったヤツは誰であろうと、どんな形であろうと、繋がなきゃいけない」
「うん」
中津と沢中、ベースコーチャーコンビは、この状況を見た上で、
「なあ真、オレらだったら、兎に角バッターには塁に出て欲しいって思うよね?」
「思う」
と、コーチャー視点での会話を始めた。
「正直、アウトになって欲しくない…」
「目の前で1塁に辿り着けずにアウトになるのを見るのは勘弁だ…」
「3塁は遠いから近くまで来ないとメインでのお仕事無いんだよね…」
―無いまま負けるのも勘弁ってことか。
バシィ!
「とか何とか話してる間に2ストライク取られちゃったけど」
「これ9球で片付くのかな…、だとしたらまた立ったままだよあの3塁コーチャー…」
「新庄は4回以外2塁踏めてないもんな…真があのコーチャーの立場なら嫌か」
「嫌。守だって目の前にいる1塁ランナーが進めずに1塁だ、何ならベンチに引き返して行くのも嫌じゃん?」
「まーね。自分のミスでなった以上に嫌だよ」
バシィ!
「ストライクスリー! バッターアウト!」
「あ―――っ」
「9球で片付いちゃった…」
『空振り三振―――っ!! 山形スタイリーズ、エース・横山、3者連続三振で締めて3年振り19回目の全国大会出場決定―――っ!!』
マウンドには横山を軸に、山形スタイリーズの選手たちが一斉に集まって歓喜の輪を作っていた。
―緊張から解放されたからそりゃわかるわな。けど…。
ゆっくり立ち上がって背伸びをした永田の視線には、歓喜の輪の左にいた、一瞬天を仰いで嘆くバッターの姿が。最終回、代打戦法空しく敗れた新庄ゴールデンスターズのことを思えば、あまり喜んでも居られなかった、自分たちがそうだった様に。
「程々にしよう。これ以上やると相手にも失礼だ」
「えっ…」
「早く並ぼう。次は全国大会があるんだ」
「…ああ、そうだな。皆整列しよう」
マウンドから駆け足でホーム前まで行った平山を先頭に、横山、笹原ら他のメンバーも追従してホーム前に並ぶ。
「6対1で、山形スタイリーズの勝ち。ゲーム!」
「ありがとうございました!!」
試合終了を告げるサイレンが鳴る。両チームの選手が挨拶の後握手を交わしている様子を見届けた後、N`Carsのメンバーは一斉に撤収を始めた。
「皆速やかにやるぞー…、ゴミは必ず全部片づけてね」
「お前だよそれ」
「その空のペットボトル何だよ」
「やかましいわ。自分で処分すらあ」
試合途中で飲み干してそのまま自分の手元にキープしていたお茶のペットボトルを小宮山と都筑にツッコまれて、そこに永田がツッコみ返している脇で、関川は尚もリラックス中の片山に声を掛けていた。
「開次…、開次起きーや」
「ん…?」
「試合終わったで」
リラックスモードから解かれた片山は、帽子を元の位置にまで上げ戻して関川を見た後、ゆっくり起き上がった。
起きた後胡坐の姿勢で、顔は下を向いている。ふぅーっと一息ついてから、
「もう終わったん…?」
と、何ともテンションの低い声で関川に質問した。
「寝てたんか?」
「寝てへんで」
―こら寝てたな。声のテンションも低い上に寝ぼけ眼やもん。
「試合終わったから皆撤収中。あと開次の言う通りになったで」
「何が?」
「試合展開。あのまま6-1で山形スタイリーズの勝利や」
―やっぱな。
段々と目が覚めた片山も撤収作業を行って、一通りの作業が終わると、永田がN`Carsのメンバーが座っていたエリア全般をくまなく点検する。
「大丈夫だった」
永田が丸印を両腕で見せながら戻って、
「良し、皆引き揚げるぞ」
徳山監督の号令で、N`Carsのメンバーは羽前球場から駐車場へと向かった。…1人を除いて。




