如何に緊張を解くか
マイクロバスの中では、まだ取りきれなかった重く硬い雰囲気の影響でか、皆静かだった。そんな中徳山監督と永田は、それぞれこの雰囲気をどうやって取るか考えていた。だが徳山監督のほうが一瞬早く考え出していた。そして何より…。
―永田はあれは緊張しでる。さっきバスさ乗る時も、荷物持ってだとは言え本来上がるべき位置まで足が上がっでない。抽選会の時も、全く同じ状況で足を梯子段さ引っ掛けでだな。そして何よりあの表情。いつもより硬い。元々ナイーブな子だけんど、こんなに硬いってことはよっぽど時間掛けねど多分硬さ取れねぇな…。
永田の緊張具合が凄まじかった。その永田も…。
―…いつも通りのことして何とかって思ったけど、全然効果無かったな…。なーにが一番緊張取れっかなぁ…?
と、硬いなりに何とかメンバーの緊張を解そうと考えていた。
2人が緊張をどうやって解すか考えている中、マイクロバスは白鷹トンネル手前の上り坂S字カーブに差し掛かった。そこには、AMラジオ放送の周波数が書かれた案内板が掲げられていた。
『次は今日予定されている草野球カップ 山形県大会の代表決定戦ですねー』
―あ、ラジオ流れてたんだっけ。
『今日の代表決定戦4試合で山形代表が決定する重要な試合、第1試合は初出場を狙う白鷹ホワイトホークスと、25年振り2回目の出場を狙う米沢ローリングスの一戦です』
『ここ3試合は全て打ち勝って来た白鷹ホワイトホークスに対して、米沢ローリングスはエースの情野投手がここまで3試合全て完封しているという素晴らしいピッチングですねー』
―もう事前番組で盛り上がってるよ…。
『第2試合は2年連続6回目の出場を狙う鶴岡クレーンズと、これまた初出場を狙うN`Carsの一戦です』
『鶴岡クレーンズが攻守とも安定した試合運びを見せているのに対して、N`Carsは打ち勝っては来ているんですけども3試合で10失策と守備が安定していないのが気掛かりですねー』
―やっぱ触れたよ…。てかそれをそんな明るいトーンで言われても…。
『第3試合は57年振り3回目の出場を狙う新庄ゴールデンスターズと、3年振り19回目の出場を狙う山形スタイリーズの一戦です』
『2試合何れも守り勝って来た新庄ゴールデンスターズに対して、今大会も打線の良い山形スタイリーズという構図です』
―お客さんの目当ては多分全国行って知名度があるとこなんだろうな…。オレらじゃない。
『第4試合は初出場を狙う村山キーストーンズと、4年振り11回目の出場を狙う酒田ブルティモアズの一戦です』
『こちらも打ち勝って来たチーム同士。ただ両チームにとっては、酒田ブルティモアズの荒瀬選手が鍵になりそうです』
―やっぱりな…。知名度があればお互いマークするんだろうけど、無いとマークするまでも無いよな…。良く考えたらさっきの明るいトーンもうちがエラーしまくるの見たいから心配してるようなこと言って陰ではうちをお笑い扱いしてんだろうな…。
永田は一息つくと、窓枠に頬杖をついて再び考え込んだ。
―あとトンネル2本あんだっけ…。早いとここの暗いトンネルから抜け出せないかなあ…。
1.0035kmある白鷹トンネルの出口には差し掛かっていたが、その先に境小滝トンネルと棚林トンネルが続けて合計1.4kmに渡って通っている。如何にこれらの長いトンネルのような暗い気持ちから抜け出せるか、悩み込む永田であった。




