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The Baseball Novel  作者: N'Cars


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12/135

現地練習(打撃編)

「んじゃ、ちょっとそのまま集合して」

「集合!」

「はい!」

 守備練習を終えたばかりのN`Carsメンバー全員が再び徳山監督の元に円陣を作って集合した。

「これからバッティング練習します。それで今日は、さっきも言った特打ちを皆さやっで貰うことになる。そこでだ高峰」

「はい」

「おめさバッティングピッチャーやっで貰う」

「はい…、えっ、でも何で?」

「今日試合する最上ノーストップズのエースピッチャーが左らしくてよ、それでおめさ頼むことにしたわけだ」

「あ、つまり左対策ってことですか?」

「んだ」

―左対策ねぇ…。オレ使ってくれるのは良いけど、肝心のオレが左対策できねぇじゃん…。

 他に左ピッチャーがいないので仕方ない。

「細かな配球とかは後で相澤と2人さ話すがら、取り敢えずおめだづは残って、他はバッティング練習さ取り掛かれ。良いな!?」

「はい!」

「それじゃ~…、バッティング!」

「はい!」

 永田の号令で、全員がバッティング練習の準備に取り掛かる。とここで、

「あ、ちょっと永田ええか?」

「ん?」

片山が永田を呼び止めた。

「オレと浩介先に打ってええ? アンタら打ってる間ピッチング練習するから…」

「あ、はい」

 他のナインがバッティング練習をしている間、片山と関川のバッテリーはブルペンでピッチング練習をする。その為、バッティング練習は1、2番目に行って、残りの時間を有効活用する。

 片山と関川はそれぞれ公認野球規則で着用が義務付けられている打撃用のヘルメットを着用して、こちらは任意で着用が認められているバッティンググローブを両手にはめて、勿論これは公認野球規則で使用が義務付けられているバットを持って、他のナインのバッティング練習の準備ができるまで待つ。高峰と相澤は徳山監督から今日のバッティング練習の配球についてを詳しく説明されている。バッティング練習を待機している2人と今日のバッティング練習の配球について説明中の3人の距離は、お互いに聴かない、聴こえないように自主的に距離を取っている。

 グラウンドでは、バッティング練習の時に使うピッチャー用のL字型防球ネットがピッチャーズマウンドより少し手前に、ネットの高さが低いほうが左打席側に来るように設置された。バッティングピッチャーの利き手と同じほうに合わせて、ネットの高さが低いほうを置く。

 そして、ピッチャーズプレートのすぐ脇には練習球を目いっぱい入れたボールケースを置き、ホームベース及び両方のバッターボックスのすぐ後ろに設けられているキャッチャーズボックスのすぐ後ろには、防球兼集球用のネットが設置された。

 他のメンバーのうち、打つ順番がまだ遠いメンバーはいつも通りの守備に就く。バッティング練習でもグラウンドを広大に使うようなシートバッティングやフリーバッティングのような場合は守備陣もつける。先程守備練習をしたばかりの彼らにとっては守備練習の延長のようにも思えるが、これとて限られた時間を有効に、スピーディーに使う為だ。

 配球についての説明を受けた高峰・相澤のバッテリーはそれぞれ駆け足で定位置に就いた。その後何球か投球練習をする。

「ガチでやってええからな」

「バッピとて全力勝負して構わんで」

 投球練習が完了する頃に、片山と関川がそれぞれ高峰に発破をかける。

「良いか―! バッティングはいつも通り1人1打席、原則打順の通りだ! 自分の打順がそろそろ廻って来たらバッティングの準備して、打ち終えたら守備を交代して! 既に打ち終えたメンバーと守備を交代したメンバーはそのまま交代順で打って! 良いな皆!?」

「はい!」

「ではバッティング練習、行きます!」

 徳山監督からバッティング練習の順番及びそれに伴う守備の説明があった後で、バッティングピッチャーとしてマウンドに立っている高峰のコールを以て、バッティング練習が始まった。

 まずは、この後ブルペンでピッチング練習を控えているスイッチヒッターの片山から。右打席に入って練習する。

―1打席勝負。しかもバッターは開次だから、最初から行く?

―でなきゃ抑えらんねぇべあの2人は。最初から行って良いよ。

―了解。

 サインのやり取りを交わした2人。徳山監督から細かな配球の説明をされたというが、それは一体何なのか。サウスポーから第1球が放たれる。


キィ―ン!


「えっ!?」

「あっ…」


ポ―ン!


初球を振り抜いた鋭い打球が、いきなり右中間の最深部まで飛ぶ。

いとも簡単に振り抜かれたショックからか、高峰は右中間の打球が飛んだ方向を振り返って、相澤はキャッチャーズマスクを外したまま同じく打球が飛んだ方向を見ていた。

―…これを…、あと10何回も繰り返すんですか?

―満を持してアウトコースいっぱいのスライダーのサインを出したのに…、こうもいとも簡単に…。

「1打席勝負やろ? ありがとうございました」

 片山はそう言うと打撃用ヘルメットを脱いで、挨拶をして引き上げた。

―まーたやってるわコイツ。

 ピッチング練習の準備に入る片山を、両手を腰に当てて睨み見る高峰を見て、相澤がまず先に我に返った。そして、

「まだやってんの? 怖いのもう1人要るんだから、そっちに集中しなよ」

「…ああ」

マウンドに行って、高峰に声を掛けて、そのまま戻った。今の一言で、高峰も目が覚めたように我に返った。

「お願いします」

―怖いヤツってコイツか…。

 今度は関川が打撃用ヘルメットを脱いで、挨拶をしてから右打席に立つ。

―次はコヤツをこっち側。

―はいよ。でだ浩介さん、アンタさっき全力勝負して良いっつったよね? オタクの相方が打ったからって…、


相澤からサインを受け取った高峰、関川に初球を投じる。


―調子こいてんじゃねぇよ!!


キィ―ン!!


「…」


「…」


スッ。


強烈な鋭い打球は、レフトポールのすぐ右を通過した。

―ねーバッピとは言え話が違うんですけどー。監督これどういうことですか?

「打たれる度に睨んでもしょうがねぇべ」

「そりゃそうだけど。でも監督は練習前にオレらに変化球主体のピッチングで行け、っつったじゃん。お前もそれでサイン出したでしょ」

「うん、それで?」

「それがこの有様よ。立て続けにスコンスコンじゃん」

「いや、バッピは打たれる前提なんじゃ…」

「んで? だって監督はバッピと言えど全力で行け、っつったじゃん。だからオレも全力で投げて、お前だって一番抑えられる最善のサインを出してるわけじゃん、開次の時の外スラといい浩介の時のインへのカーブといい。それでああなわけよ? これ絶対変えたほうが良いと思うよ、配球」

「いや…、変えない」

「はぁ!?」

―変えないって…、こんだけ打たれてんのに? お前はピッチャーの意見より監督の指示に忠実ってか。

 どうもわからない。徳山監督の指示の意図と、自分の意見を断ってまで監督の指示に忠実な態度を示す相澤の考えが…。そんなに自分に変化球を投げて打たれてくださいとでも言いたいのか。

 高峰は投げて打たれたという表面的な結果以外にも、この2人の狙いがわからないという内心的な要因から徐々にイライラし始めた。

 3人目のバッターは萩原。片山と同じくスイッチヒッターの彼も右打席に立つ。

―じゃあどうすんだよ祐希。

―これ。

―は? さっきと同じじゃん。

―じゃあこれ。

―嫌だね。それはよっぽど特別な時に投げるって決めてるから。

―え~? じゃああと何よ? …これとか?

―それ、ね…。まあ瞬じゃさっきの2人程リーチ長くないから大丈夫か?

 2度首を振り、3度目で漸くサインが決まったバッテリー。少しいざこざがあった2人だが、果たして萩原に対して結果は如何に。

―これで打たれたら考えもんですよ!!


キィン!


「…っ」

体を左側に素早く捻ってグローブを差し出すも間に合わず、ピッチャー高峰の足元を抜けた打球はセンター前へ。

―外のシュートも駄目…? しかも明らかにストライクからボールに逃げてるのに、バットの先で持ってかれた…。

「ねーますますわかんないんだけど。これ何か意図あんの?」

「あるからそういう指示出したんじゃない?」

―バックレてやがるコイツ。

「てかお前さん、ピッチングに集中できないの?」

「はあ!?」

―誰の所為だと思ってんだよ。監督と言いさ…、

「何だー? 代わりてぇんだば代えでも良いぞー」

「まあ実際代わりたそうだから…」

「誰がそんなことを」

「お前のピッチング見てりゃわかるよ。集中してりゃこんなにイライラしない」

「イライラなんて誰にでも有り得るのに? オレだけ駄目?」

「…まあそうだね。落ち着けないようなら秀一か開次に任せるしかないよね」

―…ふーぅ。

 高峰は後ろを向くと、相澤の発言に呆れたようにため息をついた。

「サイン要らねえ」

「ん?」

「サイン要らねえよ。今まで通りのピッチング続けてればいいんだべ!?」

「いやあったほうが…」

「要らねえよ。サインなんかいちいちバッター見るか!? そんなの無くても球種は習得してれば投げられる、バッターも抑えられる。どういう意図でああ言ったかは知らねぇけど、要するにこういうピッチングをして抑えろってことだべ!?」

「…まぁ…、そうだけど…」

「なら要らねぇな。お互い投げる球種のジャンルがわかっているんだから。オレが組み立てるから、あとは確り捕れよ」

―捕手的には気が進まないけどな…。試しにやってみるか。

「わかった」

 相澤は取り敢えずながら、高峰の意見を受け入れることにした。

「随分長かったな」

「ちょっとね」

 次のバッターは小宮山。その小宮山に相澤はこう返すと、マウンドの方向に向き直ってからキャッチャーズヘルメットの上に置いてあるキャッチャーズマスクを自分の顔の前まで持って来て、その場にしゃがんだ。

―ていうか良く考えたら京太ってこういうので良かったかも。


ガキン!


―!?

―ほら。


パン。


インコースの膝元へ喰い込むストレートだったが、これで打球を詰まらせて、ショートへのハーフライナーに抑える。

「ナイスピッチ!」

―アイツの場合は細かな駆け引きだったり作戦だったりといった頭で考えて行動に移すようなことより、考えさせずに本能で好きなように投げさせたほうが良いピッチングできるわ。

―祐希には癪だろうけど、これで行かせて貰う。

「ありがとうございました」

「ドンマイ」

「ん」

 次のバッターは永田。このバッティング練習で初めてまともに抑えた勢いそのままに、この後も封じれるか。初めて左打ち固定のバッターと対戦する。

―元々球種多いんだから自由自在に投げさせたほうが良いよな、ランダムにさえ投げればかわせるってのはアイツも体で覚えて来ているんだろうから。

―拘るだの縛られるだの、オレそういったことは好きじゃないから…、寧ろこうやって自由に投げることこそピッチャーの良さが出ると思う、今までもそういうの見てきたもん。


パン!


―うっわ。

3ボール、2ストライクのフルカウントから更に2球ファールで粘り合計7球投げさせたが、8球目、インコースから膝元より低く沈むボールに永田は空振り三振に倒れた。

「もう1球要る?」

「いや、良いよ。だって1打席勝負でしょ? ありがとうございました」

 潔く永田は結果を受け入れて、打撃用ヘルメットを脱いで、挨拶をして引き上げた。そして次のバッターである三池との擦れ違い際、永田はアドバイスする。

「何か変な曲がりのが多かったな…。最後のもあれっ、って感じだった。真っ直ぐじゃないので来ているのは明らか」

「真っ直ぐじゃない?」

「うん」

―ふーん。

―何か気にも留めてなさそうですね。

―和義か。和義ならこれでいっか。


パン!

パン!

パン!


3球続けて空振りの三振。

「ちょっと待って…お前、呆気な過ぎない?」

「立ったまま何にもしないほうが呆気ないと思う」

―ま、まあ、そうですけど…。

「ありがとうございました」

 永田よりも呆気なく空振り三振に倒れた三池に相澤がツッコミを入れるが、正論を言い返されて、反応のしようがなかった。

―真っ直ぐじゃどうせ柵越えだろうから、一番飛ばなさそうな球種で攻めれば早く済むもんね。

 次のバッターの梶原が、三池と入れ替わって右のバッターボックスに立つ。


キィン!


初球のアウトコースの変化球を逆方向に確りと捉えたが、


パシッ。


惜しくもライトフライに倒れる。

―おや? 高峰何か落ち着いて来だな。最初ちょっと打たれで動揺しでらっだみでぇだけんど、3人続けで打たれた後は4人連続でアウトさしてんな。相澤が何が高峰さ吹き込んだのが?

―京太のヤツ段々活き活きして来た。ボールがさっきよりも良くなって来てる。…ほらこのボールだ。


ギィン!


「どっち行くの!? どっち行くの!?」

「オレだっ!」


タッ。


続く桜場をサードフライに打ち取る。サードの黒谷は三遊間の上空に上がる浅いフライを捕った後、ゆっくりとマウンド近くまで行って捕ったボールをマウンド近くのボールケースに入れる。


キン!


都筑はセカンドゴロ。セカンドの沢中からファーストの三池に渡ってこちらも確りと打ち取る。沢中は打球を捌いた後、守備に就く用意ができた梶原と交代して、バッティング練習の準備をする。


ガッ!


中津は高く打ち上げたキャッチャーフライ。キャッチャーの相澤はキャッチャーズマスクを捨てた後、防球兼集球用ネットを迂回して、スライディングキャッチ。

「ナイスキャッチ!」

「良いぞ祐希!」

―あれ捕るか。…でも実際の試合ならネットすぐ後ろに無いからごく普通のキャッチャーフライなんだよな。

 あれは捕れるフライであると納得した高峰、次のバッターの松浪に初球を投じる。


キィン!


「あっ」


ピッチャー・高峰の足元を抜ける鋭いゴロの打球…、


タッ。


だが、ショート・小宮山の脇は抜けず。ランニングキャッチの後、スムーズな動作でランニングスローを1塁へ決める。

「ナイス涼!」

良い当たりではあったが、結果はショートゴロだった。


ガッ!


菅沢はインコースのボールに詰まらされてファーストゴロ。三池は打球を捕ると、そのままファーストベースを踏む。これで9人連続で抑えた。

「からっきし快音が出ないな…」

「瞬のヒット以降さっぱりだね…」

 こう話すのは、この後バッティング練習を続けて控える戸川と沢中。先程の菅沢を含めると高峰は3人連続で左打ち固定のバッターと対戦することになる。

 まずは戸川がバッターボックスに入る。

―久しぶりに快音、響かせますか!!


ガキィ!


―ありゃ!?

意気込んで打席に入るも打球は詰まる。セカンド後方、右中間の前にフライが上がる。セカンドの梶原、センターの萩原、ライトの永田が追うが…、


パシィ!

ズザアッ!


「お!?」

「ナイスキャッチ!」

「やったぁ!」

セカンドの梶原が背走体勢のまま後方にスライディングキャッチ。風もあり難しい打球でもあったが、好プレーで見事セカンドフライに打ち取った。

 少し納得いかない表情の戸川を目で追った沢中。バットの芯の部分を左手で持った体勢から、両手でバットのグリップを握る体勢に変えて、左打席に向かう。

―ならばオレが仕留める。


カキィン!

パーン!



―マ・ジ・で…!?

バットを一握り余して強烈な打球を放った沢中だったが、飛んだ先はセカンド梶原のグローブの中。先程詰まりながらも面白いコースに飛んだフライをスライディングキャッチしたかと思えば、今度は1・2塁間への痛烈なライナーを鮮やかにグローブに収めた。

 ベンチへ戻ろうと沢中は挨拶をした後、振り返り際に梶原を見遣る。

―おのれ栄次め…。

 やや目を据わらせた表情のままバットをベンチ脇のバットケースに閉まう沢中に、戸川がその表情に気付く。

「まだ悔しいの?」

「……」

―あ、聞くんじゃなかった。

 まだ梶原のほうを見ている。同じセカンドだけに思うところあったか?

―うわ、随分でかいな…、って英気か。

「外野バック!」

 バッターボックスには峰村。チームでも三池と並んで1・2を争う巨漢を迎えて、相澤は外野3人に後ろに下がるよう指示を出す。

―そっか英気か…。

―当たれば飛ぶヤツ。

―パワーだけは絶対にクリーンアップ級だもんな…。

 センターの萩原、ライトの永田、レフトの桜場がそれぞれ三者三様の意見を心の中で述べつつ定位置より後方に下がる。


カキ―ン!


「うおっ、当たったぁ!」

「久々のヒットだ!」

あまりの快音と打球の良さに、思わず歓声が上がる。が…、


「…あ、あれ…?」

「あれ…?」


パン。


高く上がり過ぎたのかそれとも風に戻されたのか、結果は予め深く守っていたセンターへのフライ。

―外野下げといて良かった。

「飛ばなかったね…」

「伸びなかったね…」

「まぁまぁ仕方ないよ」

 戸川と沢中の感想に、意外とさばさばした表情で答えた峰村は、次のバッターの黒谷と交代する。

―そろそろやな。

「開次、行くで」

「えっ…浩介どこ行くん? まだ終わってへんで?」

 ピッチング練習が終わっていないのに、ブルペンを離れてどこかへ向かおうとする関川。一体どこへ…?

「外野ちょい前!」

 峰村に次いで、控え9人の中でバッティングの良い黒谷を迎えて、相澤は外野3人に先程よりちょっとだけ前に出るよう指示。それでも定位置よりはまだ後方にいる。

―英気ほどじゃないけど、秀一も打つからねえ。

3人に指示した後、相澤は座ってキャッチャーズマスクを被りながら黒谷を見遣る。


カキ―ン!


―ほら。

峰村に続いて黒谷も良い当たりを飛ばす。が…、

―やっぱりな。


パシィ。


レフトの桜場が2,3歩前に出てキャッチ、レフトフライだった。

―京太は変化球多いから変化球で攻めるかと思ったが、インコースの真っ直ぐだったか…。打たされた…。釣られたってわかったもんすぐに。

 読みが外れて打ち取られた黒谷が挨拶をして引き上げる。…と、ここで。

「祐希お疲れ」

「ああお疲れ…、ってあれ!? 浩介!?」

「バッティングの準備」

「あれ…、ブルペンでピッチング練習に行ってたんじゃなかったの?」

「その〆も兼ねて、アンタと京太のバッティング練習付き合うで」

「あ、そう」

 すると相澤はベンチに戻って、バッティング練習の準備を始めた。

「開次、オレは?」

「祐希終わったらマウンド行って」

―え、てことはオレやんの!?

 間接的にバッティング練習をすると決められた高峰をよそに、関川はキャッチャーズボックスに座る。

「京太、テストピッチ」

「え、要る?」

「要るわ。祐希が準備出来るまでの間今までのピッチングフォームの確認とこっちのキャッチングの確認すんねん」

―あ、そう。

 高峰はセットポジションに入ると、18.44m先にいる関川に投げ込んだ。


バシィ。


「あれ、アンタセットやったっけ?」

「こっちのほうがわかりやすい」

―ふーん。


バシィ。


「おっ、出来た?」

「うん」

「おっしゃ、京太こっからが本チャンやで」

 相澤のバッティング練習の準備が出来たのを確認して、関川はキャッチャーズマスクを被り、相澤は挨拶をしてバッターボックスに入った。

―まーたインコースに寄ってる。浩介本当好きだよなー。

―さっきまで受けてたから手の内知っとるやろうけど、そんなんお構い無しや。ガンガン来い。

―球種はフリーで行かせて貰いますよ?


バシィ!


「うわっ…とっ」

関川はサインを出さずにインコースに構えたが、ミットを構えた位置よりも内側、やや高めに来たので、相澤は体を右に半回転させて避けて、関川はミットをその位置に差し出して捕った。

―体に近いとこやったな。まあ浩介らしいけど。

―また? さっきインで見せたのに?

―ええから。早よ早よ。

―わかりましたよ。


―まただ!


キィン!

パーン!


2球目も続けてインコースに投げられるが、相澤は打ち返す。しかしその強烈なライナーは、サード都筑の守備範囲内に止まった。

「ありがとうございました」

 相澤が挨拶をして引き上げたのを見て、片山がフェアラインを越えてマウンドへと向かった。

「京太」

「うん」

 ここで高峰もバッティング練習の準備に向かって、入れ替わりに片山がバッティングピッチャーを引き受けにマウンドに立つ。結局高峰は、今日のバッティング練習では打者17人に対して、最初の3人にはヒットを浴びたがそれ以降は14人連続で凡打に抑えた。

 その高峰は、バッティング練習の準備をしながらピッチング練習する片山を見る。

―いつもの開次よりボール遅くね? この後試合控えてるから抑えてるのか?

「出来たよー」

「ほな、始めるで」

 高峰のバッティング練習の準備が出来たのを見て、関川はキャッチャーズマスクを被った。

 片山がマウンドに立ったのに合わせて、L字型の防球ネットは先程までと逆向きに設置された。

―取り敢えずさっきのお返しはきっちりしておくということで。


―えっ!?


ガキン!


―…速い…!!


パン。


インコースへ喰い込む速いストレート。ピッチング練習の時よりも速い球に一瞬驚いた高峰はボールとバットが当たる、所謂インパクトの瞬間にスイングを止めてしまう。その結果、バットの根元に当たった打球は、L字型の防球ネットを越えてすぐのところにいたピッチャー片山のフライとなった。

「こんで締めや」

「えっ?」

「締めや。アンタで終わりやろ?」

「…あっそっか」

 高峰が挨拶をして引き上げた時には、既に片山はボールを片付け始めていた。



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