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黄金の鎖

インターハイ優勝から二週間。鳳凰学院バレー部には、かつてないほどの空気が流れていた。


体育館の入り口には、優勝を祝う大きな横断幕が掲げられている。練習中も、どこかの学校が偵察に来ている気配が絶えず、部員たちの視線はどこか落ち着かない。あの夏、私たちが掴んだ「頂点」という名の勲章は、気がつけば私たちの足首に絡みつく、重たい黄金の鎖へと変わっていた。


「清水、また力んでるよ。レシーブのとき、肩が上がってる」


練習中、三年生の先輩である加藤さんが声をかけてくれた。彼女は次期キャプテン候補として、私に最も厳しく、そして優しく接してくれる人だ。


「……すみません。どうしても、ミスが怖くて」


「分かるよ。勝ったチームってのは、負けるのがとにかく怖くなるからね。でもね、宗子。私たちは『鳳凰学院のバレー部』として戦ってるけど、その前にお互いを信じ合ってるただの女子高生なんだってこと、忘れないで」


加藤さんは私の肩をポンと叩き、自身の練習へと戻っていった。彼女たちの背中は、もうすぐ引退という現実を背負いながらも、どこか晴れやかで、そして少しだけ寂しげに見える。彼女たちが築き上げてきたものを、私たち二年生が継ぐ。その重責が、私の中でじわりと熱を帯びる。


練習後、体育館の隅でバレーシューズの紐を解いていると、友人である花音が缶のスポーツドリンクを持って近づいてきた。


「宗子、お疲れ様。……今日も、あんまり顔色良くないよ?」


花音は、私がどれだけ注目を浴びようと、どれだけ有名になろうと、以前と変わらず「宗子」として接してくれる数少ない友人だ。


「ごめん、花音。ちょっと考え事してて」


「バレーのこと? 優勝して、周りの見る目が変わって大変だね。昨日も、SNSで宗子のプレー動画がまた拡散されてたよ」


「……見なくていいよ、そんなの」


私は自嘲気味に笑った。天才、次世代のスター、京都の希望。そんな言葉が並ぶ画面を思い浮かべるだけで、胃がキリキリと痛む。私はただ、ボールを繋ぐのが好きだったはずなのに。


「ねえ、週末空いてる? バレーのビデオ分析じゃなくて、普通の映画見に行こうよ。宗子が気になってた新作、公開されたでしょ?」


花音の提案に、私は少しだけ胸の奥が軽くなるのを感じた。


「……うん、行きたい。バレーのことも、ピアノの練習も忘れて、ただの高校生になれる時間……すごく欲しいかも」


帰り道、自転車を押し歩きながら、私はふと九条玲司さんのことを思った。

彼もまた、今頃どこかで、この「黄金の鎖」と戦っているのだろうか。優勝という結果は、私たちを繋ぐ絆でもあり、同時に私たちを隔離する壁でもあるのかもしれない。


私はふう、と深く息を吐き、京都の夜空を見上げた。

勝つことが、必ずしも幸せへの近道ではない。けれど、この苦しさを含めて、これが私の青春なのだと、今は少しだけ納得することができた。


明日また体育館に行けば、きっとまた重い空気があるだろう。

それでも、加藤さんや花音、そして玲司さんの存在を思い出すと、不思議と足を踏み出す勇気が湧いてくる。


私たちはまだ、旅の途中にいるのだ。頂点という名の通過点を過ぎたばかりの、未完成な高校生として。

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