表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/181

砂の国、砂の城 05

ラクダに乗って連れて行かれたのは寂れた村

小さなオアシスに寄り集まった者達の集落。

「この先にいる。」

先って砂漠じゃん。いるって何。

同じような小さな水場。

だが建物も人影もない。

水際に生えた草。枯れかかっている数本の木。

僅かな陰に大きな物体。

守護竜。

「名はデセル。」

「北の大陸の守護竜って東の以外絶えたんじゃないの?」

「人との関わりを断っただけだ。」

「だがこのままでは本当に。」

砂漠のドラゴン。エジプトトカゲかそれともマツカサトカゲか。

「サバクツノトカゲだ。」

頭に二本の角がある。

北の大陸西地区の守護竜「デセル」。

「北だの南だのは人々が言うだけ。」

竜族にはその境界は無く、それぞれが住心地良い場所に居着いたに過ぎない。

キリは躊躇なく駆け寄る。

驚くのは傭兵達。

慌てて止めようとするがそれを魔女ツグミと月夜野アカリが制する。

「任せて大丈夫。多分ね。」


上下運動で呼吸は確認できる。が小さい。

年老いた竜なのだろうか。

デセルは近寄るキリに気付いて顔を上げるが

何も言わずそのまま伏せる。

キリはその身体に触れる。

「違う。ああなんて酷い事を。」

鱗が貼り付いている。いや張り付かされている。

おそらくは植物性のデンプンから抽出された粘着物質。

温度は高いが湿度の低いこの地域では

乾いた糊が鱗と皮膚を覆い、体温調整や皮膚呼吸を困難にしている。

「誰かが故意にこうした。」

ピータンの鱗の金貨は自業自得だ。あんなベッドで寝ていればそうなる。

だからそれは関係無い。

ピータンに対するその「方法」は偏った食事や毒の混入未遂。

アクゥロは役人が買収されその住処を追われた。

寒い地域で動けなくして弱らせる事こそがその「方法」

泥が詰まったのは意図的ではなく二次的な副産物に過ぎない。

フラマーは明らかに誰か(二人組)の置き石だった。

「方法」はどうあれ、「手段」は雑だとずっと感じていた。

「偏食」も「引っ越し」も「置き石」も即効性のある手段ではない。

「嫌がらせに近い。」

もっと効果的な殺害方法も

いやいや

それは結果論だ。とキリは自分を戒める。

あのまま放置されていたら弱り苦しみながら死んでいたかも知れない。

助けられたのは運が良かっただけだ。

「ドラゴンを簡単に殺せないからこその手間暇に違いない。」

何より目の前の竜は危険な状態だ。


涙を拭うキリを見て傭兵達は

守護竜が既に絶命したのだと勘違いしてしまうのだが

キリは腰の剣を抜き自ら乗ってきたラクダに向ける。

「一体何を。」

キリはラクダの後ろに周り毛を刈る。

手にした枝に麻糸で巻き付ける。

「筆?」

「馬の毛が良かったけどラクダしか居ないから。」

「馬の毛で筆作るのは知っているけどタテガミ使うのかと思っていたわ。」

「胴の毛が一般的です。お尻のは天尾って言います。」

「さすが見境無い奴だ。」

「なんですかそれ。」

オアシスの水を汲み沸かし微温湯を作る。

筆をしばらく漬け竜の鱗の縁をなぞるように塗る。

何度か繰り返すとやがて「ふやけ」た糊が一部浮き上がり

キリはそれをつまみゆっくりと

「鱗の皮膚を傷付けないよう丁寧に。」

自分に言い聞かせながら静かに剥がす。

「痛くない?」

「痒い。」

「少し我慢してね。」

作業をするキリにデセルが尋ねる。

「友は息災のようだな。」

「皆元気だよ。」

守護竜を友と呼ぶ少年。

目の前の光景が奇跡であるかのような驚嘆。

一枚ずつゆっくりとした作業に月夜野アカリは

腰を屈めて黙々と動くキリに

「お湯ぶっかけてまとめてってわけにはいかないの?」

「この気候だとすぐに乾いてしまうから。」

「そうか。」

「この子が入れるくらい大きな湖があるといいけど。」

このオアシスにこのドラゴンを沈めるのは無理だ。

アクゥロのいる湖が理想的だが

でもこれでは飛べない。

ピータンであっても海を越えて運ぶのは無理だろう。

せめて海が近ければ。

キリは首を振る。

「時間はかかるけど現状はこれが最適だと思う。」

「判った。」

メリアは立ち上がり

「あの村に筆はあるか?無ければ作ってくれ。」

キリに

「馬がいいんだな?ラクダでもいいか?」

「ヤギでも牛でも。」

それなりに水を含んで鋭くなく固すぎない毛であればこの際贅沢は言わない。

「筆と、人の手が必要です。」

理想は臆病な人。慎重な人。

気が遠くなるような作業ではある。

剣を使って中の金貨や泥を落とすだけの作業とはその工程も繊細さも異なる。

乱雑に荒々しくては竜の皮膚組織を傷めてしまう。

鍛冶屋仕立屋のような手先の器用な人が適任なのだろうが

小さなあの集落にはお店は少なかった。

そのうえ、どうやらこの地区の人達は守護竜との交流は元々少ないようだ。

心配なのは

「一度にたくさんの人が一斉に糊を剥がしたら竜がくすぐったくなるだろう。」

悶て暴れでもしたら大変だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ