迷子の青空 37
身支度を整え馬に荷物を積み峠を越える。
谷間の通り道。
見上げるとフラマーが岩山に座っている。
「東の国の守護竜ね。スフィンクスみたい。」
フラマーはキリを待っていた。
だが魔女の臭いを嗅ぎつける。
ツグミに向かい言葉ではない叫びを浴びせる。
キリにはドオッっと地鳴りのように聞こえているだろう。
「魔女めっそうかあの黒猫はお前の相棒かっ。」
「忌々しい。そうと知っていればあの場で食い殺していたものをっ。」
どうにも只事では無い事態だと月夜野アカリも察するが
キリは慌てる様子もなく間に割って入る。
「さがれっお前に用は無いっ。」
「いやっお前に用があり待っていた。」
「用って?」
「ええいっその前にその忌々しい魔女を」
「この人が何をしたか知らないけど僕の命の恩人だ。食い殺そうってなら僕が相手になる。」
キリは腰の剣に手をかける。
正気か?この少年は私が竜族最強の戦士だと知らないのか?
混乱するフラマー
何か隠している。とっておきの必殺技があるのか。
ピータンもアクゥロもそれでこのような少年と契約を結んだのか。
脅迫されたか無理強いか。
「私はアイツらとは違うぞっ。」
フラマーがもう一度大きく叫ぶと山が震えた。
そして岩山から降りキリと対峙する。
「さがってください。」
キリはツグミと月夜野アカリを下がらせる。
「本気かよ。」
本当にこの大きな生き物と戦うつもりでいる。
「貴女は手を出したらダメですよ。」
キリはツグミに念を押す。
なんだ?なんなんだこの少年は。
恐れも怯えもせずこの私と向き合っている。
混乱止まないフラマー。
尾で振り払うだけで岩山に叩き付けられ全身の骨が砕けるだろう。
首を伸ばし噛み付いただけでその体は千切れるだろう。
鷲掴みにして舞い上がり海の化物に食わせてもいい。
息をするのと同じくらい簡単にこの小さな生き物の息の根を止められる。
手にする小さな剣など我が鱗を傷付ける事すらできないだろう。
キリは剣を抜き一歩前へ。
「待て。しばし待て。」
フラマーが後退りする。
「お前は我が友とどのように契約を結んだのだ。」
「友ってピータンとアクゥロ?」
「そうだ。」
「契約って何。」
「知らないのかよっ」
突っ込んだのはツグミ。
「そうか。友を救ったのか。それで契約を。」
ツグミの自慢気味の説明を聴き終えると
「しかし嘆かわしい。我が友揃って人の謀略に嵌まるなど。」
言いながらフラマーは自身がまんまと二人の男に出し抜かれたと思い出す。
「アンタも気を付けな。おかしなの二人ウロウロしていたからな。」
魔女ツグミの言葉に動揺するフラマー。と、キリ。
「そうなんですか?」
何も知らないキリ。
「あーあ言っちゃった。」
「だって。」
薪を拾いに林に入ると二人の男が現れこの峠を封鎖していた。
「それでその二人は?」
「今頃は街で捕らえられているだろうな。」
「あ、この馬ってその人達の?徒歩で下山させたの?」
「甘いくらいだ。」
「だから裸足にしたのよこの人。魔女って恐ろしいわ。」
「えーっ。」
キリの冷たい視線に
「いやいや私達殺されそうだったんだからな。」
「全部言うなよっ。」
キリは剣を収めフラマーに歩み寄る。
フラマーに岩を積んだのはその二人の仕業だろう。
騙されたのは人を疑わないからなのか
ただの油断なのかは判らない。
この先騙されるような事は無いだろうが
誰もがその二人の男のように誰かを騙そうと企んでいるとは思わないでほしい。
だから
「この峠を越えようとする人をこれからも見守ってほしい。」
キリの差し出された腕に、フラマーは無意識に顔を預ける。
不思議な少年だ。
どうして私がここを通る人々との交流を楽しんでいる事を知っているのだろうか。
だがなるほど。
どうやら我が友は心からこの少年を気に入ったようだ。
フラマーは魔女と少女に向かい
「すまぬがもう一日にあの小屋で過ごしてはもらえまいか。」
急に何とも丁寧な口調のドラゴン。理由を尋ねる前に
「この少年を借りる。翌朝には返す。」
キリ本人の確認も取らずに話が進む。
「まああの二人が持っていた食料もあるし。もう一日くらいなら。」
こうしてキリ少年はドラゴンに拉致される。
山小屋に引き返すツグミと月夜野アカリ。
「一体何なんです?」
「多分契約だ。」
「それ、前から誰かに聞こうと思っていたの。契約って何?」
「私も実際どうやっているのかまでは知らないが。」
西の国ではレミーとメリアがピータンと契約を結び
森の国では女王プリウムとアクゥロが契約を結ぶ。
「あれ?前の王様は?」
「契約していない。中の国の王もここ東の国の王もだ。」
「森の国の人限定って事?」
「いやそうではない。今回端無くそうなっただけだ。」
出身が何処であろうと、どのような地位にあろうと
竜族には関係ないとツグミは言う。
山小屋に到着する二人。
馬を繋ぎ手入れをして山小屋を少し片付け
話はそれから。




