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迷子の青空 30

商船の船旅は快適だった。

積み荷と共に揺られる事もなく星空を眺めながらの睡眠でもなく

少々窮屈ではあるものの与えられた船室で足を伸ばせる。

中の国西地区及び東地区には立ち寄るものの荷物の積み下ろしだけ。

結果、東の国へはメリア達一行よりも早く到着する事となった。

港でそれを知った月夜野アカリは副部長を連れ何故か船内へと戻る。

「副部長。ちょっと。」

月夜野アカリがまた何か企んだ。

彼女はウィッグを彼に投げ渡し、自らもクリーム色の髪になる。

本物の騎士が二人仕える。

都合よく(?)侍女役に吉岡ハルナもいる。

レミーとメリアとして東の国に降り立ってみようか。

「騎士殿二人は咎めるだろうからギリギリまで隠れていよう。」

悪ふざけが過ぎる。と思わない若宮アオバではない。

だがそれ以上に「演じる」のが好きだ。

自分では無い誰かになるのは楽しい。

それがどんな役であれ、その人物に成り切るのはそれなりの労力を要する。

だから正確には彼が好きなのは「役作り」ではある。

人前で披露するのはむしろ嫌いなのだが

自分ではないから。と言い聞かせ何とか舞台に立ち続ける。

ともかく、彼は止めなかった。

倉渕ミサトであれば止めたこの所業。彼は止めない。

当然一年の吉岡ハルナに意見など言える筈もない。


船室の施錠に回る船長は

異世界の少年少女が消え、王様と殿下がいると本気で驚いた。

よくよく見ずともさほど似てはいないのだが

先入観とは恐ろしい。その髪の色と身に纏う衣装ですっかり騙される。

中の国で積み込んだ商品を降ろす船員たちはともかく

それを手伝う付き添いの騎士二人でさえも

「どうしてここにお二人が」と一瞬ではあるが我が目を疑った。

ここまでで止めておくべきだった。

甲板に立つ月夜野アカリと若宮アオバ。

その姿を目にした港の人々が騒然とする。

元々東の国に「森の国」の住民が現れる事自体が稀だ。

さらに人々は幼い頃の二人の王子を知っている。

騒ぎはその速度と距離を広げ

荷物を下ろし、食事をしようと港町をウロウロする頃に

地区の代表者が挨拶に訪れる。

レミーとメリアだと疑わない区長。

調子に乗る月夜野アカリ。

後ろ髪を引かれながらも饗しを受ける若宮アオバ。

騎士二人はオロオロしたのだが

「騎士らしくしろ。」

と、メリアに叱責され背筋を伸ばす。


宴会の席

「守護竜の守護者殿はご一緒ではないのでしょうか。」

「後から来る。まだ中の国の守護竜と戯れているよ。」

口から出まかせ。ではない。

これまでの情報を整理すると

西の国での一連の後

メリアとキリは中の国の「森の国」と呼ばれる地域に向かい

その後その国の守護竜を癒やした。

東の国には既にそこまで伝わっているようだ。

この国に現れるのは間違いない。

後から出発した自分達が先に到着したのはそれが理由だろう。

多分無事で、きっとまた何やら動物と戯れているに違いない。

夜宴は遅くまで続いた。

途中「朝が早いから」と船長と船員達が引き上げている。

互いに旅の無事を願い

「私達の世界ではこうする。」

と手を差し出すと船長も

「握手の習慣は船乗りが伝えた。」

とその手を握った。

港街に暮らす人々の多くは寝静まっている。

宿までの通りは薄暗い。

潮を含んだ海風はやや生温い。

「なにか出そうですね。」

月夜野アカリと若宮アオバは同じ疑問を抱く。

吉岡ハルナの言う「なにか」はこの世界にも存在するのだろうか。


それは「なにか」では無く、

暗い闇に紛れた黒い衣服の「人」。

劇団騎士がその剣を抜いたのは

背後からの足音と僅かな金属音を耳にしたからだった。

振り払うように振り向くと黒い影が飛ぶ。

もう一人の騎士も剣を抜き、演劇部員三人の前方に立つ。

月夜野アカリも「囲まれている」と理解した。

彼女は腰に付けた短剣を抜く。

幸いだったのはこれが「小道具」ではなく

「小道具」を作る際の見本として譲られた「本物」でふる事。

若宮アオバの手にする剣も同様だ。

二人は吉岡ハルナを庇うように前に立ち構える。

四つの影。単純計算は無駄だ。

ただの強盗では無いのだろうと若宮アオバは膝を震わせ推測する。

演劇に説得力を持たせるように言われ騎士との稽古を続けている。

だからこそ対峙する一人の構えを見て

「騎士か元騎士」と判断できる。

西の国ほど治安が良くないだけかも知れない。

職を失った武士が野盗に成り下がったように

騎士が食うに困って人を襲うようになったのだろうか。

解決策や打開策が浮かばずグダグダと関係無いような事ばかり考えてしまう。

生粋のヘタレがそう簡単に治るはずもない。

ただもしかしたら

この四つの影は「レミー」を狙ったのかも知れない。

だとしたらこんな格好をして、吉岡ハルナを巻き込んでしまった責任は取らないと。

それだけの理由で彼は涙を堪えている。


二人の騎士も若宮アオバと同様の推測をする。

狙いはレミーとメリア。

「壁に付いてっ。」

演劇部員達があの日騎士達の施設を見学していなければ

彼らの意図が理解できなかっただろう。

数の有利不利を無くす訓練を目の当たりにしたからこそ

一番近い壁に背中を向ける。

しかしこれだけでは不充分だ。

本物のレミーとメリアであれば何も恐れる事はない。

あのお二人には我々のような名の無い騎士など足元に及ばぬ。

相手の一人は正式に剣の修練を積んだようだ。

どちらか一人がその者の相手をする。残り一人が三人を相手にしなければならない。

「下がれっ」

月夜野アカリが声を張り上げた。

「我らを知っての事であればこの場で切り捨てる。」

「知らぬで手を出したらなら大人しく下がりこの国の裁きを受けよ。」

足は震えている。

だが声は震えていない。

これこそ演劇部部長月夜野アカリ。


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