迷子の青空 28
翌朝、月夜野アカリは一人船長に会う。
「本当に行くとなるとどうなのでしょう。」
「つまり?」
「乗せて行ってもらえますか?」
「それは構わないが。」
条件として全員で一つの船室。もしくは荷室。
途中中の国で荷を積みそれから東の国へ。
「こちらこそその程度はかまいませんが。」
荷物と違い「食事」が必要になる。食料を積む場所も必要になる。
商品が減る分稼ぎも減る。そのあたりの補填について確認したかった。
「補填だって?」
彼は呆れたように笑う。
「君の友人に私は命を救われたんだよ。死んでいたら儲けなんて無い。」
またアイツか。
月夜野アカリは少しイラっとする。
「いえ、それは彼の行為で私のではありません。」
ただ異世界から来た者同士。友人などではない。
少なくともアイツはそう思ってる。
月夜野アカリは守護竜ピータンからだと言われ受け取った金貨を差し出す。
「これで間に合いますか?」
船長は驚き慌てて彼女の手を握りしめ、周囲を見渡し小声で
「すぐにしまいなさい。」
国王から旅の支度金として預かっている硬貨数枚で充分だと言われた。
しかもそれで演劇部員全員とその食事代も含まれる。
「旅にお金は必要だよ。」
とも言われた。それから
「守護竜の金貨は大事にしなさい。いつかきっと君達を守ってくれる。」
お守りのような物のつもりで言ったのだろうとこの時の月夜野アカリは考えていた。
それにしてもお人好しが多い国だ。
呆れるような感心するような。と金貨の事など脇に置いた。
これで少なくとも副部長とミサトの旅立ちの目途は付いた。
私はどうするべきか。
思案しながら駐屯地まで歩く月夜野アカリ。
前方から吉岡ハルナが慌て走り向かってくる。
「部長さんっやっと見付けたっ。」
探し回ったのか息を切らす。只事では無さそうだ。
部員の誰かが怪我でもしたのか。
「部室がっ部室が消えたって。」
駐屯地に戻ると部員達が青褪め騎士から話を聞いている。
月夜野アカリの戻りを知った部員達が駆け寄る。
赤堀サワは泣き縋る。
詳しく話を聞くのだが
「ある日突然消えた」
としか答えが帰らない。
村から王都へその報せが伝わり、レミーは即時この騎士を遣いに出した。
「レミー様は他所へ移された可能性が高いと。」
その根拠は?
「皆様がいらっしゃるからだそうです。」
それ以上詳しい事は判らない。
部室「だけ」元の世界に戻った。と言い切らないのは
私達(演劇部)への配慮ではないか。
そうでなければ
「あの王様やっぱり何か隠している。」
王都に戻ろう。急いで。
月夜野アカリは再び外へ飛び出した。
翌日暮れ前、演劇部員達は王都に到着する。
漁港に似つかわしくない大きな商船の入港に港は一時騒然とし混乱する。
騒ぎをの報告を受けたレミーは自ら港に向かった。
月夜野アカリはその姿を見付けるなり詰め寄る。
あまりの勢いに脇に控える騎士が間に入ろうとした程だった。
「さあ全部話して。」
「部長待って。その前に。」
副部長若宮アオバ。彼は常識を知っている。
商船の船長に無理を言ったお詫びとお礼はすべきだと諭す。
月夜野アカリは深呼吸する。
「すまない。ありがとう副部長。」
取り乱した件も含め船長に丁寧に詫びると
船長は快く受け入れる。
初めての王都を見学して明日出発すると興奮気味に駆け出した。
その一件が片付くのを待ち、レミーは演劇部員を城へと。
円卓にて料理を囲みながらのレミーは「お詫び」から始める。
レミーは長老とその部下(弟子だと言った)に
キリと演劇部員達が「どうしてこの世界に現れたのか」の調査を命じていた。
「残念ながら原因は解らなかった。」
「そもそもの事を確認したい。」
道具屋笠懸ヒサシが黙ったままの月夜野アカリに代わり
「召喚って魔法なのか。それとも儀式とか。」
「儀式、ではないな。」
それは道具と魔法による事象。
「つまり魔女が関わっているって事ね?」
月夜野アカリはようやく口を開く。
その口調は冷たくもあり熱くもある。
何も考えないではない。
今までの状況を整理するなら
「キリが魔女に呼ばれ私達は巻き込まれた」
アヅマが言い出した事だったか。
「待ってくれ。」
レミーがオルンの擁護をするのはただの感情からではなく
「それは不可能だ。」
「君達が現れたその時、オルンは私と西の街にいた。」
オルンが誰かに指示をした可能性は?
口にこそ出さなかったが、その態度から
レミーも彼女が納得していない事は察した。
レミーはオルンを疑わない。
仮にオルンが
「ピータンを救おう」と画策するのならば
先ず自分に相談がある。その事に疑う余地はない。
月夜野アカリは後にそれを理解するのだが
今は王の言葉と言え何一つ信用する根拠は無い。
「それにだ。」
次の一言で、月夜野アカリは考えを改めるしかなかった。
「装置があるのは君たちが現れた村だ。王都にはない。」




