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迷子の青空 21

「倉庫と食堂の街」と評した織機キリの言葉通り

観光には適さない地区であるのだが

築地も豊洲も未体験の演劇部員たちにはそれなりに新鮮で楽しい。

商船は大きく帆の枚数も多く面倒くさそうで楽しそうだ。

鮮魚の保存に使う氷を南の海から運ぶだけの船に驚き、

捕れる魚によってサイズも形状も異なる船の、その多彩さに感心する。

船を見ているだけでも面白い。

と言いつつすぐに飽きる。

「言っても船だから。」

夕方になるまでに一通りの観光を終えてこの街に飽きる。

「ちょっと根本的な問題なんだけど。」

いつになく真顔の月夜野アカリに

演技とは知らず息を呑む部員たち。

「ここで演劇する必要性を感じないのよね。」

「はあ?」

突然何を言い出すか。

「皆慌ただしくて忙しくて。」

月夜野アカリはこの地域に「週末の休日」の概念が無いと知った。

もしかしたらこの国全域がそうなのかも。

そもそもこの世界の「一日」とは日の出から翌日の出まで。

「一週間」は十日ある。「六十日」一ヶ月(一季節)。

曜日の概念すらない。

休日の価値観そのものがどやうら自分達の世界と異なる。

「ここは特殊な地域ですよ。」

と劇団騎士は笑う。

部室のある村も、中央地区の街も

各人が週の中で休日を設定している。

「週末だから休み」ではなく個人の裁量に委ねられる。

国の指針もある。

例えば複数人の集合経営の「会社」形態であれば

従業員は週の内2日の休日を受ける権利を有し

経営者はそれを与える義務がある。のだが

この国の殆どの国民が「なりたい者」になっている。

「休日」は病欠や法事以外必要としていない現状。


公演を行うなら夕方から夜。

ドラゴン二体あるので飲食店や組合会館での上演は会場の規模で不可。

王都の城下町や部室の村のように「公園」すら無い。

そのうえで働く者達の休暇がバラバラでは人が集まらないだろう。

「できない事ばかり並べるなんて部長らしくないよ。」

副部長の若宮アオバ

「いつも否定しかしないお前が言うな。」

「僕と部長とではそのスタンスが違う。」

「違わないだろ。」

「僕は自分がやりたいかやりたくないかを言っているんだ。」

「部長はできるできないを言っている。そんなの部長らしくない」

「いや月夜野アカリらしく無いって言っているんだよ。」

珍しく若宮アオバは声を張る。

「オレも副部長に同意。」

笠懸ヒサシが手を上げる。

「私もよ。アンタらしくない。」

会計で親友の倉渕ミサトも手を上げる。

赤堀サワと吉岡ハルナが顔を見合わせる。

一週間程度の付き合いで「らしい」「らしくない」は判らない。

でも演劇部の部長として昨日までずっと私達を奮い立たせてくれた。

どうして急にこんなにも投げやりで無関心で怠惰になったのか。


私は月夜野アカリ。

本当の私は月夜野闇。

他人とお喋りするのは嫌い。

苦手ではなく、嫌い。

演技をするのは

本当の自分を知られたくないから。

一人で本を詠むのが好き。

ヘッドフォンで弦楽四重奏を聴きながら

一人でじっと座って本を詠むのが好き。

父と母の怒鳴り合いが聞こえないように大きな音で

LEDのランタンを持って押入れに入って

本を開いてその世界で遊ぶのが好き。

パパがいなくなってママと二人。

いつも疲れているママ。私は大丈夫。パパなんていらないよ。

お腹もあまり空いていないからママが食べて。

私なら大丈夫。

私はいつでも違う私になれるから。


部員達を奮い立たせるのは

そうしないと自分が倒れてしまいそうだから。

アヅマを連れ戻しに旅に出ると言ったのは

本当は皆の元から逃げ出したかったから。

「私は強くなんてない。」

だがそれでも月夜野アカリはそれを口にしない。

まだ部長としての責任を果たそうと藻掻いている。

「私は自分が我儘で好き放題部長権限を行使しているの自覚しているからさ。」

「自覚していたんだ。」

「いつも厳しい事言っていると嫌われちゃうから」

「たまには甘いところも見せて油断させないと。」

「油断てなんだよ。」

「ええっこの後何か企んでいるの?」

笑って済ませよう。笑ってやり過ごそう。

私はいつでも違う自分になれる。


翌日は朝から「公演」可能な場所探しから始める。

衣装を着替える場所が欲しい。

ドラゴンを組み立て登場させたい。

幕や緞帳があるわけもなく、建物を借りられるか最悪建物の陰。

倉庫。食堂。宿舎。

港としての機能は素晴らしいがそれ以外が最低限過ぎる。

「ここの人達の娯楽って何。」

「ここの人に限らないだろ。この国の人達の娯楽が判らん。」

日の出と共に起きて朝食。

働いて

鐘の音と共に昼食。

働いて

日の入りと共に帰宅。

「それから夕食の支度をして。」

「船乗りは外食だな。」

駐屯地では、騎士達は団欒する者と身体を動かす者に分かれていた。

どうやらアルコール飲料は無い。

「公園でもあればそこでディナーショーできるのにね。」

赤堀サワは吉岡ハルナと冗談を言い合っている。

「サワちゃんが歌って踊るの?」

「ディナーショーって踊るの?」

「手品できるなら手品でもいいよ。」

「いいよってなんだよ。」


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