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迷子の青空 19

「私達のわがままで貴殿を振り回して申し訳ない。」

月夜野アカリは付き添いの騎士に礼らしき謝意を伝える。

演劇部仮入部中の騎士は

「貴女方のお手伝いをさせていただけるのは光栄です。」

訓練と警戒の日々は単調になりやすい。

騎士の出番が無いのは何よりではある。

「そう言っていただけると気が楽になる。」

我々がもう少し馬の扱いに長けて、剣術や弓術を嗜んでいるならば

「演劇部」だけで行動し、騎士達を煩わせる必要も無いのだが。

気が咎める。的なニュアンスを伝えるのだが

「いえ、我々は王の命を受けております。」

「貴女達異世界の皆様にこの世界で安全に過ごせるようにと。」

やはりそうか。

月夜野アカリ。この世界に来て自分が策士であると自覚する。

演劇部員としてのスキルをこんな形で発揮するのは少々不本意ではあるが

情報は必要だ。

この騎士は「見張り役」。

我々の安全を願っているのか、我々を危険と見做しているのか。


「ハンガーが足りない。」

道具屋笠懸ヒサシは新規に制作する「暗黒竜」の材料が無いと零した。

「代替品を探すしかあるまい。」

「鍛冶屋さんに作ってもらいますか?」

「ここまで細く長いのは難しいと思う。」

「では笹はどうですか?」

「ササ?」

この世界は陶磁器が少ない。

土の性質なのか技術的に未発達なのかは不明だが

食器や容器はその殆どが木製。

木材をくり抜き削る。木の皮を編む。

「チシマザサに似た笹ですから1mくらいは普通に使えますよ。」

「お前パンダか?お前パンダなのか?」

「なんですかそれ。」

「いや笹に詳しいからさ。」

「実家が長野なので。」

手分けして笹屋を探すが見当たらず。

「自生している笹を好きなだけ持っていけ。」

と揃って笑われた。

村の人との約束通り道具屋笠懸ヒサシは依頼を受けた仕事をこなし

その後夜を徹して竹細工に励む。

竹ひごを作る道具は鍛冶屋がすぐに作ってくれた。

(鉄板に穴が空いているだけのようだ)

吉岡ハルナが入手した麻紐を用いて骨組みを作る。

「無理するなよ。」

月夜野アカリの言葉には従う。これは「無理」ではない。

きっとこれが最後の大きな小道具作り。


「世界を見て回りたい」と言った若宮アオバの真意がどこにあるのかは不明だが

月夜野アカリは照れた倉渕ミサトからそれを聞かされツアーの初日公演場所を決める。

「西へ行こう。」

理由は至ってシンプルだ。

「まだ行った事がないから。」

レミーにそれを伝えると彼は早速船の手配を整える。

促され漁港に到着すると驚いた。

「漁船じゃね?」

帆船。そのサイズをキリ達の船と比較すると二回り以上小さい。

サバニ(琉球地方の漁船)のような帆曳船(一枚の帆)ではなく、

この国の多くの漁船と同様「カッター」に近い一本のマストに複数の帆を張っている。

キリ達の船は二本のマストに多くの帆「ブリガンティン」に似ている。

幸い、演劇部員達はその船を目にしていないので

扱いの違いにレミーが責められる事は無かった。

「帆船なんて初めて。」

それなりに好奇心が湧き高揚する。。

しかしまさかこの船の上で夜を明かすとは思いもしなかった。


王都から西地区湾岸区域まで他に港は無い。

島の北(赤道側)の湾岸線の殆どが「崖」になっている。

海から岩山が生えているような海域もあり

船は陸からそれなりの距離を開ける必要がある。

元々海岸線に人家は無く陸からの光は届かない。

海に溶ける夕陽に心を奪われ、

やがて広がる星空に誰もが言葉を失う。

のだが

それ以上に夜の海は暗く、恐ろしい。

目線を落とすと広がる闇。深淵。

逃げるように上を見る。

SF映画でしか見たことの無い星空がその手に届きそうだとしても

身体の下の揺れる闇に飲み込まれるような錯覚。

穏やかな凪は部員達に安らぎを与える事なく

その静かな揺れがただただ不気味だった。


夜が明け、西地区の漁港に到着したものの

演劇部員達は上陸と共に全員倒れ込んでしまう。

漁船の持ち主である漁師と二人の騎士は

「なんでもない」顔で積荷を降ろす。

当然朝食なんて無理。

「食材を無駄遣いしないで。」

しばらく横になっていれば治るからと

殆どが漁に出ている漁港で横になり潮風を浴びる。

海を眺めなていると

それほど離れていない商用港での

賑やかな喧騒にも似た活気に意識を向ける程度に回復する。

それでも起き上がれない赤堀サワはつい口にしてしまう。

「こんなトコで何やってるんですかね。」


馬車の手配を終えた騎士が演劇部員達の元を訪れ

「今日の公演は中止にしますか?」

月夜野アカリは

「いや、やろう。」

と立ち上がる。と誰もが思っていた。

皆の尻を叩き私を俺を立ち上がらせてくれと願っていた。

だが彼女は

「そうだな。今日は休養しよう。慣れない船旅で疲れてしまった。」

あれ?と思う同時に、それならそれでと肩の力を抜く部員達。

街の宿ではなく、騎士の駐屯地の宿泊施設を利用。

荷物を降ろしそれなりに回復した演劇部員達は昼食へと出掛ける。

「部長。行きますよ。」

「いやあ済まない。まだ回復していないようだ。私はもう少し休むよ。」

判りましたと外出する一行。

倉渕ミサトも「何も言わない」事こそが親友の努めだと信じ外へ出る。


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