迷子の青空 09
「電気が使えないって事はほぼ全ての効果が使えないって事だ。」
「アナログで出来ない事もないだろ。」
その昔、演劇の演出はデシタルではなく「創意工夫」だった。
今でもそれは変わりない。が、その殆どは「電力」を利用する。
「芝に居るから芝居。」
「は?」
「道具屋、このドラゴン翼広げられるようにできるか?」
「あと身体が伸びるといいな。」
「もうちょっと細かく言ってくれ。炎吐き出せってんなら」
「いやそれはいい。」
月夜野アカリは笠懸ヒサシにドラゴンの改良を求める。
「アオバ。明日から剣の稽古に集中してくれ。」
「待ってよ。一体何させようっての?」
「ヒーローショーだよ。」
敵が必要だ。
「ああこのドラゴンが敵役だったら楽だったのに。」
「もう一人二人欲しいなぁ。」
アヅマがいたなら。
買い出しに行った二人の部員がいたなら。
無いものを強請ってどうなる。
「あ、一人いますよ。部長も知っている人。」
赤堀サワの心当たり。
この世界の知り合いなんて知れている。
「演劇経験もあるし。」
「経験者?誰だよ。」
赤堀サワが引っ張ってきたのは一人の騎士。
「いつぞやの。」
騎士団長と共に演劇部員達を護衛していた騎士。
「演劇経験てこの国の劇団にでも入っているとか?」
「何言ってるんですか。私達とお芝居したんですよ。言ったでしょ。」
はて。と記憶を手繰る。
私達?
ああ部室に戻った時に何かやらかしたって言っていたな。
「だがよろしいのか?子供のオモリにかまけて。」
「そのへんは心配召されるな部長殿。」
赤堀サワが騎士の口調を真似る。
「既に王様には許可をいただいた。」
本物の騎士が使えるなら配役を変えるか。
「判ってる。俺が悪役な。」
笠懸ヒサシが察する。
「劇団騎士殿には騎士団長の役を頼む。」
「身に余る光栄です。」
「でもどうする。敵方俺だけだぞ。」
敵一人。
vs
レミー、メリア、騎士団長、そしてドラゴン。
「確かにバランスは悪いな。」
強大な敵は主役を引き立たせるとは言うが
そもそも主役が決まっていないではないか。
「あれ?王子様じゃないのか?」
「ん?んー。まあそうなんだけどな。」
月夜野アカリの「ヒーローショー」としての最初の思いつきは
メリアと騎士団長が敵の船を何とかしようと奮闘。
どうにもならなくなった場面でドラゴンと王子様登場。
最後は悪役と一騎打ち。
だったのだか
「船を何とかしようと奮闘。の場面が作れないかもなって。」
吾妻アヅマの不在を痛感する。
「バトル物って仲間とか友情とかテーマになっているから複数が多いのよね。」
敵方の雑魚キャラが多くて一人じゃ辛い。とか
敵が強すぎて一人じや倒せそうもないから手を貸せと徒党を組む。
「今回は雑魚キャラも出せない。」
「敵一人に対して王子様やら騎士団長やらドラゴンやらが囲んだらそりゃもう正義じゃない。」
「ちょっとお伺いしますが。」
月夜野アカリは新人演劇部員(仮)の騎士に「この世界の騎士」の在り様を聞く。
「やあやあ我こそは」と名乗り一騎打ちを望むのか
それとも味方が勝つのならば手段は選ばす闇夜に紛れて寝込みを襲うのだろうか。
月夜野アカリが確認したいのはこの世界での「騎士道」。
卑怯と呼ばれる行為はあるのか。
「戦では卑怯な手段はありません。」
相手を背中から切りつけようと、遠くから矢で射抜こうと野営地に火を放とうとも。
負けたらそれまで。自分の命だけの問題ではない。
相手よりいかに有利な状況を作るか。
戦術の基本。
相手が一騎ならこちらはそれ以上で対応する。
「逆の立場になったら?」
「そのために日々修練をしています。」
翌朝、演劇部員達が訪れたのは騎士達の訓練場。
城から馬に乗り少し。
郊外の原野に石造りの建物が複数点在している。
そのどれもに人の気配はなく、
小鳥が囀っていなければゴーストタウンのようだ。
「廃墟みたいね。」
「いや多分これ施設だ。」
「施設って何の。」
「キリングハウス。」
SAS(イギリス陸軍特殊空挺部隊)の訓練施設。
早朝、騎士達数名が交替でこの施設で実践的な訓練を行う。
状況を設定しロールプレイ。
その殆どは「孤立」。
敵地であろうとこの国であろうと
味方の隊からはぐれないとは言い切れない。
1対複数の状況に陥った場合
見晴らしの良い場所に出てしまえば
猟師に狙われるウサギと化してしまう。
建物であるとか森の中に潜み脱出の機会を伺いつつ各個撃破を試みる。
「あ、だからメリアは短いの腰に挿していたのか。」
城では長剣を振り回せない。
「近接戦闘能力だけで言えばメリア様は騎士団長殿より上です。」




