迷子の青空 08
仲良くなったようで
黒猫ノトはオオカミ犬「タクサス」の背に乗る。
その毛並みと歩く揺れが心地良いのか
歩く犬の上で眠る黒猫。
僕でも乗れそうだな。と結構本気で考える高校生男子織機キリ。
木々から林、森へと通ずるのではなく、
道から突然森に入る。
「逸れるなよ。」
メリアのこの一言は脅しではない。
決して「深い森」ではない。
木々が密集し青空が見えない。程でもない。
人為的に整備され見通しは良い。
それでもキリは森に入りすぐ方向を見失う。
ぐるり一周同じ景色。
「これは、迷うな。」
この国の住民が森の住民に近寄らないのは「近寄れない」からではないか。
太陽の位置は判るが殆ど真上。コンパスの差す「北」はこの世界の「北」なのだろうか。
途中何度か曲がる。
それが曲がり角であるかのように曲がる。
勿論「道」はない。
あの犬が案内しているだろうか。
どうやら違う。
メリアは時折「木」に触れる。
その表情は友との再会を喜ぶ少女。
演劇部員達はこの世界の子供達の日常を過ごす。
狩りの訓練に弓矢の扱い。
戦闘の訓練に剣術と素手の護身術。
そして馬の扱い。
子供達は異世界の「お兄さん」「お姉さん」を珍獣の如く取り扱う。
笑いが絶えず
実に長閑で牧歌的な課外授業。
「教室でお勉強。みたいな事は無いんだな。」
「お城でやっているみたいよ。長老さんとかオルンさんが教師役。」
「ここまで来て勉強したいの?」
「ここじゃなくても勉強したくない。」
「実際授業に相当遅れているだろうね。」
若宮アオバの言葉に全員次の言葉を繋げずにいた。
あれから何日経ったのだろう。
月夜野アカリは吠える。
「何日経っていようが知った事か。」
見るべきは未来。
修学旅行じゃあるまいし、この異世界旅行に「旅のしおり」なんて無い。
「誰もがそう簡単に来られないような世界に来ているんだ。」
「堪能しないでどうする。」
子供達がお城で「授業」を受ける。
その間演劇部員達は「部活動」に励む。
立ちの読み合わせ。
効果担当吾妻アヅマの不在は演劇部員達に予想以上の混乱を与えていた。
「元々電力の必要な機材は使えない。」
と月夜野アカリは吾妻アヅマの不在は言い訳にならないと言っていた。
だが実際に動き始めると、他の誰よりも彼の不在を嘆いた。
いつもは体育館や公民館の屋内を想定しての演劇。
今回のこれは野外劇。
「やった事無いんですか?」
「野外劇そのものはあるよ。ただそれでも今はポータブルなんちゃらは多いから。」
実際、新入部員勧誘式のファンタジーは校庭で上演予定だった。
現代演劇の多くは光や音の効果も含めて公演が成立している。
「火薬使えないのは痛かったよな。」
「痛いと思ったのはお前だけだ道具屋。」
それでも現状出来る最高の舞台を作る。
月夜野アカリは演劇に妥協しないと部員達は知っている。
入部して一週間足らずの新入生の二人すら心得ている。
「技術的に無理なら諦める。それだけだ。」
諦める
こんな単語が月夜野アカリの口から発せられるとは思わなかった。
言い方の問題だろうと
この時は誰もがそう思っていた。
直後
「出来る限りの事はするぞ。」
と発破をかけたので少々うんざりしたほどだ。
「プリ○ュアショーみたい。」
「みたいって見た事あんのかよ。」
「あるよ。」
若宮アオバには姉と妹がいる。
手を引かれ見に行くのは戦隊でもライダーでもない。
「あれだって効果担当いるだろ。」
「うん。キーボードみたいの使って一人でやってた。」
若宮アオバと笠懸ヒサシの会話に興味を示す月夜野アカリ。
「キャラクターショーか。」
直前の子供達との交流を思い起こす。
観客を巻き込むのに都合が良い。
勧善懲悪にしてレミーとメリアを際立たせる。
音響照明効果が使えない分を派手なアクション。
チラリと吉岡ハルナを見る。
仕立屋にハタオリキを演じさせるか。
しかしレミーとオルンの大人の恋愛が描けないな。
「出来はともかくあの村での公演は良かったのかもな。」
「何です突然。」
「ああうん。すまない。皆集まってく」
「もういるだろ。」
「また面倒な事企んでいる顔して。」




