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羽撃く者達の世界 ~演劇部異世界公演~  作者: かなみち のに
第一幕 「羽撃け、友よ。」
27/181

「羽撃け、友よ。」 27

宿泊施設の1人部屋に案内される。

今度目覚めたら夢は覚めているだろうかと、

この世界に来てから毎晩同じ事を考えている。

レミーから譲られた服を脱ぎたたみ、

寝巻きは牧場の息子さんのおさがり。

眠った。と思ったと同時にベッドの上に何かの気配を感じた。

枕元で何か黒い塊。

「ノトさん?どうかしましたか。」

「おっと。起こしてすまない。私の寝床が無くてね。」

「ああそうでしたか。僕は床で」

「待て待て。横の隙間を使うだけだ。お前はこのまま眠れ。」

「寒くなったらいつでも潜り込んで」

言い終わる前に眠ってしまうキリ。


翌朝

ルメニーの声に起こされる前に見た夢は

砂浜にライオンがいる。

ああそうか。僕は今サンチャゴとシンクロしているのか。

彼に聞きたい事があったんだ。いい機会だ。

「何を聞きたかったんだっけ?」

口に出していた。

「朝食はいらないのかって聞いているのよ。」

キリを呼ぶよう仰せつかったルメニーが呆れて笑う。

まだ夢は覚めていない。


月夜野アカリは一人、部室の裏で朝食を全て吐き出す。

涙をボタボタと落としながら。

こうなる事は判っていたからスープだけにした。

「まったくいつもいつも。」

会計倉渕ミサト。月夜野アカリの幼馴染。親友。

「ミサト。頼むよ。」

「判ってるよ。」

彼女は水の入った木の器を渡す。

「いつも支えてくれて、感謝する。」

「私にまでその芝居口調はやめろ。」

受け取った水で口をゆすぎ

「それは無理だミサト。私は他に方法を知らない。」

月夜野アカリは、親友の肩に手を置く。

「さあ行こうか。幕が開く。」


部室に転がっていたワイヤーハンガーを骨組みに、

ただ布を被せただけのドラゴン。

それでも三体目ともなると慣れたものでそれなりに見える出来栄え。

倉渕ミサとはその体格を活かさぬよう

弱ったドラゴンを演じる。

道具屋扮する騎士団長登場。

「姫、他国からの進軍を確認しました。」

ギアを上げる月夜野アカリ部長。

「私が指揮を執る。続け。」

パソコンとプロジェクターを駆使し民家の白い壁に敵船を写す。

危険な状況で撮影を続けた赤堀サワの手柄。

「投石機の準備はどうか。」

「いつでも発射できます。」

メリアに騎士団著が答え、

「よし、一投目ハズレても構わん。距離を測れ。」

「はい。」

「撃てっ。」

メリアの号令。そして壁に実際の映像。

「これでおよその見当はついたな。」

騎士団長は即座に調整を終える。

「発射準備整いました。」

「よし、撃てっ。」

二発目、船に命中する。

「しかし、敵は怯まない。港に迫り来る。」

赤堀サワのナレーションは緊張感を煽り

メリアは剣を抜く。

「民は私が守る。」


王子の帰還。

レミーが現れると村の若い女性から軽い悲鳴。

ぐったりする竜を慈しみを込めて撫でると

女性客からはうっとりとしたため息が洩れる。

「守護竜ピータン。さあ起きるのだ。」

倉渕ミサトがその体格を活かす。

副部長アオバは、本性のヘタレがバレないよう必死の演技。

それがより緊張感を煽る。

「羽撃け、友よ。」

アオバの台詞に再び女性の悲鳴。

ドラゴンの雄たけびがブルートゥーススピーカーから流れ

映像の船が沈み

騎士団長の勝利の雄たけび。

メリアは

「けが人はいないか。船を出せ。戦が終われば敵も味方もない。」

赤堀サワのナレーション

「守護竜ピータンは復活しました。」

「王子レミー、メリア、そして騎士達は」

「迫る敵の侵攻を食い止め追い返しました。」

「これは本当のお話です。」


上演が早朝だったのは

この村の男性が早くから鉱山へと向かうから。

その演劇が絶賛され拍手が鳴り止まなかったのに

演劇部員が慌て片付け馬車に乗り込むのは

鉱山で働く屈強な男性達が

「僕の恋人が」「俺の嫁が」「わしの妻が」

若宮アオバは身の危険を感じるほどの殺気を浴びるから。

「野郎共乗り込めっ引き上げるぞっ」

月夜野アカリは、汗を飛ばしばなから

大きな笑顔で馬車に飛び乗った。



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