「羽撃け、友よ。」 21
「少年。逃げるぞ。」
「はい?」
「グズグスするなっ走れっ」
「走れって、どっちに。」
黒猫がぐるり見回す。
「アッチだ。」
前足を伸ばす。やっぱり猫だ。猫の手だ。
「走れガンプ走れっ。」
キリは言われるまま黒猫を抱いて走る。
人の輪の一点を突破するように走る。
ドラゴンから降りて、喋る黒猫を抱いて、走る。
騒ぎの中心にいたキリが逃げ出したので港の騒ぎも収束した。
人混みに紛れると「もう走らなくていいぞ」と黒猫が言い
そのままキリの頭の上へと登った。
「お前契約者だな。もう一度あのデカブツ呼んでくれ。」
「申し訳ありません。詳しくお話いただけませんか?」
「北の大陸に行きたい。乗せていってくれ。」
守護竜をタクシー扱いとか
猫らしい図々しさと言っていいのだろうか。
黒猫が言うには
西の国(この国)の西地区(この場所)に来れば
他所からの船が港に着く。
潜り込んで東の国に渡り、そこから北の大陸を目指す。
「ここから直接北の大陸には行けないのですか?」
「竜に乗って来たのなら判るだろう。この先は海だ。」
「そうですね。ああそれで竜に乗せてくれと。」
しかし契約者とか何の事かよく判らない。
今回のコレは王子がそう取り計らってくれたからだ。
「僕に何かお手伝いできますか?」
黒猫は呆れていた。
なんだってこの少年はこんなにもお人好しなのだろうか。
こんな黒猫が言っている事を真に受けて本気で
いやそもそも黒猫が喋っている事そのものを不思議に思わないのか?
「最初の目論見通り船を探す手伝いくらいなら。」
「残念ながら船は無いんだ。」
黒猫はため息混じりに続ける。
「どうやらこの国は戦争になって他の国の船がしばらく着けない。」
「戦争は終わりましたよ。」
「なんだと。」
「お前が捜しているのは魔女だろ?」
黒猫はキリの頭の上に乗って喋る。
「どうして判るの?」
その格好は王族にしか許されていない。
先日、あのデカイのが来て王子を連れて行った。
今日またアレに乗って現れた少年が戦争は終わったと言った。
「レミーが魔女を帰らせるよう遣いをだした。」
「凄いですね。正解です。」
「すぐに会えるだろうよ。その前に食事に行こう。お腹空いた。」
「そうですね。」
キリは朝食を抜いていた。
ドラゴンの背に乗り酔ったらどんな目に合うか。
「何処か食事できる場所はありますか?」
「お前になら何処の誰でも食事を恵んでくれるだろうが。店に入るか。」
黒猫の案内に従い食堂と思わしき店に入るキリ。
頭に黒猫を乗せているので
「あの、この子が一緒でも構いませんか?」
と尋ねると
「どうぞ構いません。こちらへ。」
すんなり案内される。この世界ではペットに寛大なのだろうか?
メニューらしきがあるが
「僕は文字が読めません。」
「何?」
「会話は出来るけど、僕の世界とは言語が違うようです。」
黒猫は頭の上から降りてテーブルの上に。
「そうか、お前召喚されたのか。」
黒猫が言うには、召喚された者は
魔法が施され言語が通じるようになる。らしい。
「召喚について何かご存゛しでしたら」
「まあ待て。とにかく食事だ。メニューを読んでやろう。苦手なものはあるか?」
これとこれを頼め、あとこれも。
と、猫は手で指示する。
「蒸し魚果実のソース」
「白身魚とトマトの煮込み」
「あとパン。」
ソースとかトマトとか通じるのか。
料理が運ばれるのを待っていると
何やら港が騒がしい。
「何でしょう。」
「さあね。おっと料理がきたぞ。」
料理を運ぶ女性に何の騒ぎなのか尋ねると
「この港にまたピータンが来たのよ。」
昨日王子様を乗せ飛び立って
今度は誰かを乗せてきたようだと。
「ああそれなら。」
キリは受け取った料理をノト用に分けながら
「ドラ、守護竜のお陰で戦は既に終わって、交易再開するよう報せる役目を仰せつかって。」
「本当ですか?」
「はい。食事が済んだら区長さんに会わないと。」
「はい?」
その女性は改めてキリの格好を見て
いやまさか黒猫を頭に乗せたこんな少年が。と。
慌て店の奥に飛び込み、
そしてあっと言う間にこの事実は町中に広まる。
だが「今のこの騒ぎ」はキリが原因ではない。
港には、三度び守護竜が舞い降りていた。
乗っていたのは2人の少女。
キリのとき同様、人の輪が出来て
その輪から抜け出る1人の女性。
ピータンは、黒猫のとき同様一瞥くれて飛び上がる。
「メリア姫?どうして。」
「お前と話がしたくてな。」
「ご無事で何よりですオルン様。」
「ルメニーまで。」
ピータンに乗って現れたメリアとルメニー。
出迎えた者こそ魔女。オルン。
「聞いた話では少年だったとか。」
「少年?何の話だ?ああキリはどうした。」
「キリ?なんです?ちょっと話が見えません。」




