「羽撃け、友よ。」 20
月夜野アカリは「部員の総意」として
王子レミーからの依頼を「受ける」と返事をした。
「それは有り難い。」
人に何かを伝えるのが本分の演劇部。
「ただその。徒歩、ですかいな。」
「いや、馬車を用意する。」
あの荷馬車か?またあれに乗るのか?
用意されたのは二台の「人が乗る」馬車。
豪華絢爛とは言えないが荷馬車よりマシ。
それを引くのは二人の騎士。
一人は先日「部室」への送迎を行った騎士。
もう一人は何と「騎士団長」。
「サラマンダーのクリスチャン・ベールとマシュー・マコノヒーみたいだ。」
確かに見た目は似ている。
男子三人、女子四人に分乗。
朝から移動、当日中に次の地点へ。
その地の人々に「守護竜の復活」を伝える。
「質問。」
月夜野アカリは挙手をするが挙手の習慣はあるのか?
「ドラ、ピータンさんの病気は隠していましたよね。」
「噂は広がる。現に西地区でもその話を聞いた。」
なるほど。と。
「それと、騎士団長さんお借りして、その王都は問題ない?」
「全く問題ないとは言わない。だが今は君達に付いているべきと考えた。」
この王子様は正直者だな。と月夜野アカリは呆れ感心する。
要は、早い話が、
王子様は我ら演劇部員を王都から追い出したい、
いや、遠ざけたい。逃したい。
騎士団長はただの御者ではない。
その目的は演劇部員達の護衛にある。
王都は荒れる。他国からの進撃ではなく、内部の問題。
もしかしたら血が流れる。
月夜野アカリの推測はほぼ正解する。
各地で溢れる噂の是正。
これは正解。
二人の騎士は演劇部員の護衛。
これも正解。
演劇部への依頼と、
織機キリを西地区まで飛ばしたレミーの真意は同一だ。
他の演劇部員達がそれを理解しているだろうか。
王子レミーの決意、
「これ以上異世界の者を巻き込みたくない」
しかし正解は「ほぼ」であり全てではない。
王都は既に荒れている。
騎士団長に演劇部員達を委ねたのは
彼にその責務を負わせたくなかったからでもある。
もう一つのレミーの決意、
「騎士達の手を身内の血に染めてはならない。」
高い山が連なる。
庭園で見送るレミーもメリアも点のようなのに山の頂は見えず。
森林限界を超え山々が雪に覆われる。
高すぎるっ。苦しい。
軽く意識が飛びかける。
「もうちょっと低くお願い。」
「先日の仕返しだ。」
先日って何だ。仕返しって何だ。鼻を叩いたあれか。
ゆっくりと高度を下げるドラゴン。
雲を抜け開ける視界。
大きく羽撃き、高度を保つ。
広がる青い空と、もっと青い海。
言葉にならない。って言ったら演劇部の人に怒られるかな。
「君はいつもこんな景色を」
キリのその言葉の後ろを察したのだろうか
旋回するドラゴン。
世界も回る。
振り落とされないよう必死にしがみつく。
手綱なんて物がある筈もなく、その首に腕を伸ばすのだが
少年一人丸呑みできそうな程の太い首。
こうなるともう景色どころではない。
振り絞って
「もう少しゆっくりお願い。」
懇願する。
人間とは何とも貧弱な生物だ。とでも言いたかったのか?
ピータンはそこまで傲慢ではない。
このドラゴンはただ「ちょっと」遊びのつもりでキリを振り回した。
この生物の「ちょっと」がキリには受け止めきれない程大きかっただけ。
改めて見る眼下の景色は
「あの地図はそれなりに正確だ。」
と判別できる。だがどうにも違和感がある。
この時は竜の背から見下ろす世界にその違和感の正体を委ねてしまったが
後に判明する。
川沿いに街道。部室のある村。
あれが部室で、と確認する間もなく飛び過ぎる。
風を受けて、鼻水出そう。
ピータンは港に降下しようとする。
停泊している小さな漁船は慌て帆をたたむ。
「あっちの砂浜のが人が少なくて。」
「目立たなくてどうする。人探しだろう。」
こいつ頭イイな。
騒がしい港の人々が揃って見上げる。
巨大な竜。
着陸の際の翼が起こす風に人々は輪になるよう広がる。
ヒラリ。とはいかずモタモタと降りるキリ。
偉大な守護竜の首を親しげに撫で
「ありがとう。楽しかったよ。」
キリは友人にそうするように笑顔で挨拶。
ピータンは大きく翼を広げ、空へと。
突然、人の輪の一点から黒い影。
「待てっ。そのデカイの止めろっ」
それは速く、しなかやに跳ね、キリの肩そして頭へ
そして翔ぶ。
ドラゴンは、それに一瞥くれて青空へ消える。
「あの野郎っ」
落ちてくるそれを受け止めるキリ。
親方、空から、
空から黒猫が。




