「羽撃け、友よ。」 19
「帰りは馬になる。」
「大丈夫だ。キリは乗れるから。な。」
キリは王子レミーからもう一つ重要な役目を仰せつかる。
「帰路、各地に戦闘行為の終結を報せる」
西地区に到着次第「魔女」を探す。
「でもどうやって?」
話を聞く限り魔女っぽい格好はしていないようだ。
「心配するな。ピータンに乗って現れれば向こうからやってくる。」
出会った魔女に王子の親書を渡せば
彼女が西地区の責任者(区長)にその旨報告し、
駐屯地の騎士達にも帰宅を命じる。
それから演劇部員と部室を元の世界に戻す方法を聞いて
帰路「平和の訪れ」を触れ回りつつ
王都(もしくは部室)まで戻る。
早朝。まだ日も登りきっていない。
演劇部員達が未だ夢の中、月夜野アカリ一人身体を起こす。
織機キリの寝床は空。
あれから彼はこの部屋に戻らなかった。
「何も言わずに行くつもりか。それもいいだろう。」
彼の意思を尊重しようと再び横になる。
少しだけ考え、起きた。
寝巻きのジャージ姿で外へ。
予想通りキリは庭園にいた。
この国の衣装を身に纏い
肩からローブを羽織り、留め具は竜の飾り。
「これを持っていけ。」
メリアは自身の短剣をキリに渡す。
ピータンの鱗掃除に使ったそれは、
竜の鱗を合わせ鍛えた業物。
「剣なんて僕には扱えません。」
と、受け取りを拒否するのだが
「身を護るには武器が必要だ。」
メリアに押し付けられ手にするキリ。構えてみるものの、
「うーん頼りないなぁ。」
剣を振るキリは月夜野アカリに気付く。
申し訳なさそうに
「行ってきます。」
一言何か言ってやりたいが気の利いた台詞が思い浮かばない。
演劇部部長が情けない。
「帰ったら」
「帰ったら入部届け出すのよ。」
夜明けと共に現れるドラゴン。
大きく偉大な竜は小さく貧弱な少年を乗せ、羽撃いた。
演劇部員達は朝食に招かれる。
それが終わったら今後の方針について語り合おう。
と打ち合わせていたのだが
「君達に仕事を依頼したい。」
王子レミーの依頼。
守護竜の復活と戦の終結。侵略は防がれた。
それを各地に報せて欲しい。
「それはあの子が行って済む話では?」
「君達は、王都から西へ。」
陸路であればどこかで必ず出会う。
野営地か村かは判らないが
キリが最西端から東へ
演劇部員が最東端から西へ。
「総意を確認します。返事は昼食までに。」
月夜野アカリは依頼を持ち帰る。
庭園で、のんびり。している場合ではない。
現在異世界に飛ばされた演劇部員は総勢7名。
「多数決とは言わない。」
それぞれが、それぞれどう動きたいのか本音を知りたい。
「副部長アオバ。君はどうしたい。」
「部長こそ。」
「私はもう決まっている。でも私から言うわけにはいかない。」
オタ眼鏡ひきこもり吾妻アヅマ。
「俺は部室に戻りたい。戻ってそこから出たくない。」
「でもそれじゃ食っていけない。」
どうしたいのか。ではなくどうなってしまうのか。だ。
そんな事聞いていない。
「アンタはここでも村でも仕事ありそうね。」
倉渕ミサトが道具屋笠懸ヒサシを煽る。
「かもな。俺は食うに困る事はないだろう。」
事実、手に職のあるやつは強い。
「それを言うなら新人の仕立屋だって。」
「私ですか?私なんて。」
答えが出ない
問題ばかり提起され、現実だけが突き付けられて
これからどうなるのか判らないから
これからどうしていいのか判らない。
「部長はどうするんですか。私は部長に付いていきます。」
赤堀サワは部長に委ねた。
たかだが2つ年上の女子高生に自分の未来を託した。
「それも一つの答えね。」
月夜野アカリは躱す。
誰も「自分はこうしたい」と言わない。
皆、誰かが先に言ってくれるのを待っている。
だが部長は部員を突き放す。
「主人公を誰かに押し付けるな。演劇部員達よ。」




