次回公演のお知らせ 47 羽撃く者達の世界 外伝 黒猫の悪戯 完
3日後、全員揃い帰宅。翌日からの登校も許可された。
「久しぶりなような気がする。」
倉渕ミサトが鍵を開け中へ。
散らかった部室。
部室の裏で笠懸ヒサシが叫んでいるが無視だ。
見慣れない古紙のような紙束。
「赤堀サワは脚本書けるの?全部ファンタジーね。」
「は?私そんなの書いてませんよ?」
「でもここにお前の名前があるぞ。」
「これいいじゃん。勇者を待ちながら。」
「どれ。」
赤堀サワの殴り書きを回し読みする三年生。
「ゴドーと違って最終的に勇者抜きで立ち上がる村人ってのはいいかもな。」
「この羽撃く者達の世界っての何でこんなにあるの?」
「配って読ませたかったのか?」
「だらかそんなの知りませんて。」
「この勇者のキリって何処かで聞いた名前だな。」
「設定が勇者っぽくないのは何か狙いがあるのか?」
「結局勧誘式に出られなかったからな。この中から次回公演決めるか。」
「ねー部長っ剣知りません?勇者の剣。」
「うわっ重っ。副部長っ剣てこれ?これで殴ったら死ぬってマジで。」
「なにこの服の山。村人っぽいのとか騎士の甲冑とか誰の発注よっ。予算無いのよっ。」
「ったく騒がしい先輩達だなぁ。なあハルナ入部するのやめるか。って何で泣いてるんだ?」
「おう部長っ。勧誘式演劇部だけ出来ないか聞いてくれよ。」
「部長ッ本物だよっ本物の剣だよこれっ。」
「部長っハルナ泣かすなっ。」
「アカリ、どうかしたの?」
キリの記憶は演劇部に書類を届けてすぐに途切れている。
気付いたのは病室のベッドの上だった。
本人曰く「そのおかげ」で
父と母が揃った姿を久しぶりに見た。
退院して学校に戻るのは結構な苦痛だった。
既に小さな集団が形成されてしまっている。
人当たりは悪くは無いが自ら声を掛ける積極性は持ち合わせていない。
その日一日誰とも会話をせず終わる。
その帰り道。
前方から黒猫が小走りに駆け寄り、そのまま通り過ぎると思って眺めていると
ずっと以前からの知り合いのようにキリの足元に擦り寄った。
腰を落とし頭を撫でるとゴロゴロと喉を鳴らしながら
「もっと撫でろ」と催促する。
そうしてあげたいけど買い物して帰らないと。
黒猫は離れようとしない。
「ノト。」
女性の声。見上げると何処かで見たような。
でも何処でだろう。
翌日、登校してすぐにキリのいる教室を訪れたのは
演劇部部長月夜野アカリ。
「キリ。」
「はい?」
何処かで見たな。誰だっけ?
すっかり忘れているキリに対し
「部活をさぼった理由を聞こうか。」
「はい?」
部活に入った覚えは無い。
入学前から帰宅部と決めていた。
もしかして帰宅部にも部活動があるのだろうか。などと本気で考えるキリ。
「えっと、僕はどの部にも入っていませんが。」
「じゃあこれは何だ。」
月夜野アカリが見せたのは薄茶色の獣の皮のような。
入部届
1年1組 織機桐
「なんですこれ。」
「見ての通り入部届けだろうが。忘れたのか?」
何の冗談だろう。
全く覚えが無い。
「今日は来いよ。」
「はい?いえあの。」
そして次の幕が上がる
村人A「それで?その勇者様ってのはどんな奴なの。」
村人B「黒猫を頭に乗せているらしいですよ。」
村人A「は?」
村人B「魔女を従えているんですって。」
村人C「剣を持っていないってのは本当なのか?」
村人A「剣を持たずにどうやって戦うんだよ。」
村人C「魔女に戦わせるとか?」
村人B「違いますよ。竜に戦わせるんですよ。」
村人A「は?」
村人B「竜を倒してそれから従えていると。」
村人C「竜なんて本当にいるのか?」
村人A「勇者様ってのも本当にいるのか怪しくなってきたな。」
村人B「それではこのまま帰りますか?」
村人A「そうもいかないでしょ。」
村人C「待つしかないだろ。」
村人A「来てくれないと村が。」
村人B「だったら待ちましょう。」
村人A「デカイのかな。」
村人C「勇者て呼ばれるくらいだからデカイんじゃね?」
村人A「胸板とか半端なく厚いのでしょうね。」
村人C「竜を倒したってほどだがらな。」
村人A「魔女と一緒って事はもしかしたら魔法が使えるのかも。」
村人C「そうかもな。」
村人B「私の聞いた話では大男でもないし魔法も使えならしいです。」
村人A「どうしてそんな事ばかり言うの?」
村人B「どうしてって、そう聞いたんですから仕方ないでしょ。」
村人A「アンタが見たわけじゃ無いでしょ。大男かも知れないじゃない。」
村人B「違ったらどうするんですか。こんなの勇者じゃ無いって追い返すんずてか。」
村人A「そんな事しないよ。しないけど。」
村人C「勇者なんて本当にいるのかなぁ。」
黒猫「うにゃ。」
村人A「うわっ。何だ黒猫か。」
羽撃く者達の世界 外伝 黒猫の悪戯 完