「羽撃け、友よ。」 17
「部室に戻ります。」
宴の最中、月夜野アカリはメリアに告げる。
同時に、
「元の世界に戻る方法をご存知ありませんか?」
メリアは考える間もなく
「すまない。ボクには判らない。」
肩を落とす演劇部員。
「だが魔女なら知っているかも。」
「魔女?」
1年仕立屋の吉岡ハルナが纏っていた
とんがり帽子に長いローブ姿の女性。
「魔女はそんなおかしな格好しないぞ?」
この国の魔女は現在
「レミーに西地区を任されている。」
「いつ頃お戻りになられますか?」
「向こうにこちらの現状を知らせればすぐにでも。」
「平和が訪れたって西地区に伝えればその魔女も帰れますね?」
月夜野アカリは遠慮無い。
ホームシックにかかる部員達を想ってこそ。
「勿論だ。でも報せを伝えに行き、戻るまでに数日かかるだろう。」
ドラゴンに乗ってピューと。
「兄はここを離れるわけにはいかない。」
月夜野アカリは察する。
まあそうだろうな。
「それでは誰か遣いの者を」
「僕が行きます。」
織機キリ。
「君はフロドか。」
「君は本当に一人で行くのか?」
「なるべく急いで戻ります。」
「そうじゃない。」
月夜野アカリは怒る。
「君が出掛けている間に元の世界に帰るような事になったらどうする。」
「その時はその時です。皆さんは帰ってください。」
キリは待つ必要は無いと言った。
これは憶測でもないただの期待なのだが
道具屋が推測したように
誰かが呼んだのだとしたら、レミーかメリア以外あり得ないと考えていた。
しかしどうやら二人は違う。
別の誰かか、
何者の意図も介していないただの事故か。
事態がこの時点で何の動きもないのなら
きっとまだ「動き」はないのだろう。
「動いているとしたらもう既に部室は消えているって事?やめて。」
夜。城内。ハリボテを制作していた大部屋。
後片付けを済ませ全員で雑魚寝の準備。
就寝にはまだ早いが、全員疲れきっている。
「また燃えたわね。」
二体目のドラゴンは、火炎放射を浴びた矢から引火し燃えた。
布と木では消火も間に合わず。
「敵に向かい吹く怒りの炎も、加熱のしすぎは自身が火傷をする。ヘンリー八世だ。」
「ちょっと使い方おかしくね?」
一笑い落ち着いてから道具屋が口を開く。
「お姫様はさ、俺達の噂を聞いて利用したって話してたよな。」
「そうね。」
「俺はこれで帰れるって思った。」
「道具屋の言いたい事って。」
部長の月夜野アカリではなく、
会計の倉渕ミサトは推察する。
「私達がこの世界に来たのは、この国のピンチを救うためだって事?」
「そうとしか思えない。」
「俺はお前が主人公だと思う。」
オタ師匠吾妻アヅマが身体も起こさず言った。
彼の言う「お前」は織機キリ。
「主人公って何ですか。」
この物語の主人公
「お姫様も王子様もお前を勇者だって言った。」
守護竜とやらを治療し、国を救った。
「最初のうちは部長だと思っていたけど。」
展開がお前を中心に進んでいる。
もしかして、召喚されたのはお前だけで
「俺達はたまたま巻き込まれただけなのかもな。」
何の根拠もないオタクのこの発言で
演劇部員に動揺が走る。
月夜野アカリでさえも、今回ばかりは同意に傾いた。
演劇部員達の中に居辛くなって抜け出した織機キリ。
「お城にこの世界の地図はありますか?」
最初に見かけた使用人に声をかけると
彼女は態々メリアを呼び、メリアは資料室にキリを案内する。
メリアが広げたのは残念ながらこの「世界全体」が判る地図ではなく
「この国」の地図。
記された文字は判らないがそれらしい場所は判断できる。
竜の「記号」のある山と森とお城と街。
ドラゴンの山は、連なる山脈の一つに過ぎない。
「方角ってどうなっていますか?」
「地図の上が南。」
南半球だ。
「太陽は東から昇っていますよね。」
「そうだ。君達の世界もそうなのか。」
この街は地図上の左下に置かれ、世界が右(西)に伸びている。
ドラゴンの山と山脈の左(東)は恐らく陸地が続いているのだろう。
カリフォルニア湾があって、バハカリフォルニアがあるような。
メキシコ下半分を切って左右反転させたような。
オーストラリアとニュージーランドを近付けて上部分をくっつけた形が一番近いか。
とにかく陸の右側に縦に細長い湾がある。
「そこが西地区。」
西の端までにいくつかのおそらく「街」の記号。大きな印は川沿い。小さい印は点在している。
理解したのはその程度。
キリは念のためにとその地図を撮影する。




