砂の国、砂の城 11
手懐けるつもりは無かったが懐いた。
小学四年生の夏頃から増えた体重は男子の嘲笑の対象となり
男子が離れると女子も離れる。
投げやりで自暴自棄で全人類が敵だった。
闇落ちした私を救ったのは月夜野アカリ。
彼女には男女の区別は無い。
相手が誰であろうと同等に接する。いや扱う。
負けず嫌いで生意気なのに誰からも好意を抱かれる。
彼女はただ自分の歩きたい道を歩く。
本人にそのつもりは無いのに誰彼構わず巻き込みながら歩く。
彼女のその真剣な笑顔に私は騙されたりしなかった。
なのにあの日
彼女は私の読んている本を見て「気が合いそう」と言った。
笑わせるな。
読んでいる?
私は本の中に入り込んでいる。その世界に没頭する。
本の中こそが世界。
「私もそうだよ。」
その時の彼女の形容詞不可能な泣きそうな笑顔は忘れない。
見た目も他人との接し方も異なる私と月夜野アカリ。
その他人達は二人を水と油だと言うだろう。
だが中身はとても似ていた。似ているなんて言葉では物足りない。
彼女は今まで自分が「こっそり」そうしていた事実を告白した。
ムカつく事に私の闇より深い。
中学生のときに近所の高校の文化祭で見た演劇。
本の中に入ってその世界を表現してそれを他人に見せる。
月夜野アカリがその道に進むのは当然だ。
親友が連れて来たその男は
背が高くてイケメンだが気の弱いヘタレ。
女子高生を嫌う希少種。
私は自分がモテないのを知っている。
ぽっちゃりが好きな人もいる。とは言うが
その人が私の目の前に現れる確率はどれくらいある?
狙って手懐けようとしたのではない。
月夜野アカリのガッカリした姿を見たく無いだけで
このヘタレイケメンのお守りを続けた。
こいつに恋愛感情は無いだろう。
そんな事私にだって判る。
それでも他の女子に向けない笑顔を私には見せてくれる。
それだけで充分だ。充分だった。
副部長若宮アオバと仕立屋吉岡ハナルは
東の国での出来事を多く語らない。
それが余計倉渕ミサトを苛立たせる。
副部長の提案に根拠の無い反対案を出すのはただの嫉妬だ。
彼女はずっと「疎開」を主張し続けた。
「怖い」「危険」を言い訳に若宮アオバに反対する。
皮肉な事に仕立屋吉岡ハルナだけがその意見に賛同した。
「何かあったらアンタ達責任取れるの?」
「自己責任だよ。」
王都に残りたい者は残る。
疎開したい者は疎開する。
各自が自分の意思で決めればいい。
レミーが演劇部(特に若宮アオバ)に依頼したのは
「国王の不在を王都の国民に悟られない公演」
「どうしてそんな事する必要があるの?」
プリン赤堀サワは月夜野アカリの如く図々しく尋ねる。
「これから始まるであろう戦争は誰もが危惧している。」
「なのに王様が冒険の旅なんて。」
レミーは自嘲する。
「政務的な問題は長老と執政官が執り行う。」
「張子の虎か。」
「それ意味違うわよ。」
「え?政治的な事は言われたまま黙って頷いていろって意味じゃ無いのか?」
「ああそれなら合ってるか。」
庭園でフラフラしているだけで
国民は「王様はいる」と安心してくれるだろう。
とレミーは浅はかに考えている。
「あのー。」
吉岡ハルナが恐る恐る挙手。
「メリアさんにお伝えしなくてもよろしいのですか?」
レミーが驚いたのは
国王の行動を妹に態々報告する必要があるのか。
と考えたからではなく、この少女が
戦争が始まってからの事を言っていると気付いたからだ。
航路の調査が北の大陸への進軍と結ばれたとき、
まだそこにメリアが居たなら。
「心配は無用だ。メリアには今回の可能性を伝えてある。」
そしてレミーは吉岡ハルナの手を取り頭を下げる。
「辛い目に合わせて本当に申し訳ない。」
今度は吉岡ハルナが驚いている。
メリアを心配してレミーにそれとなく聞いたのに。
自分が危ない目に合った事なんて言っていないのに。
「メリアなら大丈夫だ。」
これはレミーの強がりではない。
心配以上の信頼がある。
効果担当「オタ師匠」吾妻アヅマがいたなら
吉岡ハルナ以上に
レミーが何をしようとしているのか正確に把握しただろう。
彼以外の演劇部員は人を信じやすい。
言われたままを鵜呑みにしてそれが全てだと勘違いする。
レミーは嘘を吐いていないがそれ以上の真実も語っていない。
何となく、もしかして
事が始まってから「ああそうだったのか」と気付く程度。
だがここはレミーの演技力を褒めるべきだろう。
仮に「今言った事以上」の事実があるとしても
異世界の少年少女には何の手立てもない。




