砂の国、砂の城 12
レミーが船の準備と騎士の人選に追われる中、
再び演劇部員達は揉める。
「残る」
「残らない」
「勝手にしろ」
「部活はどうする」
「それどころか」
等々同じ言葉がただ飛び交う。
「部長がいないだけでこうもまとまらないのか。」
「プリンにまとめられるか?」
「プリンて言わないでください。」
「ええっ可愛いじゃないプリンちゃん。」
「ハルナてめぇ。」
「私仕立屋だよ。全然可愛くない。」
命名したのは部長月夜野アカリ。
入部早々衣装の解れを直してしまい決まった。
「我慢しろプリン。役が付くまでお前はプリンだ。」
「て事は皆さんも別の呼び名があったと?」
プリン赤堀サワのこの一言に三年生が揃って黙った。
先輩が後輩を名付ける伝統は無い。
趣味や特技だったり
最初に演じた役やハマった役。
誰かが言い出してそうなるだけだが
現在まで全部員「愛称」が存在する。
渾名とも異名とも呼ばないのはそこに「愛」があるかららしい。
部長。副部長。会計。
この三役は
その部名から逃れるために「後から」設けられた。
俄然興味の湧いたプリン。
「で?で?」
「でって何。」
「皆さんの愛称を教えてくださいよっ。」
「俺は道」
「はいありがとうございます。」
笠懸ヒサシを華麗にスルー。
笠懸ヒサシ
入部初日から道具係。で「道具屋」。
若宮アオバ
「イケメン王子」「ヘタレ王子」
「イケメンすぎるヘタレ王子」
これらを筆頭にいくつかの候補が挙がるのだがすぐには決まらなかった。
初舞台で堂々と脇役を演じた際には
「主役を食う王子」とも呼ばれた。
愛のある証として「王子」が常に付き纏い
その時々その役に応じて「○○王子」と常に変化し続けた。
打ち上げで全員でファミレスに寄った時
ボソリと
「サバの味噌煮定食とか無いのかな」
から
「味噌煮王子」にもなった。
そのうち何の王子なのか判らなくなり(飽きられた)
ただ「王子」と呼ばれるようになる。
が、公演の作品を決める会議の中
「星の王子さま」が候補に挙がると
以来若宮アオバは「ほしの」または「ほしの王子」と呼ばれるようになる。
当時部員に「星野」姓がいたにも関わらずだ。
「演劇部員て代々面倒な人が多いんですか?」
否定できない三年生達である。
倉渕ミサト
笠懸ヒサシと吾妻アヅマが「ブヒ」と呼んだのは
彼女が会計になってから。
ではその以前は?
少々ふくよかな体型を揶揄する名前も用意されていたが
当時の部長はそれを許さなかった。
倉渕ミサト本人はそう思い込んでいる。
許さなかった理由は先に「それ」を察した月夜野アカリの目だ。
しばらく「倉渕」「ミサト」と呼ばれていたのは
他に何も思い浮かばなかったからだ。
体型を揶揄した渾名は湧き水の如き。
「ドラえもん」から「ベイマックス」までキャラクターには事欠かない。
殆どのゆるキャラは彼女に寄せている。と思われた。
最初の役は「名のない通行人」。
主役が無理なのは本人も承知している。
端役専門。
そこから「大部屋」と呼ばれるようになる。のだが
笠懸ヒサシと吾妻アヅマによると
大部屋と呼んでいたのは本来の理由からではなく
「大きな部屋が必要だから」らしい。
月夜野アカリ
1年生二人が彼女を「部長」としか呼ばないのは当然として
他の部員達も「つい」でそれ以前の愛称を呼んだりしない。
「あの子最初から部長だったから。」
「そうなんですか?」
「いや最初から本当に部長になったわけじゃないわよ。」
「最初からじゃん。」
「ちょっと何言っているのか判らない。」
副部長若宮アオバと道具屋笠懸ヒサシが笑い出す。
当初、二人は彼女を
「天才子役」と呼んでいた。
入部早々主役に抜擢され、演技力はともかく
その「華」は先輩部員をも圧倒していた。
誰かが「天才子役現る」と言い出し
一時はそれが愛称に定着しかけたのだが
月夜野アカリの熱量がそれを拒んだ。
上級生に遠慮なく物を言い
衝突と混乱を招き当時の部長から
「それじゃあ貴女が部長になったらいいじゃない。」
とキレられた。
親友倉渕ミサトに説得され
月夜野アカリが頭を下げる事で事態は収拾するのだが
以来演劇部には「部長」が二人存在する事となり、
その後引退する三年生から本当に部長に任命され、
当時の二年生はそれに反対する事なく受け入れ名実ともに「部長」となってしまった。




