38章 零神歸のゼラディウス・ウィング
彼女たちはバハムートに乗って、ゼラディウス市街へと向かっていった。
電気が滞っていたゼラディウスの街に、電気が復活していたのは明白であった。
其れはサニーたちの活躍によるものであったが、閃光はプロメテイア・エレクトロニクス社によって開発された事がインターネットの掲示板で告発、名誉回復の為の「自演」と謳った可能性があると指摘され、炎上騒動に上がっていた。
その騒動はセグメントの電力を用いたやり取り、言わば「逃亡の先の企み」であった。
其の事実が彼女たちに伝わったのは、電力が復旧して、レイラがスマホの電源を入れた時であった。
ネットの検索エンジンの運営するニュースサイトで話題となっていた排斥運動。其れは多くのネット住民が「多くの人を殺害し、挙句の果てにはゼラディウスを混乱させた」として、彼女たちへの殺害活動が行われようとしていたのだ。
しかし、インジケーターであるサニーに抗いを見せるのは普通に暮らしていた人たちにとっては早い話、無理であった。だからこそ、なのだろう。ネットの不特定多数の人から資金を集めては超人的な彼女たちを倒すプロジェクト―――「零神歸レイスヴィン計画」が始まったのは。
「―――ネットでは私たちを倒そうと排斥運動が行われてるみたいですね。勘違いも甚だしいですよ」
レイラはスマホを懐に仕舞うや、画面に映った事実を皮肉った。
事実を誤解され、正義を悪と見なされる。やはり死はすぐ近くにあるものなのだろうか、大統領に酔っていた民衆は大統領を殺したと考えた3人を害悪視していたのである。
トップを失い、政権状態の崩壊によって秩序が乱されつつあるゼラディウスを何とかする為に考えに考えついた、「元凶の殺害」だろう。
「―――零神歸レイスヴィン。曾てゼラディウス工廠で作られようとしたが技術不足で断念、当時に於いては極めて高性能な機能を搭載した兵器の一種ですね。……しかし、計画は凍結されただけで今や簡単に作れます。資金さえあれば、の話ですがね」
サニーはレイスヴィン計画を知っていた。元々は大統領の護衛兵器として開発されたものであったが、技術不足によって凍結された、幻の兵器。
両腕には回転のこぎりをそれぞれ4枚ずつ搭載し、何をも切り裂くような勢いで襲い掛かる予定であった。
しかし、其れが現実に現れ、しかもターゲットが自分たちとなると話は全くの別であった。
「ともかく、今は戻りましょう。レイスヴィンに襲われた時は襲われた時です」
◆◆◆
機械龍は空中を駆け抜け、そのままエレクトロニクス社跡地に降り立った。
相変わらずの瓦礫の海に、彼女たちは涙も枯れた。しかも、元凶は…とは言えまだ予測段階であるが、明らかに身内の中での事象であると言う事実に目を背けたくなった。
サニーはゼラディウス・ウィングを片手に、瓦礫の海の一部に衝撃を加えた。剣での鋭い一撃だ。其れは特定個所の瓦礫を木っ端みじんに砕いた。
そして、其処にはUSBメモリが落ちていたのである。彼女はそのメモリが何を示していたのか、分かっていた。
「サニー、それは……」
「召喚獣ファイル。USBメモリに私の名前が書いてある」
そのメモリの裏側を2人に見せると、其処には「sunny」と英語表記で書かれていた。
確かに彼女の物であった。サニーはそんなメモリを懐かしく感じ、自分へ向けられる批判の多寡を感じながら―――自らとの戦いに勝とうとしていた。寧ろ、其れは彼女そのものの信念であったのかもしれない。
「―――なんか、『此処にあるな』って第六感が言ってた。不思議だけど、そうだった」
彼女は自身のUSBポートにメモリを差し込んだ。その時、彼女は記憶した。
曾て作った召喚獣―――バハムート・プログラリウム。プログラム及びデータで出来あがった龍である。
乗る事は出来ないが、データの炎を吐いたりする強力な召喚獣であった。
其れは彼女が曾て作ったモノの一つであった―――。
「……論理的じゃないね。まあ、奇跡なんて信じてみるのもいいか」
「論理的じゃなくとも、敵は其処にいるんですよ」
レイラがそう言った時、2人は敵の存在に気づいた。
3人を覆い隠す、巨大な白のボディ。両腕には4枚の回転のこぎり刃が取り付けられ、常に回転していた。
サーチライトで3人を眩しく照らし、一瞬ながら彼女たちは目を手で匿った。
「―――お久しぶり、3人とも。3人が閃光を倒してくれている間、私たちは此れを開発した。
―――零神歸レイスヴィンだ。喜んでくれるね?」
機械から発せられた録音音声は…紛うこと無き慧音であった。
亡き大統領に未だに忠誠を誓っているのか、レイスヴィンを悉く開発していたのだ。
「元から作る計画があったが凍結され―――今、多くの声を受けて生誕した兵器だ。
……楽しませてくれよ、精々。では諸君、健闘を祈る。以上」
適当に言い捨てた台詞で終わりを告げた録音内容に、彼女たちは苦笑を浮かべた。
慧音が未だに自分たちを根に持っていた事に、なかなか笑わせに来てくれていたからであった。
武器を構え、予想以上に早かったレイスヴィンの出番に剣先を差し向けた。
「―――慧音が早い開発を推進してくれたようだね。なら、話は早い。
………零神歸レイスヴィン!私たちが相手だ!!」
するとレイスヴィンは意を悟ったのか、両腕の回転のこぎりの刃を高速に回転させた。
静寂な空気に包まれる中、3人は武器を構えた。そして意を決して―――。
「レイスヴィン!行くよ!!」
◆◆◆
回転のこぎりで襲い掛かってきたレイスヴィンに、3人は華麗に攻撃を躱した。
瓦礫の上に避難することは足に刺さったりするが、気にしてはいられない。サニーは一気にゼラディウス・ウィングを構えては、白いボディに斬りかかった。
空中をスローモーションで駆け抜けたようであった。巨大なボディに何発か斬撃を入れると、電流が多少溢れた。どうやら簡単な設計であり、完璧な構図では無いようであった。
「―――こりゃあ簡単に作られてるな」
すると、彼女は左腕を掲げるや、声高々に宣言したのだ。
其れは今さっき取り込んだ召喚獣を呼び覚ます為―――時は満ちた。
「召喚エクゼファイル展開!―――いでよ!バハムート・プログラリウム!」
その時、雷鳴を迸らせて降り立ったのはデータで出来あがった機械龍であった。
電流を空中に放散しながら、巨大な翼を靡かせては其の威圧を周囲に走らせていた。
そして―――実体を持たぬ龍は眼下の巨大な存在に向かっては自身の最大限の持つ電流を解き放ったのだ。
其れは一種の雷鳴か。轟き、唸り声を上げるプログラムの雷は一瞬にしてレイスヴィンを通り抜けた。
レイスヴィンは一瞬にして、自身の電気回路を麻痺させてしまった。
其れはバハムート・プログラリウムによる巨大な電圧の掛かった雷鳴の所為で、回路そのものが損傷を受けたのである。巨大殺戮兵器はサニーの呼び出した召喚獣によって、思わぬ妨害を受けたのであった。
高電圧な電流が明らかに漏れていた。
其れは溢れ、中に留まる事が出来なかった電流であった。プログラリウムは空気に溶けては消え、残ったのは損傷を喰らった兵器であった。
「……私だって行きますよ!」
彼女は二丁銃を両手で構えるや、一気に攻撃を仕掛けたのだ。
連続して引き金を引く雄姿はまさしく烈風の如し、放たれた銃弾は雨を形成しては一気に解き放たれて。
世界を見据えたかのような眼差しで、高電圧によって動けないレイスヴィンを袋叩きにしていく。
銃弾は見事にレイスヴィンの簡単な作りの外装を剥がした。
接合部分を集中的に狙いを定め、ものの数十発で剥がれるものであった。
白亜のボディは削られ、蝕んでは中の機械部分が姿を垣間見せた。その様相に、3人は頷いて見せた。
「私も行く!」
外装が剥がれ落ち、中の大事な部分を見せたレイスヴィンにガンハンマーで迎え撃つユウゲンマガン。
重たいハンマーを軽々と扱い熟し、一気にその重力を掛けた最大級の一撃を仕掛けたのだ。
其れはレイスヴィンの礎…もとい根本を一瞬で根こそぎ奪うものであった。
ギギギ、ギギギと調子を狂わせたかのような悲鳴を上げるレイスヴィン。
狂悖の性を徐に表しては、完全に自己の管理能力を失い、何処か暴走し始めていたのであった。其れは同時にレイスヴィンの機能そのものの全てを肯定することに恒等であった。
この世の何かに藁をも縋る思いなのか。機械そのものの意思を否定しようとも、レイスヴィンは僥倖を信じていた。其れは神秘性もといトランセンデンタリズムに寄るものでは無い。論理的な、筋道の通った電気回路の示した結末だ。
「―――レイスヴィン、あんたは哀れだ。…作られた時期を間違えられたな!!」
そしてサニーは一気に攻撃を仕掛けた。
エレクトロニクス社の積み上げられた瓦礫の上によじ登っては、狂いの色を見せていた殺戮兵器に向かって―――。
「喰らえ!レイスヴィン!!」
◆◆◆
「―――今日、プロメテイア・エレクトロニクス社跡地に於いて、巨大な大爆発が発生したとの110番通報がありました。ゼラディウス警察が捜査を進めた結果、上白沢慧音総務大臣が中心となって取り仕切られ、作られた最新兵器『零神歸レイスヴィン』の破片が発見されました。
DNA鑑定を進めた結果、近くに瓦礫にサニーミルク指名手配犯のものと見られるDNAと一致し、警察は大統領を殺害した3人によるものだと見られています」
ありのままに物を語るニュースキャスターに、スマホの前のレイラはため息を吐いた。
どうして何も分かってくれないのか。視聴率稼ぎとしか思えない、露骨な報道は元エレクトロニクス社跡地に沢山の記者やカメラマンが集まっていたことからそう断言出来るものであった。
バハムート・ジェネシスに乗り込んでは空を翔けていた3人は、レイスヴィンの爆発を過大に取り上げるマスコミに何処か呆れを感じていた。
「マスコミの明白な視聴率稼ぎ。私たち関連の事を報道すれば、視聴者は忽ち食いつく」
「―――社会とは、不思議な物だな」
機械龍に乗っていた3人に、状況を一変させるような物が現れた。
其れは彼女たちを追跡したかのようにも思われていた、1台のヘリコプターであった―――。




