36章 ゼラディウス革命
突如として襲い掛かった、電力の供給の停止。
大通りの信号も、電線を通る電力も、電車を走らせるための電力も。
何もかも、全てが今、消えたのであった。大統領を運んでいた2人も、その光景に唖然とした。
そして何よりも、一番驚いていたのはゼラディウス・ウィングを構えていたサニー自身であった。
リリカたちや、リリカたちと戦っていた警官もその異常を察した。
スマホの無線通信が全く使えず、ネットワークは完全に遮断されていたのである。
車も信号に電気が通らないが為に大混乱し、電車も止まっては走れない。案の定、ディーゼル車はゼラディウスに取り入れていない。
「―――電気が、消えた……?」
その時、死にかけの大統領はその光景を見ては、静かに口を開いた。
混乱し、静寂が打ち破られた世界で…彼女の発した言葉は、其処にいた全員の耳に鮮烈に響いた。
「……ゼラディウス凾渠…あそこにこの国の電力の配電や供給を司るスーパーコンピュータがある…。
………サニー、何か不穏な気配がする…。……見てきてくれ、カギは渡す」
彼女は右のポケットを指さすや、代わりにエリスが手を差し込んだ。
音を立てて手探りで捜す中、一つのカギを取り出してはサニーに渡した。
掌に感触を残す、人差し指ちょっとのカギ。彼女は握りしめては懐に仕舞いこんだ。
「―――あそこにはスーパーコンピュータ…『閃光』がある」
サニーはそう言うや、停泊させていたバハムートを呼んだ。
機械龍はぎこちない翼を広げては彼女の使役通りに目の前に降り立った。
その様子はまるで鷹を使役する鷹匠のようであった。ズシン、と大きな音を立てて。
「―――社長、レイラさん。私と一緒に来てください。
―――ルナチャイルドさん、リリカさん、ルナサさん、メルランさん。エリスさんや慧音さんと一緒に、混乱をなるべく鎮めてください。
………この先、更なる地獄が垣間見せる可能性があります。避難してください」
彼女はそう言ったが、其処には一種の威圧があった。
社長とレイラは頷いて、静かにバハムートに乗り込んだ。残った全員は彼女の機械龍を見据えては、自らに与えられた使命を考えていた。
サニーはバハムートに乗り込んだ。遠い地平線を見据えては、礎の翼を掲げて―――。
「―――ゼラディウス凾渠へ行きましょう。其処で…真実が見られるはずです」
◆◆◆
スマホも使えず、彼女たちは混乱に陥ったゼラディウスを見た。
車、電車、飛行機、ヘリコプター。そしてマスコミやネットなどの情報源を失った国の人々は混乱に陥っていた。あちこちで喧噪的な声が上がっているのは明白であった。
バハムートはそんな大空を飛翔していた。やがて、遠くに海が見えた。其処にはバハムート・ジェネシスが作られたゼラディウス工廠もあったが、凾渠は工廠の少し先を行った場所にある。
「サニー……様子が変だよ」
レイラは悟った。彼女が前とは雰囲気が違っているのが。
彼女はそう、当人に問い質した。当人は遠くを見据えたまま、静かに語り始めた。
其処には彼女の想いが全て込められていたが、虚空の中に打ち消えた無常感が存在していた。
「私は今まで、大統領ばかりを憎んだ。でも、真実は違ったんだ。それにやっと覚めたんだ。
―――大統領も、一種の被害者だ。しかも、捨て駒扱いに過ぎなかったことを―――。
本当は、とある存在が国を乗っ取ろうとしている。何のつもりかは私には分からないが、私は彼女への、せめてものレクイエムを唄いたい―――それだけ」
彼女は自らの感情が、一時期大統領への思いで一杯になっていた事を悟っていた。
その所為で、とある裏の企みに気づくことは無かった。今や、世界は大混乱を迎えようとしていた。
海はうち輝いて見えるが、彼女の想いは真逆にどんよりと暗く、決して明るいものでは無かった。
「―――私は、スターを止める」




