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32章 幻滅のゼラディウス・ウィング

彼女は拳銃を構える存在に斬りかかった。

薄暗い蛍光灯の下、静かに刀身を煌かせては襲撃を図る。しかし、朱鷺子は拳銃の銃口を迫りくるサニーに定めるや引き金を引いたのである。

銃弾は散らばる飴玉のようにも見えた。横殴りの雨のように降り注ぐ銃弾を華麗に躱しながら近づき、朱鷺子をゼラディウス・ウィングの錆にしようとしたのだ。


「喰らえ!」


しかし、彼女は余裕そうな表情を浮かべるとすぐに回避を図った。

身体を滑らかに反らしては、別の方角から引き金を引こうと企む存在に動いたのはレイラであった。

銃口を向けては火花を迸らせるものの、慣れた表情であった朱鷺子はレイラの銃弾に追われながらサニーに近づいたのである。


「そうはさせない!」


ここで動いたのは太刀を構えたルナチャイルドである。

余り戦いには慣れている雰囲気では無かったが、その勇敢さは他の3人に負けてはいなかった。

太刀でサニーに近づこうと企む存在を妨害する為に斬りかかったのである。だが朱鷺子は銃弾を剣代わりにしては太刀を受け止めたのだ。

高音が響き渡った時、朱鷺子は襲い掛かってきたルナチャイルドに右手でストレートパンチを決めるや、頬を打たれた彼女は倒れてしまう。


「ルナ!危ない!」


朱鷺子に狙いを定めていたレイラの銃弾がルナチャイルドに被弾しそうになった時、サニーはそう忠告した。

彼女はすぐに起き上がっては、フラフラ状態でありながらも銃弾を充分に避けれる位置に自主的に移動する。レイラは無我夢中で朱鷺子を撃っていて、今さっきまでルナが倒れていた場所を余裕で射貫いていた。


「……邪魔だ!」


全てを威圧するかのような大きな声は、彼女のものであった。

朱鷺子はレイラの銃弾に追われながらも、拳銃の銃口をサニーに向けては引き金を差し引いていた。

そんな彼女に制裁を下しべく、重厚感を持つガンハンマーを構えては一気に叩きつけたのだ。


「…………なっ!?」


彼女は受けた。不意たる、その一撃を。

腹部を抉るかのように叩きつけられた一撃は彼女を容易く吹き飛ばし、中央のコントロール制御装置に衝突させた。機械に身を埋め込まれた彼女は鼻血を大量に噴き出していたのだ。

その時、走馬燈が彼女の脳裏に浮かんだ。幾つもの思い出が、彼女の頭を巡っていくのだ。


「……ナイスです、社長」


レイラは叩きつけた社長に感謝するや、動けない存在に無慈悲にも銃口を差し向けたのであった。

カチッ、と音を静かに響かせては口元に嘲笑さえ浮かべて。残虐なるレクイエムを唄っているかのようであった。

サニーはゼラディウス・ウィングを片手に、機械に埋もれた彼女に憐れみの視線を向けていた。


「―――これでお前の負けだ、朱鷺子。遠慮なく刑務所を滅茶苦茶にさせて貰うよ」


「……すればいいさ。私はもう知らない、私自身は所詮…ドレミーの犬だったんだから」


彼女はそう開き治るや、ぎこちない笑みを浮かべて見せた。

彼女も大統領の権力に怯えた、所詮は犬に過ぎなかったのである。その真実を聞いた時、サニーは何処か同情を寄せたがこれからの展開を考えては思考を止めた。

ゼラディウス・ウィングで、埋め込まれた身体の腹部に狙いを定めては。最後まで職務を全うした、元は善良だったであろう存在目がけて―――。


「―――そうね、そうさせて貰うわ」


次の瞬間には、ゼラディウス・ウィングは身体を貫いていた。

血飛沫が部屋内で溢れ、ドロドロした生々しい「赤」は鮮烈な色を残す。

そのまま断ち切った彼女は血が付着した刀身を丁寧にタオルで拭き取っては、相変わらずキャップが押すのを拒んでいる「全牢解放」のボタンを見つけた。

躊躇なく、彼女はキャップを取り外してはボタンを押す。すると以前と同じようにサイレンが鳴り響いたと同時に刑務所にはどっと歓声が沸いた。


それは喜びの唄か、それとも哀れなレクイエムか。


機械龍と集中的に戦っていた巡視官たちは疲弊仕切っており、尚且つバハムートは幾つかの傷が入ったものの動作に支障は出ないほどであった。其れが監視カメラの画面でしっかりと捉えられる。


「皆を助け出しましょう!」


レイラの声に、他の3人は頷いた。

牢屋が解放され、どっと沸いた声は彼女たちの画策の成功を示唆していた。

すぐに部屋から出ては、曾て脱走を図った囚人たちが再度のチャンスの訪れに歓喜しては暴動のような大行進を刑務所内で起こしていた。

その中に紛れ、リリカとルナサ、メルランの姿があったのだ。3人は何処か草臥れた様相を呈していたが、全牢解放で生気を取り戻していた。囚人たちに混ざっては外の空気を吸う為にも。


「リリカ!メルラン!ルナサ!」


3人の存在に気が付いたルナチャイルドはそう呼んだ。

大群衆の中、ルナの声が鮮烈に響き渡る。その声を聞いた3人は曾ての仲間の存在を髣髴とさせては、声のした方を向いた。其処には、3人を助けに来た4人の頼りになる顔があった。


「……き、来てくれたんですね!」


「当たり前だ。それよりも、スターサファイアは何処だ?」


「そんな人物、最初からいませんでしたよ?社長」


彼女たちの元にやって来た、神父の服を纏った男性。

其れはサニーが鮮明に覚えていた容姿でもあった。旅の始まりにして、全ての始祖とも言うべき存在。

視界が開けた。彼女にとって、ゼラディウス・ウィングを授けてくれた存在でもあったのだ。


「―――し、神父さん」


「哀れなる淑女、なんて表現はもう正しくないみたいだな。今や顔が勇ましくなったものだ」


彼は感心する素振りさえ見せていた。

成長した存在に、静かに息を漏らしては世の無常さを思い知らされたかのようであった。

ポケットに手を突っ込み、人が蠢きまわる刑務所内で彼は静かに述べた。何処となく、世の儚さを偲んで。


「―――それよりも、早く此処から脱出しろ。奴らの追手はすぐそこまで迫ってきている」


彼の一言に、サニーは頷いた。

ゼラディウス・ウィングの刀身で天井で輝く蛍光灯を反射させては、遠い未来を可視して。

囚人たちの行進も途切れつつあった。流れに乗る為にも、モタモタしてはいられない。


「分かった。―――急ごう!みんな、後に続け!」」


彼女は疾走した。

彼に言われた時、初めて此処に収監された際の出来事を思い出したからである。

彼女だけ脱走出来て、他の囚人たちは再度捕らえられてしまったからである。

機械龍と格闘していたであろう巡視官たちの悲鳴と、何処かから聞こえる爆発音。そして大行進する囚人たちの威風堂々さ。この3つが相俟って、刑務所内は大混乱に陥っていたのだ。


「―――壊れた道具だな」


◆◆◆


彼女たちは別ルートを使い、バハムートの元へ急いだ。

機械龍を囮にした場所に戻った時、機械龍は多くの銃弾を被弾させていながらも稼働しては多くの巡視官の死体を尻目に、有り余る巡視官と戦いを繰り広げていた。

苦い顔を浮かべては、威圧さえ誇る膨大な存在に踏みつぶされ、ミサイルや銃弾を穿たれ、そして敢無く散っていく。血の池を大量に造成する龍は4人と加わった3人の姿を見せては、急に大人しくなった。


「―――乗って!」


頭を下げ、7人に乗るよう促しているかのようであったバハムートに乗り込んでいく。

戦ってた巡視官たちは7人を敵視し、銃口を差し向けたものの反応はレイラの方が早かった。

重厚感のある大翼を刑務所内で広げ、来る際に無理やり開けた穴から機械龍は脱出した。

大空が3人の視界に映し出された。

刑務所に閉じ込められた3人は、新鮮な青空を前に喜びを噛みしめていたのである。


「―――で、出た!青空だ!」


しかし、サニーは不思議な感覚であった。

何せ、スターがいなかったからである。彼女は1人、何処かに消えてしまったのだ。

淋しかった。脳裏に浮かぶ、柔和な笑顔を浮かべる彼女の顔が―――うっすらと、そして朧げに映る。


「―――でも、スターはいないよ」


彼女がそう喋った時、全体は押し黙った。

社長は何処か遠い水平線を見据えている。レイラも同様であった。

彼女はいなかった。いたとしても、あの流れに間に合わなかった以上、助けられなかったのだ。

「いる」、そう信じて止まなかったが―――幻滅の悲哀、所詮は幻想に過ぎなかったのだ。


「―――スターはまた何時か、見つかるさ。…それよりも、私たちはやるべきことがあると思う」


社長は静かにそう語るや、サニーは下を俯いた。

蒼天はやはり全てを遍いて輝き続ける。その下を悠々とバハムートが飛翔していた。

何も見えない闇の中、必死に手探りしていたサニーはスターに会えなかったことに後ろめたさを感じていたが、やはりどうしようも出来なかった。


遠くでは戦火の狼煙が上がっている。

理不尽で、不条理で、そして束縛的なこの世界を、彼女は憎んでいた。

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