31章 存在の二律背反性パラドックス
ルナチャイルドの待つアジトまでバイクへ行ったものの、ゼラディウスの襲撃によって大混乱状態に陥っていた。道々には車が行き交っていたものの、今や散乱した虫のようになっていた。
ブザーが沢山鳴り響き、耳を塞ぎたくなるほどである。彼女たちは車と車の隙間を狙っては巧みな運転技術で先へと進んだ。
「―――この渋滞…車が滅茶苦茶な配置だよ…!」
「ゼラディウスの襲撃によって、皆一同に逃げようとした結果だな。一先ず、先に進もう」
彼女たちは混乱する中、バイクで駆け抜けていった。
所々に銃を構えた自衛隊がいたが、幽々子とミスティアの和平によって味方となっている。
今度やって来るであろうゼラディウス兵へ立ち向かう為にも、武装しては渋滞した道の中を我が物顔同然で歩いていた。滅茶苦茶になったセグメント市街を疾走し、彼女たちは虚構を背景に水平線を望んでいたのである。
◆◆◆
アジトへ到着するや、ルナチャイルドがバイクの音を聞きつけて外へ出た。
彼女もテレビで観たのであろう、大混乱したセグメントの世界に憔悴しきっていた模様である。
武器である太刀を片手に、襲い掛かって来るであろう「何か」に怯えては体を震わせていた。
バイクを停めては今起きている真実を悟って恐怖に焦がれる彼女を見て、サニーは何処か胸苦しい気がしたのであった。
「……ゼラディウスの襲撃、テレビで観たよ」
「……もうすぐ大戦争だ。欲望まみれのゼラディウスと、無欲なセグメントのな。
―――これが十訓抄とかお伽噺とか、戒めの為に作られた小話ならセグメントの勝ちで終わるだろうが、現実は違う」
所詮は小国、軍事国家ゼラディウスに敵う筈も無いのだ。
バハムート等、各種兵器をこれでもかと言う程取り揃えている国家である、圧倒的な差を見せつけて終わりであることは目に見えている。明白だ。
しかし、今回は多少「面白い」点が存在している。其れは幾人かのゼラディウス出身の者達も祖国に歯向かおうとしていることであった。
内部裏切りが正しい表現だろう、自衛隊も見事に寝返ったのだ。幽々子の権力は戦争を予想もつかない展開へ持って行ってくれたのである。
「……ルナチャイルド、落ち着いて聞いてくれ。
―――内閣によって落とされた爆弾でスターたちは死んでしまったと思い込んでいたが、どうやら生きているらしい。しかし、場所はゼラディウス刑務所…サニーが投獄されていた場所だ。
……私たちは助けに行く。お前はどうする?」
彼女は社長にそう言われた時、呆然とした。
そして心の隅を救っていた闇が打ち晴れたような気分に至ったのである。
彼女は一思い、自らの決まっていた意見を静かに口にした。
「……当たり前だよ」
彼女は太刀の刀身で陽の光を反射させていた。
煌めく光に多少眼を瞑った彼女は、静かな思いを口にしたのである。
「―――ならバハムート・ジェネシスの場所まで行く。乗れ」
彼女は社長のバイクの後ろに座っては、再び3台のバイクは動き出した。
相変わらずの大通りの渋滞は変わらず、不変であった。サニーたちは敢えて裏道を利用し、機械龍を停泊させている駐車所目指して疾走した。
大空は普遍的に存在し、真下で畏怖に焦がれる人々を憐れむかのように其処に存在していた。
◆◆◆
駐車場にあった機械龍は何も襲撃を受けていなかった。
律儀にも、其処に佇んでいた機械龍に4人はバイクを乗り捨てては乗り込んだ。
静かにバハムートは再起動し、大きな重厚感を持つ翼を広げては蒼天へ飛翔する。
風の重さが身に襲い掛かるが、気にしてはいられない。上からセグメントの街を見渡すと、所々に赤色の池が出来ているのが良く分かった。残虐たるゼラディウスの示唆である。
「……急ぐよ。サニーたちがモタモタしてたら、みんなが処刑されちゃうよ」
バハムートは高速で空を渡った。
遠くにぼやけて見える街並みに何処か哀愁を感じながらも、4人は睨み据えていた。
かの街は曾ての故郷であって、今や敵国である。不思議な感情―――齟齬したような感覚に囚われながらも、サニーは礎の翼を構えては未来の安寧を誓ったのであった。
◆◆◆
「―――裏切りましたね、幽々子。…ゼラディウスの誇りも薄れたようで」
眼下に広がる街並みを静かに見渡していた大統領にそう告げたのは慧音であった。
戦争状態に突入させたドレミーはエリスに鉄道の運輸停止を命令し、今やゼラディウスは公共交通機関が何一つ動いていないと言う状況である。
慧音は高速道路上でサニーと戦闘して敗北した際、病院で暫く寝込んでいたが為に余り姿を見せなかったが、今は総務大臣として職務を全うしている。
「……勝手にやらせておけばいい。私はアイツが国を裏切った事への後悔をさせてやるまでだ。
―――ところで反政府デモの状況はどうなった」
「はい。大統領の画策通り、適当な理由をこじつけてセグメントへの怒りを差し向けました。
尤も、怒りを起こさせるのに大統領の名誉を損害させてしまうような理由でしたが……」
「構わない。今はそんなことでゆっくりやっている暇など無い」
彼女はどうにかしてデモを鎮圧させたかったのだ。
彼女が最も恐れていたのは、サニーの脱走から始まった「独裁政治への抗辯」であった。彼女の勇ましい出来事が国民全員の躍起を買い、退陣も日に日に迫られていたのである。
しかし、民はまんまと騙されたのである。デモの怒りはセグメントへ向けられ、今やセグメントは悪役扱いである。
「……慧音、エリスに伝えておけ。
―――ゼラディウスを走る全線鉄道を始めとした、公共交通機関の操業を停止しろ。まもなく戦時状態に入るだろう」
「―――分かりました、大統領」
◆◆◆
その時、機械龍は刑務所を破壊するかのように現れた。
厳重な警備であったゼラディウス刑務所はセグメントとの戦争準備によって警備は散漫しており、巡視官たちも投獄されたサニーの仲間たちが入れられた場所を中心としてしか見回っていなかった。
轟音は巡視官よろしく敵や投獄されていた囚人の鼓膜を突き破るかの勢いで鳴り響き、悪寒を走らせた。案の定、敵は轟音がした方へ走っていく。
最初から、彼女たちはその状況を見限っていた。
突入した際に起こした衝撃でバハムートを囮にして、その間に刑務所内の仲間を助ける方針である。
彼女たちは冷たい空気が頬に触る世界を疾走した。所々で囮である機械龍の方へ向かう足音が聞こえてきた時、画策が成功したことを内心でほくそ笑んでいた。
「こっちに機械室があるよ!」
彼女は以前投獄されていた身、刑務所内の構造はよく分かっていた。
機械室には刑務所内の全てを司るコンピュータがあることも彼女は分かっていた。ゼラディウス・ウィングを片手に、静かな刑務所内を疾走した。
遠くでは機械龍と戦っているであろう巡視官たちの哀れなる断末魔が響き渡る。形而下な存在は形而上な存在によって殺されたのである。
サニーたち一行は武器を構えては機械室を襲撃した。
鋼鉄の扉は施錠されていたが、ユウゲンマガンのトリガーを引いたガンハンマーの一撃で呆気なく壊れてしまった。中には唐突の来賓客に戸惑いの様子を見せながらも、拳銃を構えた存在があった。
サニーは思い出した。以前、同じ場所で戦った存在であることに。
「―――今回も派手なご登場ですね。しかも仲間を連れてるなんて」
彼女は裕にも、そう語った。
敵対している4人に恐れすらなさず、しかも表情は何処となく余裕そうであるのだ。
サニーはゼラディウス・ウィングの剣先を彼女に向けて、静かに語りかけた。
「―――悪かったね、朱鷺子」
「……まあ、話は早いですよ。今回は纏めて相手してあげますよ!」




