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30章 背徳感との死闘

彼女は銃口を3人に向けては、一気に引き金を差し引いた。

銃声が室内で鳴り響き、その音は国防省内にいたガードマンを反応させた。

それと同時に、何処へ潜りこんでいたのであろう、ゼラディウス自衛隊が武装した状態で国防省内に侵入してきたのである。

その数は何百、空を飛翔していたヘリコプターから次々と押し寄せる軍勢に流石のガードマンも対抗できずに圧倒され、そのまま雪崩の如し勢いで自衛隊は国防省内へ押し寄せた。

その足音は自身のようにも比喩しても、誰も疑いはしないだろう。其れほどまでの威圧に彼女たちは多少の恐怖が生まれてきていた。


―――しかし、目の前の恐怖もまた存在するものであった。


幽々子は銃声を響かせた瞬間、彼女たちは体を反らした。

銃弾は直線の弧を描いては壁を穿つ。その間にサニーは礎の翼で斬りかかった。だが幽々子は拳銃を剣代わりにしては、彼女の刀身を受け止めたのである。

鮮烈な音が響き渡ったと同時に社長のガンハンマーの一撃が炸裂しそうになったが、幽々子は軽い身体を空中回転回避させては裕な表情で躱してしまう。

ハンマーの一撃は会談していた部屋の机を容易く吹き飛ばし、ガラス張りへと突っ込んでは外に飛び出してしまった。


「……貴方を許してはおけないんです!」


レイラは怒りを込めて、ハンマーの一撃を躱した幽々子に銃口を向けた。

引き金を何度か引くと、銃声が連発して響き渡る。しかし、スーツ服であった彼女は壁際に沿って疾走し、銃弾を容易く避けてしまう。


此処で動いたのがサニーであった。彼女はゼラディウス・ウィングで華麗に銃弾を避ける幽々子に斬りかかり、妨害を図ったのだ。

しかし、幽々子は真正面に現れたサニーに銃口を向けると引き金を引いたのだ。流石のサニーにもこれには避けるしか術が無く、すぐに身を反らして回避させ、幽々子を逃してしまった。


やがて室内は戦闘でボロボロに朽ちていき、隅で身を震わせていたミスティアは涙目であった。

すると扉が蹴とばされる形で乱暴に開き、多くの武装した自衛隊がマシンガンを片手に雪崩れ込んできたのである。


「―――な、何だ!?」


ユウゲンマガンの突発的な声が発されたと同時に幽々子を取り囲むように武器を構える自衛隊。

大体の状況を察したサニーはゼラディウス・ウィングを片手に、壁に囲まれて守られる幽々子を睨み据えた。彼女は何をもたじろく様子を見せず、勇ましさに溢れていた。


「……この量でも勝てるのかしらね」


「……私にとっちゃ、そんなの簡単だよ」


サニーは幽々子の質問に軽く返事をして見せた。

其れはそっけなく、呆気ない物であった。畏怖に怯えていると期待していた幽々子にとっては真逆の反応である。彼女はサニーの謎の自信溢れた回答に不思議さを持っていながらも、瞋恚を抱いた。


「―――なら、やってみなさい!」


彼女は手を挙げたと同時に自衛隊は発砲を仕掛けてきたのだ。

銃弾の雨に3人は咄嗟に椅子の陰に隠れる。サニーはその間に自身のエクスプローラーの中から召喚獣ファイルの検索を掛け、最善の選択を用いることとした。

そう、召喚獣で一掃する作戦を決行したのだ。レイラとユウゲンマガンも、静かに椅子の中でやり過ごしていたと同時に彼女の選択を案じていた。


「椅子の裏に隠れて……逃れられると思わないで欲しいわ。…やっちゃいなさい!」


容赦なく自衛隊が椅子の裏に迫った時であった。

咄嗟にサニーは椅子の裏から飛び出して、姿を堂々と見せると同時にファイル展開を行ったのである。

声高らかに、彼女は大きく宣言をして。


「召喚エクゼファイル展開!―――いでよ!機覇神ウロボデードSn!」


その瞬間、ボロボロの室内で揺れが起きたと同時に機械化された獅子がその姿を見せたのだ。

顔の半分が機械になっていた獅子は獰猛さを伴わせた勇猛さを持ち合わせており、その姿を見た自衛隊は畏怖に包まれ、次々に銃を地面に落としていった。

ユウゲンマガンやレイラも、彼女が召喚した召喚獣に驚きの表情を隠せないでいた。眼を真ん丸にして、今起きている出来事を飲みこむだけで精一杯だったのかもしれない。


獅子の咆哮は鮮烈に響き渡った。

何をも寄せ付けないような威圧は全てに渡って、それらは椅子の裏の彼女たちにも伝わった。

畏怖が溢れ、存在そのものが悍ましかったのである。召喚獣の前にいた兵士たちは体が恐怖で硬直し、動けずにいた。

機械化された獅子は情けを知らず、背中に取り付けられたホーミングミサイルを一斉に発射した。

放たれたミサイルの威力は凄まじく、室内の壁は砕けては兵士たちの身体も肉片の雨と化していたのである。しかし、肝心の幽々子の姿は何処にも見受けられなかったのである。


「―――先ずは此処から脱出しましょう!」


サニーは召喚獣を展開し終えるや、惨劇の様相を呈していた室内から社長とレイラ、そして隠れていたミスティアにそう呼びかけるや、第一に扉を出た。

3人はお互い顔を見合わせるや、ゆっくりと首を縦に動かした。そして彼女の言ったとおりにする為に、ボロボロに朽ちた部屋からの脱出を図った。


◆◆◆


大混乱の国防省前でも、相変わらずの出来様であった。

「セグメント国警」と掲げた多くのパトカーが駆け付け、警官が襲撃要因のゼラディウス自衛隊たちと応戦していたのである。

しかし、完全武装した自衛隊に比肩して警察は簡単な装備であった。遠くから見ても、存在としての強さははっきりと区別がつくほどである。事実、警察は自衛隊に圧倒されていた。


「な、何が一体………!?」


「まだ勝負はついてないわよ!」


絶望していたミスティアの発言に応えるかのように発された言葉。

其れと同時に一発の銃声が鼓膜を響かせた。しかし、反応に気づいたレイラはミスティアを押し倒した。

銃弾は今さっきまで立っていた位置の頭部を通過し、地面のコンクリートにぶつかってはコロコロと転がっていったのである。


「まさか、幽々子!?」


社長の声と同時に舞い降りた、黒服の存在。

何処に身を潜めていたのか、4人の前に上から現れては綺麗に着地した存在。着地と同時に拳銃の銃口を4人に向けては戦意の示唆をしていたのは、紛うこと無き幽々子であった。


「……イエス。先程は大きなライオンさんが出てきて危なかったから逃げさせてもらったわ。

―――まあ、先手必勝って事に変わりはないのよ!」


幽々子は躊躇う暇もなしに引き金を連続的に引いたのであった。

放たれた銃弾はそのまま4人を穿とうとするも、社長のガンハンマーが全てを跳ね返すが如し勢いで叩きつけられ、銃弾は地面に押し付けられてしまった。

その隙を見計らったレイラは彼女に銃口を差し向けるも、幽々子は拳銃を武器としてレイラに殴りかかったのである。


「くらいなさい!」


幽々子の正面にいたレイラは頬を拳銃で強打されてしまう。

そのまま尻餅を付くが、フォローに入ったのはサニーであった。銀色の端麗なる刀身を変形させ、銃化させた後に彼女の腹部に銃口を押し当てては引き金を思いっきり引いたのである。

銃声と同時に吐血した彼女は血を地面に零しながらも一旦4人から離れる。

多くの自衛隊や警官が背景で戦っている中、職務を全うした彼女はぎこちない笑みを浮かべながら両手を大きく広げた。

身体前面に風を受け、狂ったように笑う彼女。サニーは彼女を前に、ゼラディウス・ウィングを仕舞った。


「……壊れたの」


「……壊れてなんかいないさ。でも私は…どうやら背徳感には負けたようだね。

―――貴方たちの闘う理由が何か分かった。…私自身、保守的になっていたが為に、真の自由を忘れていたのかもしれない」


背徳感に媚び、保守性に束縛された彼女。

何処か淋しげな思いを面に浮かべながら、寂寥に身を乗せて―――。

自衛隊が彼女の存在に気づくや、銃を構えたまま、銃弾を蒙った彼女を保護する為に向かう。

しかし幽々子は右手を掲げては自衛隊たちの動きを制止させた。其れは彼女が定められた運命を邪魔して欲しく無い、彼女自身の思いであった。


「私は……私が輻輳ふくそうしていた感情に溺れていた。

―――本当の自分を見失っていた。……今、自分を見つけに行く。…3人は世界を救うのよ」


彼女自身、サニーたちの抗いを応援したい気持ちは山々あったのだろう。

しかし、空気と言う物は非情であって恐ろしく、論理的な陳情もあっという間に潰されてしまうのであった。

大混乱に陥ったセグメント。ミスティアは拳銃を頭に当てては引き金を引こうとする彼女の手を両手で掴み、無理やり拳銃を落としたのである。


「……止めてください。貴方まで…貴方まで、何で死ぬ必要があるんですか!?」


彼女は分かっていた。

国からの刺客であったとしても、彼女自身の思いは端麗そのものであったことに。

幽々子は予想外の展開に多少驚き、彼女の方を振り返った。其処には必死で幽々子の腕を掴む存在があった。涙腺に映えていたのは、滅茶苦茶に為り行く街並みであった。


「……貴方は悪くない。悪いのは…貴方の国です。

―――今までを、忘れたんですか。貴方は私たちの国を陥れる為に、今まで話し合ってきたんですか。

……違いますよね。だったら、最初からこんな国防省は建たない。この国防省は、貴方たちの国から友好の証として貰い受けた建物なのに」


彼女は静かにそう話した。

今までは普通に「隣国」として接し、外交に応じた彼女に背徳感は無いと見たからである。

幽々子自身、確かにそうであった。こんなことはしたくなかった。でも、其れが運命だと思ったのだ。


「そうだった。確かに、そうだったのかも知れないわ。

………自らの孱弱せんじゃくさに悲嘆し、何をも絶望視していた私がいた。

―――でも、何かに気づけたわ。……私は私、そうだったわ」


自己を意識し、自己を以てして自己に気づく。

彼女は自分として、どういう存在であったのかを国に奔放され続けていた過去の中から見出したのである。


「―――サニー、私は目覚めたわ。私は大統領の威圧に怯えていたのかもしれない。

……でも、もう怖くないわ。……言わせて貰うけど、爆発したエレクトロニクス社の中から、貴方たちの仲間全員を保護してるわ。…保護、って言うよりも束縛、だけどね。ゼラディウス刑務所で。

……大統領は此処を侵略して、各地でデモを起こしてるゼラディウス国民の欝憤を晴らすつもりよ。だから、セグメント侵略で頭が一杯になっているうちに刑務所に行くのよ。

―――ミスティア、此処は2人で乗り切るわよ。自衛隊の全権は私にあるわ、今までのご無礼も兼ねて、ゼラディウス軍の侵略と抗いを見せるのよ!」


「分かった!」


サニーたち3人は彼女の話を聞くや、すぐに戦闘で死んでしまった警官の白バイを奪取してはルナチャイルドの待つアジトへ向かった。

ミスティアは警官の完全武装を指令し、一時停戦状態となった二極は呉越同舟、新たな存在への抗いの色を見せる事となったのである。

死んだ者達の浮かれない魂を無駄にしない為にも、全てを平和に帰する為にも。


「―――幽々子さん、行きましょう」


「………そうね、ミスティア。…行きましょう」


◆◆◆


彼女は瓦礫の中に存在していた。

プロメテイア・エレクトロニクス社の地下深く、深淵とも比喩される場所に、独り淋しく佇んでいたのだ。

雫が垂れ落ちる。誰もいない、静かな蛍光灯が灯る世界で。

アルテマ焼夷弾の際、地下へ落下してしまった彼女は死ぬこともなく、捕まることも無かった。

しかし、代償に狭い世界で孤独を味わなくてはならなくなったのである。


「―――欺瞞インジケーターを以て、欺瞞インジケーターを制す」


彼女はそう言った。朧げにも、そう静かに、そして鮮明に。

空間に何度も木霊した言葉は反復され、何度も鼓膜に響き渡る。

片手にショットガンを持っては、果てしなき虚構を周りに纏わせて。


「―――サニーはまだ捕まっていない。…無能だね、ドレミーは」

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