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8話 反撃の時間

 森の奥に一か所だけ大きく開けた場所がある。そこでオークの集団と先ほどのリーダーが戦っていた。その戦闘の脇に女の子を抱えているオークが一体いる。来る途中で女の子を攫ったオークは発見できなかったが、どうやらここの集団と合流したようだ。


「君たち! どうしてここに来たんだ!?」


 オークと戦闘中だったリーダーが僕達に気付き一旦距離をとり僕達に近付いて来た。


「あんたのメンバーに頼まれたのよ。妹さんを助けてくれってね」


「まぁ目的はオークの討伐ですけどね」


 僕達の言葉を聞いたリーダーは驚きで声が出ない様子だ。

 まぁそうだろう。いくら頼まれたからと言ってこんな危険な場所に子供が二人も揃って来る方がおかしい。リーダーもそう思ったのか荒々しく声を上げる。

 実際は二人とも子供じゃないけどね。


「君たちの気持ちは嬉しいが、このままじゃ共倒れだ。妹の事はもう……」


「はいストップ。お兄ちゃんがそう簡単に妹の事を諦めちゃダメだよ」


 僕はリーダーが言い掛けた言葉を止める。少しでも可能性が残っているのなら助けなきゃダメだ。僕にも妹がいるからリーダーの気持ちはよくわかる。


「さて、数が多いね。どうしようか?」


「私とイズ兄ぃが雑魚を引き付けるからそこのお兄さんが妹さんを助けに行けば?」


 まぁそれが一番妥当な考えだろう。僕達がリーダーを見ると彼も大きく頷いた。


「方針が決まればってるだけよ!」


 愛莉歌が両手のフィストをぶつけ合い気合を入れ直す。どうしてこう僕の妹弟子は血気盛んなのだろう。

 僕も腰から脇差を抜き構える。


「作戦開始よ!」


 愛莉歌の号令と共に僕達はオークに向って突撃する。


☆★☆★☆★☆★


 リーダーが妹に近付けるように進路を邪魔するオーク共を一掃する。なるべく一撃で倒せるように喉や胸などを狙ってはいるのだが、それでも重労働だ。

 そして何体目かのオークを切り裂いた時に異変は起きた。

 明らかに他のオークとは雰囲気が違うオークが一体。こちらにゆっくりと近付いて来た。その手には他のオークと違い巨大な斧が握られており、体にも簡単な鎧を着込んでいる。


「チッ。オークロードか」


 リーダーが奴を見て舌打ちをする。

 オークロード。オークの一段階上の存在でその強さはオークの比ではない。ゲームの時のモンスター情報にはオークを従える力があるとされていたが、こうして多数のオークを伴って攻めてくるとゲームの情報通りなのだろう。

 オークロードはリーダーを一番の脅威と認識したのか彼を重点的に攻めはじめる。これでは妹さんに近付く事もできそうにない。


「悪いが君が行ってくれ! コイツの相手をするだけで手一杯だ!」


 リーダーは必至にオークロードの斧をかわす。愛莉歌を見るが彼女も二匹のオークを相手にしているようで行けそうにない。

 僕が行くしかないのか……


 僕はオークロードの脇をすり抜け、一番奥にいる女の子を抱えているオークに狙いを付けて脇差を振るう。

 女の子を抱えていた為に反応が遅れたのだろう。肩を切られたオークが女の子を落とし悲鳴に近い声を上げる。


「うるさいよ。ブタのくせに」


 女の子を落とした事でがら空きになった体を切りつける。生き物を殺すという感覚は既に僕の中に無かった。


 オークを倒し、地面に落とされた女の子を回収する。まだ息をしているのが確認できて一安心だ。

 そのまま彼女を抱きかかえると愛莉歌の居る所まで下がる為に移動を開始する。僕より身長が大きい女の子を抱えては走るのは凄く大変だった。


「あれ……私……」


 走っている振動で気が付いたのだろう。女の子が弱々しく声をだした。


「ごめんね。もう少しでお兄さんの所に着くから。ジッとしててね」


「え? 貴女は……きゃ」


 女の子が何かを話そうとした瞬間に僕の真横に棍棒が振り下ろされる。サイドステップで何とか避けれたが、今のは危なかった。

 驚いた拍子に彼女が強く抱きついてくれた為、先ほどより随分と走りやすくなる。抱きつかれた時に女の子特有の甘い匂いが漂い思わず頬が赤くなるのを感じた。

 今女の子を抱きしめてるよ~異世界に来て一番ラッキーな事じゃないか? 化け物に襲われているけど。


 オークをスルーして何とか愛莉歌の元まで辿り着く。


「もう大丈夫だよ。後ろで待っててくれるかな」


「はい! ありがとうございます!」


 彼女の笑顔に釣られてこちらも笑顔になると脇腹に鋭い衝撃が走った。あまりの痛さに膝を付くと何故かこちらを睨みつける愛莉歌の姿が目に入った。


「痛いじゃないか! 戦闘中なのに何するんだ!」


「あらごめんなさい。戦闘中に女の子にうつつを抜かすバカが居たからつい手が出てしまったわ」


 こいつ……誰が何に現を抜かしていたって?

 文句を言おうと口を開き掛けた所にリーダーが吹っ飛ばされてくる。見るとオークロードが勝ち誇ったように叫び声をあげていた。


「痛たたた。って咲妃さきじゃないか!」


「兄さん!」


「咲妃!」


 兄妹が感動の再開を果たした。兄の腕の中に妹がすっぽりと納まっている光景を見るといや~ちょっと人前じゃできないなぁと思ってしまう。しかしどうやら僕の隣にいる奴はそうでもないらしい。僕は隣で羨ましそうに兄妹を眺めている愛莉歌に声を掛ける。


「ほら、兄妹ってのはああいうのを言うんだよ?」


「……あによ?」


 愛莉歌がこちらを睨んでくる。まったく素直じゃないな。


「ほら! 僕の胸に飛び込んでおいデブッ」


「バカなの? 死ぬの? 死になさいよ!」


 胸に飛び込んできたのは愛莉歌の拳だった。当然鋼鉄のフィストは装備されている。

 本当に素直じゃない奴……


★☆★☆★☆★☆


「さて、あんましバカもやってられない状況かな」


 痛む胸を摩りながら改めて周りの状況を確認する。オークは一定の距離をとりこちらを睨みつけている。よくよく考えればあのバカをやっていた状況で攻められない訳はないのだが、どうしたことだろう?


「あの……私が防御壁を張りました。ごめんなさい」


 そう言って頭を下げたのは先ほど助けたリーダーの妹さんだった。中々素早いじゃないか。

 えっと確か名前は……。


「咲妃は魔法使い(マジシャン)なんだ」


「この防御壁を張った時に武器が壊れちゃいましたけどね」


 あ~そうだ、咲妃さんだ。

 リーダーが優しく頭を撫でると咲妃さんも嬉しそうに微笑み返す。しかし、武器が壊れたか……。


「咲妃さん、この防御壁はあとどれくらいもつかな?」


「えっとまだ魔力に余裕はありますから五分はいけるかと……」


 僕の問いかけに咲妃さんは何故か顔を赤らめて答えてくれた。そして愛莉歌から氷の様な視線とリーダーから何か複雑な思いが籠った視線が送られ来るのだが……何故だ?


「そうか。それじゃ壊れた武器を見せてくれる?」


 僕は二人の視線を無視し、咲妃さんから壊れた武器を受け取った。咲妃さんの武器は典型的な杖で、幸にして壊れていたのは柄の部分で魔法石は無事だった。


「これなら直ぐ直せるな。愛莉歌、リーダーさんもし五分経過しても直らなかったら少し時間稼いでくれます?」


「イズ姉ぇ直せるの?」


「ああ、柚姉用に作ろうと思っていた杖の柄がある。いい魔法石がなくって諦めたけど。まさかここで役に立つなんてね」


 僕はアイテムストレージから杖の材料を取り出すとクラフトモードを起動する。柄の製作は終わっているので後は魔石をくっ付けるだけだ。

 わずか二分足らずで杖を作ると咲妃さん手渡す。


「え……これ。本当に貰っていいんですか? 性能が違い過ぎるですけど」


「核となる魔法石は咲妃さんのものだから、気にせず使ってよ」


 杖を持つ咲妃さんの手を上から包み込むように僕の手を重ね、笑顔を見せる。すると咲妃さんの顔が真っ赤になった。その顔を見て愛莉歌の視線が更に温度を下げ、殺気すら感じる。リーダーは最早泣きそうだ。

 僕は何かいけないことでもしたのだろうか?


「さて、これで後方支援の準備が整ったから一気に形勢逆転といこうか」


「ハイ!」


「……そうですね」


「……そうね」


 何故かチーム内で温度差がある返事が返ってきた。大丈夫なのかな?


「イズ姉ぇ。後方支援があるなら私アレ(・・)をやるわ」


 何かを決意したように愛莉歌が拳を固める。しかし僕は彼女の発言に顔から血の気が引くのを感じる。


「やめろ愛莉歌! それはダメだ!」


 僕の権幕にリーダーと咲妃さんの二人は目を丸くする。そして愛莉歌は何処か悲しそうでしかし何かを決意した顔で首を横に振る。


「……イズ姉ぇ、私はいいの。この場を乗り切れるなら。雑魚は私に任せてイズ姉ぇは大物を狙いなさいよ。私が譲るんだからヘマしないでよね」


「ダメだ。ダメだよ……もっと自分を大事にしろよ!」


 僕の声に悲しそうに微笑むと愛莉歌はその言葉を口にした。


「スキル発動……狂喜の宴・獣型モデル・ビースト!!」


「あ、ああ……ダメだ愛莉歌。そのスキルをこんな人前で使ったら……


 嫁の貰手がなくなる!!」


 既にトランス状態になっている愛莉歌に僕の声は届かない。全身から力が抜けたように前屈みとなり、腕はだらん・・・と垂れ下がる。そして静寂を破るかのように聞こえてくる笑い声。

 そう愛莉歌はこの瞬間、戦いだけを求める獣へと変化してしまった。


 サブ職を選択するメリットは二つある

 一つはメイン職以外のスキルが使えるようになる事だ。これは生産系のサブ職は僕みたいに生産系プレイヤーにもなれるし、戦闘系のサブ職なら戦闘の幅が広がることにもなる。

 次にステータスの上昇だ。サブ職もレベルに応じてステータスの上昇がある。メインに比べれば多少見劣りするがそれでもカンストまで上げれば結構な数値が上昇する。

 そんなメリットが強いサブ職の中にもある理由で忌避されるモノがいくつか存在する。そのうちの一つを愛莉歌はカンストまで育て上げた。そのサブ職とは……。


狂戦士バーサーカー


 その能力は完全な戦闘特化型。追加のスキルは二つと少ないがその効力が絶大だし、レベルの上昇と共に付与されるステータスもSTRストレンクスAGIアジリティの極振りと戦士系職業の人達垂涎のサブ職になる……はずだった。


 しかし、現実は残酷過ぎた。


 確かにステータスの上昇とサブ職スキルによって戦闘のハードルはぐんと下がった。だがその戦闘スタイルに問題が生じた。

 それは文字通り狂っているのだ。戦闘中に笑い声を発し、目の付くモンスターに飛び掛かり惨殺する。

 これがただのコンシューマーゲームで画面を見ているだけならばまだ良かったのかもしれない。しかし実装されたのはVRMMOのFYOなのだ。

 想像してほしい。目の前の友人がいきなり笑いながらモンスターを力の限り攻撃する様を。

 これを作った開発者はきっと疲れていたに違いない。

 こうして戦闘系サブ職の中でも五本の指に入る程の性能があるにもかかわらず狂戦士は使用する者が激減した。中には愛莉歌の様なコアなファンもいるのだが……


「あははははははははは!!」


 笑いながらオークの顔面を殴り続ける少女を見るともうダメだと思ってしまう。


「彼女は狂戦士のサブ職を選択していたんですね」


「初めて見ました……」


 兄妹は揃って驚きを隠せれない様子で僕に話しかけてきた。

 今では絶滅危惧種に認定されてもおかしくないサブ職なのだ。初めて見るのも頷ける。


「やっぱりあなた達もプレイヤーだったのですね」


「やっぱり……? という事はリーダーさん達も」


「ええ、プレイヤーですよ。おっとその話はまた後でしましょう。彼女一人に押し付けては可哀想です」


 そうだった。僕は愛莉歌の意思を無駄にしちゃいけないんだった。

 僕は両手に持った脇差を鞘に戻しあのククリナイフを右手に構える。

 少し恥ずかしいけど、今の愛莉歌に比べたら……自分の婚期を逃してまでチャンスを作ってくれたその気持ちに応える!!


「リーダーさんは妹さんを護ってあげてください。オークロードは僕が殺ります」


「一人で戦うと言うのか!? それは余りに危険すぎる!」


「そうですよ! 私も魔法が使えますからサポート位できます!」


 二人の声を聞きながら僕は首を左右に振る。きっとあの時の愛莉歌も同じ気持ちだったのだろう。


「リーダーさんは怪我が酷すぎます。その怪我でオークロードとの戦いは危険でしょう。咲妃さんはあそこで暴れている僕の妹弟子をサポートしてあげてください」


 咲妃さんはそれでも何か言い掛けるが、僕の気持ちを察してくれたリーダーさんに止められている。

 うん。それじゃ僕も恥ずかしい思いをしましょうか。このククリナイフで!


「我の声に応じ眠れる力を解放せよ! 万物全ての命を喰らい尽くせ! “ソールイーター”!!」


 僕の厨ニ発言が森にこだまする。

出雲:レベル16 職業:剣士 サブ:工匠

装備:布の服・革の胸当て・革のブーツ・ククリナイフ【???】・脇差


愛莉歌:レベル17 職業:武闘家 サブ:狂戦士

装備:俊足の道着・甲冑靴・鋼鉄のフィスト


柚葵:レベル14 職業:聖職者 サブ:???

装備:癒しのローブ・革の靴・ロッド

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