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39話 攻撃は最大の……

 一抹の不安を抱えながらスタートしたマルクさんの特訓だが、意外と三日目にはちゃんと防御ができるようにまでなっていた。

 正確に言うと防御だけ(・・)出来るようになったんだけどね。


 防衛本能なのか、昔やっていた守備隊のおかげなのか、僕や愛莉歌の攻撃を見ても委縮することなくほぼ完璧に防いでみせた。

 しかし、肝心の攻撃に転じる事が出来ず、ロッタが作った片手用直剣は未だに綺麗なままなのだ。これではロッタの修行にもならない……。

 はてさて……どうしたものか……。


「じゃ次、愛莉歌お願い」


「ん、任せて。いきますよ、マルクさん!」


 そんな事を考えていると休憩の時間が終わり、次は愛莉歌の番となる。

 愛莉歌はそう言うと中庭の真ん中へと移動していく。そんな頼もしい? 背中を見送りつつ、僕はロッタの横へと移動する。


「あ、師匠。お疲れ様です」


「ロッタも、お疲れ様。盾の方は大分よくなってきたね」


 僕はロッタの近くへ腰を下ろすと今まで戦ってきたマルクさんの防具に関しての感想を言ってあげた。ゲームでの知識だが、意外と役に立っている。

 それから、愛莉歌の模擬戦を観ながらどうすればマルクさんが攻撃に転じてくれるかを考え始めた。


 マルクさんに足りないのは攻める気持ちだと、僕は中りを付けている。

 過去の失敗からなかなか強気で攻められないのだろう。失敗なんてそれこそ生きていればしない方がおかしい位なのだが、マルクさんの失敗は自分、そして同僚……それも幼馴染みの命まで奪う所だった事を考えれば……無理もないか。


「師匠? ため息が漏れてますよ」


「あ~ごめんね、なかなかうまくいかないなぁって思ってね」


 無意識のうちに漏れたため息に気付いたロッタが声を掛けてくれた。弟子にまで気を遣わせてしまうなんて……しっかりしなきゃいけないな。


「マルクさん、まだ攻撃は出来ないですね」


「しょうがないよ。それだけマルクさんの心に根付いた問題が大きいんだよ」


「何かこう……やる気が出る言葉とか薬とかあればなぁ……なんて思っちゃいますね」


 やる気が出る言葉か……。

 ロッタの言葉を聞いて一つ、ある作戦が思いついた。ただ、余りにも作戦の内容が内容だけに、ちょっと躊躇うと言うか、何と言うか……。


 なんて事を考えている内に模擬戦の時間が半分を切った。この後はお昼になるので、再開は午後になる予定だ。

 もう時間も無いし……いっちょやってみますか?


「ロッタ、お願いがあるんだけど」


「何ですか、師匠?」


 僕は午後の訓練の為に、ロッタへあるものを作ってもらう事にした。



 そして午後。お昼を食べ、一休みした僕とマルクさんが中庭の真ん中で向き合っている。


「さて、マルクさん。午後はちょっと趣向を変えて行こうと思います」


「ああ、構わないよ」


 僕はマルクさんが了承したのを確認すると、両手(・・)に刀を構え攻撃を開始した。


 そう、ロッタにお願いしたのはもう一本の刀だったのだ。

 今までの僕は、刀を両手で構えるスタンダードな形を取っていた。

 それを二刀流に変えることによって手数を増やす事にした。そうすることで、盾だけでなく剣を使わせようとしたのだ。

 そしてもう一つ……。


「ほらほら、マルクさん。追いついて来れてないですよ? もうここで諦めます?」


「はぁはぁはぁ……まだ……まだ!!」


 僕はわざとマルクさんを挑発するような言葉を投げかけるようにした。

 こんなことがなんの役に立つかって? まぁ見ててよ。


「ほら、また右手がおざなりになってますよ!」


「くっ!!」


 僕は容赦なくマルクさんの右腕に一撃を入れる。手加減をしてるとはいえ、鉄の塊で叩かれるのだ。痛みは相当にあるだろう。


「こんな事じゃエルザさんを守れないですよ!」


「はぁ……はぁ……」


 いい感じにマルクさんが追い詰められている。そろそろいいかな?

 僕は一旦攻撃の手を緩めると、マルクさんに話しかける。


「エルザさんと言えば……彼女、いいですよね?」


「はぁ……は?」


 マルクさんは一瞬何を言われているのかわからないと言った感じになった。僕はあえてそれを無視して言いたい放題に言いまくる。


「僕、あんなに綺麗な女性って初めて見ましたよ。いいなぁきっと抱き心地もいいんでしょうね~」


「君は……何を……言っているだい?」


「わかりませんか? じゃあはっきり言いますけど、この勝負でマルクさんが負けたら……今晩エルザさんを貸して下さいよ」


「何だと!……第一君は」


「“女”……なんて誰が言いました? 僕は“男”ですよ?」


 この時、マルクさんの表情が一変したのが確認できた。それは驚きが大きかったが、確かに怒りの感情が垣間見えた。

 よし、あと一息。


「ねぇいいでしょう? 僕にだってご褒美はあってもいいと思うんですよ」


「そんな事で自分の妻を差し出せと? やはり君もあの連中と一緒だったのか……」


「心外ですね。その件は柚姉がはっきりと違うと言ったじゃないですか。それに僕は無理矢理なんて言ってませんよ? 要はマルクさんが勝てばいいんですよ」


 開いていた間合いを一気に攻め、渾身の一撃を叩き込むとマルクさんの体が冗談のように後ろへ吹き飛んだ。


「まぁこの様子じゃ僕の勝ちは揺るがないでしょうけど……あぁ今から夜が楽しみだなぁ」


「待て! 俺は了承してないぞ!!」


「そんなの、何とだって言えますよ。“死人に口なし”って言ってですね。口答えできなければいいんですよ。まぁ今回は死んでませんけど……大人しく明日の朝まで寝ててくださいね」


「そんな事……出来る訳がないだろう!!」


 僕が間合いを詰めると同時にマルクさんも走り始めた。その表情は言うまでもなく怒りに満ちている。


お前(・・)みたいな人間に、妻を……エルザを渡してたまるか!!!」


 マルクさんの持っている刀身が一瞬光ったと思ったら、腹部にドンッと衝撃が走った。マルクさんが片手剣のスキルを発動させたのだ。

 見ると防御に使った僕の刀は半分から見事に折れており、お腹に深々とマルクさんの剣が食い込んでいる。ロッタめ、急造とはいえちょっと耐久値に問題があるよ?


「はぁぁぁあああ!!」


「何だ……出来るじゃないですか」


 マルクさんの気合の声を聞きながら僕は思いっ切り後方へと吹き飛ばされた。


☆★☆★☆★☆★


「イズ兄ぃ!!」

「師匠!!」

「イズモ!!」


 俺は少女達の声でふと我に返る。

 足元を見れば今までイズモが使っていたと思われる武器の破片が落ちている。


「俺は……一体……?」


 茫然としていると、今度は盛大に物が壊れる音が鳴り響いた。

 確か、イズモが飛んで行った方には物置が……。


「あなた! どうしたの!? 凄い音がしたけど!」


 すると物音が聞こえたエルザが食堂のドアを開けながらこちらに走り寄ってくる。


「あなた怪我は無い? イズモちゃんは?」


「エルザ、あんな奴は放って置けばいいんだ」


 俺の口調は厳しいものになってしまったが、しょうがない。妻の口からあんな奴の名前が出ること自体が気に食わないのだから。


「あなた? 一体何があったの?」


 俺の口調に違和感があったのか、妻が聞き返してきた。

 正直、説明なんてしたくはないのだが、俺は今さっき起こった事を説明した。


「まったく、あなたったら……そんなのイズモちゃんの嘘に決まっているじゃない」


 俺の説明を聞いた妻は、ため息混じりで残念なものを見る目で見てきた。


「いや、しかし!」


「いい? あなた、よく聞いて」


 反論をしかけたところをタイミングよく言葉をかけられた。


「仮にイズモちゃんが男の子だったとして、私を狙っていたとしたら……初日に手を出して、あなたと約束もせずに翌日に旅立って行くでしょう?」


 確かに……言われてみれば……。

 いや、きっと機会を探っていたに違いない!


「それじゃ何故今日あなたに告げたの? 言っただけ発見されるリスクが上がるだけじゃない。それに、あなたの特訓もまだまだ目処がたってないのでしょう?」


「う……」


 俺はエルザの言うことに反論出来ず、ただただうなり声が漏れるだけだった。


「それに……イズモちゃんが今どうやって寝てるか知らないでしょ? イズモちゃんを固定して彼女達がローテーションを組んで一緒に寝てるのよ?

 そんな状況で抜け出してご覧なさい、きっとああなるわ」


 エルザが苦笑いしながら指差した方向を見ると、そこには三人の少女達に拘束されているイズモの姿があった。


★☆★☆★☆★☆


 痛たたた……。

 マルクさん本気でやるんだもんなぁ。


『あんなに怒らせたんですよ? 本気なのは当然ですよー』


 岩筒の呆れたような、それでもどこか心配している感じの声が頭の中に響く。


 でも結果的にはマルクさんは攻撃出来たじゃない。まずは第一歩だよ。


『まったく……もっと他にやりようがあったんじゃないですか?』


 そうだね、でも人間の『怒り』という感情はそれほど強いんだよ。


『出雲さんがいいならいいですけどね~でも、災難は続くようですよ?』


 はい? 何の事?


「イズモ、大丈夫!?」

「イズ兄ぃ! 生きてる!?」

「師匠! 大丈夫ですか?」


 岩筒の答えを聞く前に三人の少女が流れ込んできた。

 リズに愛莉歌にロッタだ。多分吹き飛ばされた僕を心配して来てくれたのだろう。

 ああ、なんて優しい子達なんだ。僕は幸せ……


 ガシッ!


「がし?」


 少女たちの優しさに感動していると、突然顔を掴まれたような感覚が……?


「って愛莉歌!? 何するの!!」


「イズ姉ぇさ……さっきなんて言っていたのかな?」


 愛莉歌の冷え切った声が頭だけでなく僕の心臓を鷲掴みにした気がした。

 冷や汗が止まらず、震えが止まらない。これは怪我が原因じゃないだろう。


「いや、あのね愛莉歌。これにはね……」


 身振り手振りで説明をしようとした時、その腕を後ろから羽交い絞めにする人物が一人……。


「師匠? 一体何を話していたのでしょうか? 不肖の弟子に教えてくれませんか?」


「ロッタ!? 待って、一体何があったのさ!」


 いつもは優しく、どこか一歩引いたような感じがするあのロッタが、今僕を羽交い絞めにしながら愛莉歌と同じ位冷え冷えとした声で話しかけてくる。


 そしてまだ終わりではなかった。

 なんとマルクさんにやられた脇腹がグリグリと……


「って痛い! 痛いよリズ!! そこは怪我しているんですけど!?」


「……今日はあたしの番なのに……」


 吹き飛ばされてフラフラの上、羽交い締めにされまさに手も足もでない状態で、リズはあろうことか杖の先端で傷口をグリグリと圧迫してくるではないですか!

 杖の先端が魔法石を球状にしたものだったのがせめてもの救いか……?


「待って、一端落ち着こう! 僕たちには言葉と言う素晴らしいものが……って痛ぁぁぁ!?」


 弁解の機会を得ようとちらっと話し掛けただけで、頭は万力の如く圧力が掛かり、両肩は曲がらない方向に固められ、腹部には打撃が加わった。

 本当に一体僕が何をしたと言うのか? マルクさんが一歩前進できるようにしただけなのに!


「イズ姉ぇ? ちょっとお話ししましょうか?」

「師匠、私からも一言いいですか?」

「イズモ、観念する」


 三人それぞれのお話し(・・・) は言葉ではなく、体へと直接語られるようだ。



 その後、マルクさんたちが止めるまで彼女らの体へのお話しが終わることはなかった。

出雲:レベル27 職業:剣士 サブ:工匠

装備:布の服・鋼のハーフメイル・避雷と防風の籠手・脇差【風神(複製)】【雷神(複製)】・短槍【焔】

憑依:磐筒


愛莉歌:レベル29 職業:武闘家 サブ:狂戦士

装備:俊足の道着・鋼鉄の甲冑靴・モンスターナックル


柚葵:レベル23 職業:聖職者 サブ:???

装備:神官のローブ・革の靴・神官のロッド


咲妃:レベル27 職業:魔法使い サブ:???

装備:魔法使いのローブ・革の靴・魔力のロッド


ロッタ:レベル25 職業:鍛冶師

装備:鋼鉄のハーフメイル・鋼鉄のソードメイス


ケーラ:レベル25 職業:魔法使い

装備:魔増のローブ・魔法使いの靴・マジシャンワンド


リズ:レベル23 職業:聖職者

装備:聖なるローブ・神官の靴・聖なる杖

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