formerー5
「……ちゃんと説明しなさいよ」
握らされたペンを押しかえして、運転席に座る優太を睨む。
「もう25になっちゃったしさ、早く結婚して詩織を産んでやらないと詩織が可哀想だろ?」
「…え?」
ニヤリ、そんな効果音が似合いそうな笑顔だった。
「忘れたわけないよね、俺たちの娘だよ?」
顔が、近づいてくる。
「全部、知ってるよっていったら、どうする?」
「だってさ、せっかくやり直ししてるなら、素直に行こうと思って。あっちの俺がしたことは、ずーっと俺がやりたいって思い続けてた事なんだ。笙子のそばを離れないのも、笙子の一番になりたかったのも」
「わかんない?首藤だけじゃなくて、俺も全部知ってて知らないふりしてたんだよ」
「言ったらお前離れて行きそうだったし」
「首藤と予想以上に仲良くなって、俺がどんな思いでいたか想像できる?」
どうしよう、息が苦しい。
真剣な顔で話す優太の目が、ずっとあたしを見てる。
「あっちの世界で、お前との未来を見て、こっちでも妥協なんてできないと思った」
「?そうだよ妥協!お前彼氏途切れねえし、俺に勝ち目なさそうな男とばっかり付き合いやがって…」
「泣くなよ…泣きたいのは俺だ。とりあえずお前の今の彼氏から殴られるの覚悟で奪わなきゃならないんだからさ…」
「は?別れた⁉」
「……じゃ、マジで考えろよ。…絶対幸せにするからさ…」
真剣な顔。
まっすぐにあたしを見る瞳。
でも、どっかで怖がっているような、すがるような瞳。
捨てないよ、捨てられるわけないじゃない。
何年一緒にいると思ってんのよ。
あっちで、あたしは素直にあんたに甘えるなんてできなかった。
これからはもうちょっとあたしも素直になるから。
だから……
「幸せにしてくれないと、またどっかに消えるかもよ?幸せにしてくれるって約束、してくれるなら、ずっと一緒に……」
言葉が詰まったのは、優太の顔が急ににやけたから。
「……約束する……ありがとう…二人で、今度は100歳目指そうな」
へにゃ
そんな効果音が似合いそう
あっちの優太がよくしてた笑いかただって、気づいた。
幸せそうな、笑顔。
そのまま車で向かったのは、区役所じゃなかった。
前回もらった指輪のメーカーと同じ店。
似た感じの指輪があたしの指にはめられる。
その段階でやっと、実感が湧いてきて、お店の中で泣いてしまった。
お店の人たちのあったかい笑顔に送られて出たお店の駐車場で、こっちの優太とは始めてのキスをした。
うまく丸め込まれた気がしないでもないけど、あたしはまた、紺野笙子になりました。
終わりました!
難産でした……。
最後まで読んでいただきありがとうございました!




