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最悪人生→?  作者: 紫乃
21/35

16

三階の音楽室から正面玄関まで一気に駆け降りる。


つかまれた腕はいつの間にか手に換わっていた。


「で、こっち」

「ちょっと、どこいくのよ」


玄関を出てすぐ。

正門とは反対に曲がって、柱の陰に押し込まれた。


「古屋く」

「黙ってて」


だんだん近づいてくる二人分の足音と、知ってる声。

言い争っているような様子に思わず足が向かいそうになったが、古屋君に止められた。


「先に帰られるとか、ひどいです!」

「あんたが邪魔しなければいつも通り俺と一緒に帰ってたんだよ!」

「私のせいにする気ですか?!あなたこそ、ウザがられてるって思いますけど!」


正門に向かって駆け出していく後姿。


「行ったね」


あっという間に見えなくなった二人。

微かに笑っているように聞こえる古屋君の言葉に、顔を向け苦笑した。


「行ったね。でもあれは家で待たれてる展開だわ……メンドクサイ」


「メンドクサイ、ね」

彼が意味深に笑う。


「……何?」

「最近べったりなあの子。あの子を振り切れたことは嬉しいって思ってるでしょう?」

「ううっ!」

核心に触れられた。

「やっぱりね。あの子と一緒にいると紺野さん少し困った顔してるよ」

さ、俺等も帰ろう。

って手に持ってた薄いファイルで軽く頭を叩かれる。

全く痛くない、むしろこそばゆいっていうか、恥ずかしいっていうか……

「なんで、分かったの…?」

恥ずかしくて片手で口元を隠しつつ、言えば、

「さあね?」

めったに見ない柔らかい笑顔が返ってきた。



帰る方向は逆だからって、正門前で別れたけど、帰り道はずっとあの笑顔を思い出してしまった。


あ~。

先生が笑った時みたいだったな。

いつもあたしを安心させてくれたあの笑顔。

『先生じゃなくて古屋を好きになったんだろ』

首藤の言葉が浮かんできて、慌てて否定する。

「ありえないから!」

叫んだ声が大きすぎて、周りに見られて恥ずかしかった。








「笙子ちゃん!大変!!」

「紘?」

小学校4年生になった紘が慌てて家のリビングに飛び込んできた。


家に帰って、思い描いていた鬼の形相がなくて、ほっとした気持ちもあり、怪しんでいた気持ちもあり……

あわてて飛び込んできた紘に、しかめっ面してしまった。


「嫌そうな顔しないで!うちが大変なんだよ」

「……ま、すわって茶でも飲みなさい。昨日作っておいたパウンドケーキがあるよ」

「け、ケーキ……」

「ケーキ、好きでしょ?」

「好き!」


ああ、可愛い。

お隣に行きたくないために持ち出したケーキに簡単に釣れてくれる単純さ、可愛い。

お茶を準備しつつ、隣の騒音に耳を澄ませば、聞きなれた3つの声が騒いでる。

優太と凪。

其処は分かる。

でも、なんでそこに律子が混ざってるかな……


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