第二話
翌日、エリアーナは白い紙に願いを書き出した。
羽根ペンを走らせながら、彼女は少し微笑む。
これらの願いは、長い間、心の引き出しにしまっておいたものたちだった。
一、街に一緒に出かけたい。
二、野原でピクニックがしたい。
三、星空を一緒に見たい。
四、音楽会に行きたい。
五、海を見たい。
六、温かいスープを一緒に作りたい。
七、馬で駆けたい。
八、図書館に一日閉じこもりたい。
九、一緒に夕陽を見たい。
十、
書き終えて、エリアーナはしばらく最後の一行を見つめた。
十番目の願いだけは、他とは性質が違う。
それはエリアーナが自分のためのものではなく、エドヴァルトのための願い。
三年間、彼が自分を遠ざけていた理由をエリアーナは知っていた。
好きな人がいるのに、望まない結婚をさせられた。
その鬱屈した感情を、どこにも向けられないまま、ただ沈黙で封じてきたのだろう。
紙を折りたたみ、エリアーナはエドヴァルトの執務室に赴き、扉をノックすると、しばらくして「入れ」という声が聞こえた。
広い机に向かっていたエドヴァルトは、書類を手にしたまま顔を上げ、エリアーナを見た。
「願いのリストを持ってきました」
エリアーナは紙を差し出した。エドヴァルトはそれを受け取り広げた。
彼の目が文字の上を滑っていくのを、エリアーナは静かに見ていた。
一行一行を読んでいく彼の表情は、ほとんど変わらなかった。
しかし最後の行に来たとき、わずかに動いた。
「十個目が書いてないが」
と言った顔は、眉が寄り、また離れた。
「最後の願いは……今は言えません」
「なぜ言えない」
「時がきたら。お伝えします」
「そうか」
「では、順に叶えていただけますか」
「ああ」
「ありがとうございます、殿下」
エリアーナが一礼して部屋を出ようとすると、エドヴァルトが声をかけた。
「エリアーナ」
名前を呼ばれた。
三年間で初めてのことに、エリアーナは驚いて振り返った。
「……体の具合はどうだ」
短い問いだった。
しかしエリアーナには、その問いがどれほどの重さを持っているかがわかった。
彼がそれを訊くことがどれほどのことか。
「今のところは、さほど辛くはありません。ありがとうございます、お訊きくださって」
エドヴァルトはそれ以上何も言わないまま、エリアーナは静かに部屋を出ると、彼女は一度だけ、長くゆっくりと息を吐いた。
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