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19話「崩れ落ちてゆくものは崩れ落ちてゆくものです」

 王妃はルルネに対して凛とした対応をしている。

 そこには一国を背負う女としての品格があった。

 そしてそれは時に鋭さを伴うものであるが、彼女のそういう要素が王と国を支えてきたこともまた事実である。


「え、ええー? 何を仰っているんですー?」


 へら、と笑い、ごまかそうとするルルネだが。


「きちんと説明してもらわなくては困りますわ」


 王妃にはそんなごまかしは通用しない。


 長い間王の妻として生きてきた彼女には知恵がある。お飾りの王妃ではないから。夫と共にではあるが多くの苦難を乗り越えてきた、だからこそ、様々な経験を積んでいる。ゆえの知性が彼女には備わっている。


 小娘のごまかしに惑わされるような女ではない。


「まっさか、そんなことするわけ――」

「ではガオンが嘘をついているのですか?」

「ッ……」

「そうならそうだと言えば良いのです。ただそれだけのことでしょう。それが言えないのであれば自ずと答えは見えてきます」


 王妃の瞳は冷たい色をまとっている。


「どうなのです」

「……が、頼みました」

「聞こえませんわ」

「あたしが……あたしが、彼に、頼みました。リマリーローズを消してほしいと……」


 ようやく認めるルルネ。

 すると王妃の口もとが小さく「そうですか」と動く。


「貴女はここにいるに相応しくありません」


 王妃ははっきりと言いきった。


「ま、待って! ルルネは偉大な女性だから、王家に相応しい!」

「ガオンは黙っていなさい」

「無理だ! それはさすがに! ルルネが虐められているのを放っておくことはできないよ!」


 すると王妃は冷えきった目で息子を睨む。


「黙りなさい」


 日頃の上品な立ち居振る舞いからは想像できないような威圧感。それにはさすがにガオンも動揺しているようだ。息子なのだから母の恐ろしさを知らないわけではないだろう。ただ慣れてはいないようで。言葉を失ってしまっている。


「ルルネさん、貴女は自身が頼んだことの罪深さを理解していますか?」

「……で、でも、鬱陶しいんだもん」


 緊迫した空気の中で王妃は「今、何と?」と低めの声を出す。

 それに対してルルネは「だって、鬱陶しいんだもん! あの女!」と勢いよく言い放った。


「鬱陶しい? リマリーローズさんに何かされたのですか?」

「元婚約者なんて鬱陶しい存在でしょ」

「何かされましたか?」

「されてないけど。でも! 不愉快なの! もうすっごく不愉快! ガオンの元婚約者なんて、そんな女、さっさとこの世から消えてほしい」


 それを聞いた王妃は隣にいる王を一瞥する。


 ――そして。


「ルルネさん、貴女と息子の婚約は破棄とします」


 彼女は凛として告げる。


「勝手に決めるなよ!」

「黙りなさいガオン」


 思わず噛み付いてしまうガオン。

 王妃にひと睨みされるが今度はそれでも怯まない。


 ただ、王妃を押さえ付けることはできず、それゆえガオンにできる抵抗はかなり限られていた。


「ふざけんな! それはないだろ! 婚約破棄とか、勝手に言うとか、そういうのはあり得ない!」

「うるさいですよ」

「……けど」

「今はルルネさんと話をしています。ですから黙っていなさい。そちらとはまた後ほど話をします」


 王妃はすぐにルルネへと視線を戻す。


「ルルネさん、貴女は非情に罪深い。ですからここから去っていただきますわ」

「そ、そんなっ……!」

「既に無関係となっているリマリーローズさんに手を出すような女は我が王家には相応しくありません」

「待ってください! あたしはただ! 未来で邪魔者になる可能性のある人を潰しておきたかっただけです! すべて、すべて、王家のためです!」


 その時、ついに王が口を開いた。


「もう何も言うな」


 王は眉間に深いしわを刻んでいる。


「ルルネといったな、悪しき娘よ、この国から今すぐ去れ」


 ――こうしてガオンとルルネの婚約は強制的に破棄となった。


 ガオンもルルネも関係をやめにするつもりはなく。ただ、たった一つの悪しき行いによって、その関係は終わりを迎えることとなってしまった。様々な手を使いこれまで築いてきたもの、すべてが崩れ落ちてゆく。


 他者を傷つけ。

 他者を貶め。


 そうやって手に入れたものは、脆い。

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