20話「国の未来に陰りが生まれつつあります」
ガオンとルルネの婚約は国王夫妻の決定により破棄となった。
「何よこれ、どういうことよ! あたし何も悪いことしてないじゃない! ねぇガオン!? 悪くないでしょ!?」
「あ、ああ……」
「ちょっとガオン! どうしてそんな曖昧な返事なの? 自信なさそうな物言いしないでよ! あたしすっごく傷ついてるのに!」
「ごめん……」
まさかの展開に心乱されているルルネは、ガオンに当たり散らしている。
「ごめんとか要らない! そういうのいいから! 今さら婚約破棄なんて困るから、取り消すよう頼んできてよ!」
「……それ、は」
「ほら早く! ガオンなら何だってできるでしょ!? だから早くして! 婚約破棄だけでも取り消すよう、ご両親に頼んできてよ!」
人生を懸けて手に入れた王子の妻という居場所。それを失いそうになったルルネは冷静さを欠いていた。それゆえ、今の彼女は本来絶対にすることはなかったであろうことをしている。目の前の王子に攻撃的な物言いをする、なんていうことを。
「……ごめん、その……それは、ちょっと」
「もう! どうしてそんな無能なの!? 王子でしょ!? しっかりしてよ! あたし、そんな情けない人とは生きていけない! 無理!」
「そう……」
「ガオンは未来の国王なんだよ!? そんなパッとしない感じでいいの!? 親に意見を言うことすらできないって幼児レベルじゃん! そんな男じゃこれから先国なんて導いていけない!」
ルルネに牙を剥かれたガオンは落ち込みながらも幻滅する。
「あのな、ルルネ」
「何よ!?」
そしてついに。
「……俺もお前みたいな女無理だわ」
ガオンもルルネを手放す選択をした。
「お前がこんなやつだとは知らなかった」
「え」
「ルルネがこんなやつなんだったら、リマリーローズの方がずっとまし」
「ちょ……何言って……」
「今のお前みたいなギャーギャーうるさい女、ホント無理」
すべて、すべてが、ルルネにとって悪い方向へと動いている。
「やっぱ親が言ってた通り婚約破棄でいいと思う」
もはやガオンさえルルネの味方ではなかった。
「ちょ……本気で、言ってる……?」
「もちろん」
するとルルネは突如「ふ、ふざけないでよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」と城内に響き渡る鋭さのある大声を発した。
これまで懸命に築いてきたものを失ったルルネはまともな精神すら失ってしまった。
自分がどう見られるかという視点など投げ捨てて、本性を剥き出しにし、目の前の男に襲いかかる。
「何よアンタああああああああ!!」
「お、おい、やめろよ」
「うっさいのよクソ男おおおおおおおお!! あたしの人生何だと思ってんの!? サイテーすぎでしょそれはあああああ!!」
殴りかかろうとして護衛に制止されるルルネ。
それでもなお彼女は暴れ続けた。
屈強な男に取り押さえられても彼女の暴走は止まらない。
もうまともな彼女はこの世界にはいないのだ。
「ガオンのクソ男おおおおおおお!! あたしの人生滅茶苦茶じゃないのよおおおおおおおお!! なんてことしてくれるの!? 責任取りなさいよおおおおおおおお!! 良い未来があるからこそずっと付き合ってきてあげたのに、これ、何なのよ一体!? どうしてあたしがこんな目に遭わなくちゃならないの!? どうして!? 何であたしがこんなことになるのよ!? ガオンのクソ野郎ぉぉぉぉぉぉぉ!!」
叫び続けるルルネを見てガオンは引いていた。
「アンタどういうつもりぃぃぃぃぃ!? ふざけてんじゃないわよおおおおおおおお!! あたしの人生滅茶苦茶じゃないぃぃぃぃぃぃ!! 絶対許さないからあああああああ!! 許すわけないでしょぉぉぉぉぉぉ!! 覚悟しなさいよぉぉぉぉぉぉ!! ガオン、アンタだけは、アンタだけは仕留めるぅぅぅぅぅぅぅ!! いつか必ず! 必ず! ぶっとばしてやるううううううううう!!」
その後、正式に国外追放されることとなったルルネだったが、追放の日にその身一つでガオンの前に現れ刃物を持って襲いかかった――国の未来である王子に二度と治ることのない傷を負わせ――それによってその場で拘束、彼女は処刑されることとなった。
ただ、犯人が処刑されたからといってガオンの傷が治癒するわけでもなく、国の未来には陰りが生まれる。




