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聞き間違いかもしれない。半分はそんな願いを込めて、あたしは聞き返した。
「飛騨。今回の試練は対象者ではないお前も参加してもらうことになった。学院長の許可は降りている」
一学年の試練の日当日。あたしは見学のために、グラウンドに集められたクラスメイトたちを少し離れた場所から見学するつもりだった。グラウンドに現れたのは、遊泳クラス担当の戸鳴先生だ。黒字に白いラインの入ったジャージを着た、いかにもスポーティな出立で登場した先生は、クラスのみんなを見渡した後、あたしに向かって手招きして告げたのだ。「今回は飛騨も参加してもらう」と。
完全な部外者気分でいたあたしは、おずおずとクラスのみんなに近寄っていた。心なしか、みんなもあたしが参加することでより一層不安を抱いているような気がした。あたしという無能力者……と言うことになっている存在が在籍しているだけでもイレギュラーな学年なのに、もしかして今回の試練は今までのどんな試練よりもイレギュラーになるんじゃないか? そんな心の声が聞こえてきちゃいそうだ。
「よし。全員揃ったところで今回の試練の概要を説明する。今回の試練は簡単に言うと『宝探し』だ」
「宝……探し」
まるでオリエンテーリングのゲーム名のように告げられて、あたしたちは困惑した。とはいえ、試練の前情報からこの宝探しが親睦を深めるための面白ゲームでないことくらい察しがつく。
「今からみんなには、三人ひと組でチームを組んでもらう。そのチームごとに定められた宝が、この学院の至る所に配置してある。制限時間までに宝を持ち帰り、この俺に提出することで試練は無事完了となる」
ちなみに、組み分けはこちらで決めさせてもらったのでそれに従うこと。言うと同時に戸鳴先生は背中に背負っていた筒から大きな模造紙を取り出した。そこには三人組の振り分けが書かれてある。学院はハイテクノロジーに溢れているのに案外そういうところはアナログなんだ。
「えっ、ちょい待ち」
「この班分けは」
みんなが先生が広げた模造紙の前でわいわい騒いでいる中、一際大きな声が上がった。それを気にしつつも、人だかりをかき分けて、あたしの名前を探す。
そこには「E班 木曽 赤石 飛騨」の文字があった。
「え! ええ!」
「戸鳴先生。ちとせもきっちり三人組なん?」
「最初に言っただろ、飛騨にも参加してもらうと」
「いや、普通に参加するとは思わへんもん。なんか、試練といえど、うちらと別枠でやるもんやとてっきり」
「そもそもなんで俺がこいつらと同じ班なんだ」
赤石くんは大変不服そうだ。深雪ちゃんがメンチを切ったけどお構いなし。あたしとしてもこの班分けは気になった。まさかあたしたちが手を取り合っている協力関係であることがバレているわけではないと思うんだけど。
「まあまあ、なんでこの班になったのか。赤石の班だけじゃなく、他の班のみんなも、まずそこから考えるのも試練の始まりだ。と言うわけでその質問には答えられない。すまないな」
「……」
赤石くんは重い沈黙で無言の抗議をしていた。そんなものなど無いもののように扱う戸鳴先生は、班の先頭に書かれたメンバーに、折り畳まれた紙と小さなショルダーバッグを配り始めた。
「今配った紙に、班ごとに獲得してほしい宝が記載してある。三人で協力して宝を持ち帰ること。時刻は今日の午後五時まで。さらに、このバッグの中には微弱な電波を発する機械が入っている。試練の都合上、この端末は手放さないこと。はい。説明は以上。いいか~? もう始めるからな~」
「もう!?」
「では――開始!」
心の準備をさせてもらえる暇はなかった。みんな焦ったように紙を広げ三人で覗き込んでいる。そしてそれぞれが思い当たった先へ散り散りになってすっ飛んでいってしまった。文字通り羽を生やして飛んでいってしまったものもいる。あたしたち三人は完全に出遅れてしまった。なんだかこの状況を受け入れるのが、他の生徒たちよりもワンテンポ遅れてしまった。
「……まー、こういうのは焦ってもしゃあなしやし、とりあえず紙開けてみよか」
「はい。ひとまずみんなで確認してみましょう」
未だ不機嫌そうな赤石くんも深雪ちゃんの提案には素直に乗った。ここで班分けについてごねたところで無意味な時間を過ごすだけだと分かり切っているからだろう。丁寧に四つ折りにされた白い紙を広げ、三人で覗き込む。
『陸水空それぞれの水晶を三人で取得し組み合わせ、一つの宝珠にせよ』
「なんでしょうかこれ、謎解き?」
「簡単に考えるなら、三箇所にそれらしい水晶があって、それを集めろってこと……って」
あたしと深雪ちゃんが文章を読み込むより早く、赤石くんは自分の翼を広げていた。
「なら話は簡単だな。もの探しは空から探したほうが早い」
「あんたには協調性っちゅうもんはないんか! もっと方法が……」
「ない。制限時間は四時間。時間がないならとにかく捜索範囲は広げたほうがいい。ノロノロとない頭で捻り出しても意味はないだろ」
なっ、と深雪ちゃんが反論させる隙も与えず、赤石くんは悠々と空に向かって飛び立ってしまった。くるりと翻り、空中をキョロキョロと見渡しながら、凄まじいスピードで飛んでいってしまった。
もちろん深雪ちゃんもあたしも、そんな赤石くんのスピードについていけるはずもなく、グラウンドにぽつんんと取り残されてしまっていた。深雪ちゃんはかあーっと顔を赤くしている。まずい、完全に頭に血が昇っている。
「み、深雪ちゃん。落ち着いて。まずはあたしたちだけでも冷静に……」
「あいつ、空しか考えとらん。水ってことは水中探索にはうちの力が必要ってことやん。うちかて負けてられん!」
深雪ちゃんは言うが早いか、思い切りどこかへ走り出してしまった。当てがあるんだろうか。というか、結局あたし一人グラウンドに突っ立っている。え、あたし今からどこに行けばいいの? と言うよりこんなに協調性がないチームを組んで大丈夫なの?
「あたしは陸を、探すかあ……」
とほほ、と肩をガクッと落とした。でもだって、あたしは一応能力なしの一般人だから、せいぜい人間の脚力と視力しか使えないのに。地道に探せっていうの? こんなに広大な敷地の学院の中をくまなく探さなきゃ行けないってこと? これって本当に期限までに間に合うのかなあ。




