158 二重決闘
俺と決闘で対戦するコルレッツ代理人の七人。そのうち攻略対象者であるリンゼイとブラッドを除く五人のモブ。いわゆる『ジャンヌ・ソンタクズ』のメンバーの概要が大体分かってきた。賢者、黒騎士、白騎士、そして間者。あと一人、ソリメノという官吏の息子の情報が入れば、全てを把握することができる。
教室に入ってフレディとこれからの動きについて打ち合わせをした。今日の夜、俺とフレディで高速馬車に乗ってフレディの実家に赴く。実家はもちろん教会だ。チャーイルという街にある教会らしい。教会名はチャーイル教会。普通過ぎる名前である。
コルレッツの実家は地主の家。但し地主とは言っても大地主ではなく、自作農に毛が生えたもの。人に土地を貸しながら、家でも農業を営むという、ノルデンでは一般的な地主の家。実はノルデンでは大地主や、地主騎士などといった専業地主は少数で、多数は兼業地主と呼ばれる、自作しながら人に土地を貸すタイプの地主なのである。
コルレッツ家はチャーイルの街からほど近いスティーナという地方にあり、このスティーナの中心地であるナニキッシュという街の教会が、コルレッツに学園推薦枠を出したそうである。
「コルレッツ家の戸籍も、このナニキッシュ教会が管理しているはず」
「つまりこうか、チャーイルからスティーナ地方のコルレッツ家に赴いて、その後ナニキッシュの街に入る。そんな感じか?」
「そうそう。それで合っている」
俺とフレディがヒソヒソと話をしていると、俺の前の席にいるリディアがふくれっ面で俺たちを見てきた。
「なに話しているのよ!」
「いや、大事なことで・・・・・」
フレディがぼやかそうとすると、リディアが睨んできた。
「言わなくても分かっているんだから! コルレッツの事でしょ。もしかして約束忘れているの?」
俺とフレディは顔を見合わせた。あ! そう言えば・・・・・
「ボルトン伯爵領に向かったときの話か?」
「そう!」
俺がリディアに聞くと、ドンピシャだった。その話を忘れている俺たちに怒っている感じだ。どうしようか・・・・・ フレディと目を合わせると、フレディの方が口を開いた。
「リディア。今回の日程はハードだよ。行ってすぐに帰るだけだ。時間がないよ」
「約束は!」
リディアはフレディの話に聞く耳を持たないという態度。これは呑むしかなさそうだ。
「分かった。一緒に行こう!」
「グレン!」
「そう来なくっちゃ!」
困った顔をするフレディと喜ぶリディア。対照的な表情をする二人。フレディはリディアを気遣っているのだが、リディアは全く意に介さない。正直、すれ違いどころじゃないぞ、これ。
「フレディ。約束は約束だ。みんなで一緒に行こう」
「分かるけど、でも・・・・・」
「リディア。今回は前より大変だぞ。音を上げるなよ」
「うん」
「分かったよ、リディア」
リディアの頷きを見たフレディは観念したようである。今日の夜、俺たちは三人でフレディの実家とコルレッツの実家に向かうことになった。
――告知板にアイリとコルレッツとの「決闘告知書」が張り出されていたのを知ったのは、ロタスティで俺とアーサーがいつものように向かい合わせで昼食を摂っているときだった。張り出された話を聞いたカインが知らせてくれたのだ。
俺はアーサーにも伝えたのだが、詰問状の件でカインに礼を言った。するとカインは「俺ができるのはこの程度の事で・・・・・」と謙遜するので、俺はものすごい援軍をもらったと敢えて大げさに話した。俺の場合、リアクションが薄くて人に伝わりにくい面がある。だから感謝を伝えるには大きなアクションをした方がいいと思ったのだ。
三人で告知板に向かうと、既に人だかりができてきた。告知書を見ようと人垣をかき分けると、俺たちを見た相手側が退いてくれたので、告知板の一番前に来ることができた。
「なんだこれは!」
「いい加減にしろよ!」
告知書を見たアーサーとカインが怒りを露わにした。そこには俺と『アイリ』までが「退学を賭けて決闘に行う」とされていたからである。
「教官共は一体何を考えているのだ!」
「我々の詰問を無視するつもりか!」
アーサーとカインの怒りは収まらない。しかし告知書をよく読むと、詰問を無視はしていないようだ。決闘内容が『剣闘』に切り替えられていたからである。
「いや対決方法が『剣闘』に切り替わっているぞ」
俺が言うと、アーサーとカインが告知書をまじまじと見た。
「こ、これは・・・・・」
「詰問が効いているのか・・・・・」
二人は少し冷静になったようだ。読んだ告知書を精査してみる。まず、アイリと俺の決闘が一つに纏められ、アイリとコルレッツとの決闘になったこと。俺と七人の戦いが、アイリとコルレッツの代理人同士の戦いとなったこと。対決方法が魔法を使わない『剣闘』方式に変更されたこと。これが変わった点だ。
一方、内容としてあまり変わっていない部分がある。俺が「退学を賭けている」部分が、俺とアイリが「退学を賭けている」形になっていること。コルレッツ側が負けた場合の条件が書かれていないこと。日程が今週の平日最終日の放課後であること。この三点だ。
「ローランさんの退学という条件。本人が提示していないのにおかしいだろ!」
アーサーが憤る。憤りはもっともだ。俺だってそんな条件出した覚えはないし、飲んだ覚えもない。だが学園側がそう書いて発表した以上、覆ることはないし、覆すことはないだろう。だから別の角度から突く。
「コルレッツが負けた場合の条件がないってのはおかしいよな」
「全くだ。グレンとローランさんは退学という条件があるのに、相手にはないなんておかしい」
俺の意見にカインが同意してくれた。そうなのだ。コルレッツ側が負けた場合の条件が書かれていないのだ。
「おい、それって・・・・・」
「余地があるってことだよな」
アーサーとカインは気付いたようだ。既に書かれている部分は動かせないが、全く書かれていない部分は書き足せると。
「行こうか」
俺が言うとアーサーとカインが「おう」「ああ」と続いてくれた。行く先はただ一つ。
「おい、お前ら! よくもやってくれたなぁ」
教官室のドアを俺が足でけたたましく開けてやると、教官共の顔が一斉に俺の方を向いた。俺の両脇にはアーサーとカインが付いている。
「貴様ら、恥というものを知らぬのか!」
「情けない連中だな!」
カインとアーサーが教官たちを睨みつけると、貴族相手に分が悪いと思ったのか、萎縮して視線を逸しにかかっている。いずれもバツの悪そうな顔をしているのを見ると、やらかしている自覚はありそうだ。普通ならその原因や理由を究明しようとするのだろうが、そんなものに俺は興味がないし、どうでもいい。知ったところで無意味だからだ。
「お前ら、俺とアイリに『退学』なんて有り難い条件を付けてくれたな。代わりに俺が勝った場合の条件を提示してやる。コルレッツと代理人、全教官と学園執行部全員、俺の『人間立木』になってもらう!」
俺は【収納】でイスの木の枝を取り出すと、それを何度か振ってやった。
「これを一〇〇回受けてもらう」
全員、顔が青ざめている。だが、そんなものはどうでもいい。
「そんなに心配するな。俺が勝つから。動かなくてもいいよう、しっかりと丸太にくくりつけてやるから、安心して打たれるがいい」
そう言い放つ俺の顔を見てだろう。誰も顔を引きつらせている。
「そ、そ、そんなこと、ゆ、ゆ、許されるとでも思っているのか!」
「お前らがやっている事が許される事なのか?」
狼狽える教官に向かって、アーサーは言い放った。それに対する返答はない。訴えた教官はそれ以上、モノが言えなかったのである。俺は腹式呼吸を使った全力声量で宣言した。
「アイリス・エレノオーレ・ローランの代理人グレン・アルフォードはここに要求する。我が方が決闘に勝利した場合、以下の履行を要求する!」
「一つ、ジャンヌ・コルレッツとその代理人に対し、ローランに行った行為についての謝罪を要求する」
「一つ。ジャンヌ・コルレッツとその代理人及び学園執行部及び全教官に対し、グレン・アルフォードを執行人とする『人間立て木』一〇〇回叩きを科すことを要求する」
「一つ。この要求の変更は当事者たるアイリス・エレノオーレ・ローラン及び代理人グレン・アルフォードのみが行えるものとする。以上!」
「アイリス・エレノオーレ・ローランの要求、このアーサー・レジエール・ボルトン。ボルトン伯爵家の名を賭けてしかと承ったぞ!」
「同じくアイリス・エレノオーレ・ローランの要求、このカイン・グリフィン・スピアリット、スピアリット子爵家の名誉を賭けて承った!」
俺の宣言にアーサーとカインが鍵を掛けた。教官共が如何に策謀しようと俺の要求を動かすことはもうできない。俺を陥れるために策を弄した結果「俺の相手側への要求」という肝心な部分が抜け落ちていたのだ。俺たちはそこを突いたのである。
俺たちは傲然と教官室を出るとギャラリー達をかき分け、先程までいた告知板に辿り着いた。俺は【収納】でペンを取り出し、「決闘告知書」に先程宣言した俺たちの要求を書き入れる。書き終わると周辺からどよめきが起こったが、俺たちは気に留めることもなく、三人一緒に告知板から離れた。
「明日から学園を離れる。決闘までには帰ってくるから、それまで頼む」
二人にそう伝えて別れると、俺は教室へと戻った。




