『4匹のゴブリンさん』3
ちゅん、ちゅん、ちゅん
翌朝、四男ゴブリンさんは五時に起きると、1人で南の町に行き、人間に見つからないように隠れながら色んな物を手に入れました。
そして、袋を抱えながら帰ると、ちょうど岩山のトンネルを抜けようとした時、グレイウルフが向こうからやって来るのが見えました。
四男ゴブリンさんは、今度は怖がりませんでした。袋の中には、人間が使っていた便利そうな物が色々入っているからです。
「ふーっ」と深呼吸した四男ゴブリンさんは、慌てず騒がず、どうすればグレイウルフを逆にやっつけられるかを考えました。
キランッ!
四男ゴブリンさんはヒラメキました。すぐに来た道を引き返し、トンネルを抜けた先の岩山の上で、グレイウルフを待ちぶせする事にしました。
すぐに適当な大きさの『ある物』を見つけ、ゆっくり迫り来るグレイウルフを気にしつつ、焦りながらも時々深呼吸して心を落ち着かせ、動かしやすいように『ある物』の準備を完了させました。
ここで大きな袋を頭からかぶれば、姿もニオイも隠せてグレイウルフに見つからないと思ったのです。ナイスアイデア、『良い考え』。グッジョブ、『よく頑張った』だ!
すると、何も知らないグレイウルフは、四男ゴブリンさんのニオイを追ってクンクン鼻を鳴らしながらやって来ました。
トクン、トクン、トクン
四男ゴブリンさんの心臓が高鳴ります。
「ふー、ふー、ふー」
あせっちゃダメだ。あせっちゃダメだ。あせっちゃダメだ。ここでやらないと、殺られるのは僕の方なんだ。あいつは、もう僕を見逃してくれる気はないんだ。
やらなくちゃ、やらなくちゃ、やらなくちゃ。
手に汗を握りながらも、四男ゴブリンは耐えました。じっとこのタイミング、『瞬間』を待ちました。
今だ!!
ゴトッ! ドッーーン!
「ブギャンッ!!」
グレイウルフは、トンネルの上から自分めがけて大きな岩が落ちてくるのを見てびっくりしましたが、時すでに遅し。
慌てて避けようとしましたが、大きな岩は勢いよくグレイウルフの右足にぶつかって、グレイウルフを跳ね飛ばしてしまいました。
四男ゴブリンさんは、ここぞとばかりに袋に入っている包丁でグレイウルフにトドメを刺そうとしましたが、鋭く光るグレイウルフの牙を見て怖くなり、そのまま自分の家まで走って逃げてしまいました。
「……むりむりむりむりむり。僕には無理だよお。あんなヤツを相手に、こんな小さな包丁じゃあ逆に僕の方がやられちゃうよぉ」
「ちっ。やっぱりあの家のゴブリンだったのか。痛ってーな。やってくれるじゃないか! もう許さない。何とかして家の中に入って食べてやる! 待ってろっ!!」
走って逃げていく四男ゴブリンさんの後ろ姿を見たグレイウルフは、かんかんに怒り、痛めた右足を引きずりながらも何とか四男ゴブリンさんのレンガの家にたどり着きました。
すると、家の煙突からもくもくと煙が上がっているのが見えました。
「ふっふっふっ。あそこがあったか。あの煙突からなら、簡単にこの家の中に入れるじゃないか。右足は痛むが、なんとか登れそうだぞ。待ってろよ。今、食べに行ってやるからな」
グレイウルフは、ゆっくりゆっくり家の壁をよじ登り、とうとう煙突の先にたどり着きました。
四男ゴブリンさんは、家に残されていた大きな鍋を暖炉に掛け、人間が使っていた火打ち石を使って火をつけ、がんがん薪を焚いて熱く煮立ったお湯を沸かし続けていました。
「きっとあいつは追って来る。足を痛めてる今こそチャンスなんだ。この煮えたぎったお湯を浴びせてやれば、もっと動きは鈍くなるはずだ。そうすれば僕にだって、あいつをやっつけられるはずなんだ! 僕が今やれる事をやってやる!」
そう強く決意した四男ゴブリンさんは、自分を奮い立たせるように力強く言いました。
……ガラガラ、ドッガッーーーーン!!!
するとどういう事でしょう。いきなりグレイウルフが煙突の中から落ちてきました。
「ぐっ、ぐおおぉぉ……。がはっ!!」 ドサッ!
右足を怪我しているグレイウルフは、煙突の中で足の踏ん張りが利かずに、真っ逆さまに落ちて床に叩き付けられてしまいました。
1階建ての家とは言え、屋根の上からのびる長い煙突から下に落ちたのです。いくらグレイウルフと言えども無事でいられるわけがありません。
レンガの壁で頭を強く打ってしまったグレイウルフは、苦しそうなうなり声を上げると、そのまま気を失って倒れてしまいました。
「……『え』っ!? なぜ煙突からグレイウルフが落ちてくるんだ?」
突然の事に驚いた四男ゴブリンさんは、しばらくどうする事もできずに、その場でたたずんでしまいました。
「…………はっ! 何をしてるんだ僕は。これはチャンスじゃないか! 今なら、僕にでもグレイウルフにトドメが刺せるじゃないか! ゴクリ。……えいっ!!」
ドシャッ!!
四男ゴブリンさんは、ちょうど手にしていた包丁でグレイウルフにトドメを刺し、苦労しながらもなんとか皮をはいで別に取っておき、『お肉』の方をグツグツ煮え立っている大きな鍋に入れ煮込み料理にする事にしました。
「まさか、こんな事になるとはね。unbelievable. incredible.『どちらも『信じられない』よ。今の僕にできるのはこれくらいだけど、これからはもっと色々考えて行動しないとな。世の中何が起こるか分からないからな。うん。いい勉強になったぞ」
四男ゴブリンさんは、先日取ってきていたジャンボマツタケとリンゴも一緒に、グレイウルフの煮込み鍋を美味しく頂きました。
「『お』っ! delicious.これは『とても美味しい』な! taste good.『美味しい』ぞ! ふふふっ。なんだか力がみなぎってくるようだ! はっはっはっ! これはいい! こんな美味しい食事は初めてだ!!」
四男ゴブリンさんは、グレイウルフを倒したexperience point.『経験値』と、グレイウルフを食べた事によるphysical ability.『身体能力』の向上で急激なレベルアップをし、知らないうちに『グレイト・ゴブリン』へとevolution.『進化』していました。エボリューション?
その後、四男ゴブリンさんは能力向上もあり、快適に順風満帆に暮らし、更なる成長をして行くのでした。
それはまた、別の話?
... and lived happily ever after?『めでたしめでたし?』
読んでいただき、ありがとうございます。