南の島でもトラブルは、やってくる
夏休み特別編、中学時代のクラスメイトと南の島に来たヤヤが遭遇したトラブルとは?
「うーん、持つべき者は、金持ちの親友だね」
南の島のプライベートビーチで元気いっぱいはしゃぐのは、較の中学時代のクラスメイト、緑川智代であった。
「そうだよなー、ヤヤが全額負担してくれなければ、一般人のあたしらじゃ、こんな豪華な旅行は出来ないよな」
同意するのは、スイカ割りで見事にスイカを切った、同じくクラスメイトだった、赤芽雷華である。
「こんなプライベートビーチなんてヤヤって凄いのね」
感心するのは、ハーフのエアーナ=空天。
「ヤヤって、あー見えて、個人口座に数兆円持ってる超金持ちだから」
まるで自分の事の様に言うのは、毎度おなじみの良美である。
「でも本当に良いの?」
一人、心配している中学時代の委員長、鈴木優子に砂浜で、料理を作っていた較が答える。
「本気で気にしないでよ。ここは、昔、バトルの掛け金が払えないってギャンブル狂いから差し押さえた物件を特訓用に貰った奴だから」
「こんなビーチを差し押さえられるっていくら損したんだよ?」
雷華の言葉に保護者代わりって事で、妻と子供を連れてきたオーフェンハンターの一人、元バトルの十三闘神、銃神ホープが答える。
「金持ちって言うのは、限度を知らないんだよ。一試合で数百億賭けてる馬鹿が結構居るしな」
顔を引きつらせる智代。
「本当なの?」
それに対して、きわどい水着を着ているこちらも元十三闘神、糸神ユーリアが妖しい笑みを浮かべて言う。
「本当よ。ギャンブルは、人を狂わせるって事よ。後は、快楽もね」
顔を近づけるユーリアを較が睨む。
「あちきの友達に手を出したら、お父さんに言いつけるよ」
「親に頼るなんて、変わったわね?」
苦笑するのは、子供にミルクを与えていた元十三闘神、騎神キッドだった。
較は、料理を続けながら言う。
「大切な者を護るのに無駄な意地を張る無意味さを知っただけですよ」
型を繰り返している十三闘神、拳神地龍が言う。
「それが、変わったのだ。昔のお前は、全てに喧嘩を売る抜き身の刀だったからな」
委員長が驚く。
「そうだったんですか?」
良美が頷く。
「そうそう、あたし達の前じゃ猫をかぶってたけど、狂犬って感じだったよ」
「昔の事をむしかえすな」
較の投げた鉄串が良美の顔の横を通り過ぎていく。
岩を貫くそれを見て、元クラスメイト達が顔を引きつらせるが、当の良美は、平然と言う。
「ご飯まだ?」
「直ぐだから、待ってなさい」
較も平然と返す。
「良美の心臓は、絶対鋼鉄で出来てると思う」
エアーナの言葉に頷く智代と雷華であった。
比較的平和な夏休みに成る予定であった。
「本当に誰も居ないわね」
初めてのプライベートビーチに驚きながら優子は、散策をしていた。
「助けてください!」
泣きすぎで顔の造形までおかしくしている少女が、駆けて来る。
「どうしたんですか?」
思わず聞き返す優子。
少女は、そんな優子に抱きつき言う。
「追われているんです!」
少女が指差した先には、不自然な白い塊が迫ってきていた。
「やっぱり白風さんと行動するとこうなるのね」
諦めに似た感覚を覚えながら、護身用にと持たされたぬいぐるみを投げつける。
するとぬいぐるみが白虎になって、その白い塊を噛み砕く。
「へー、式神か。もしかして陰陽師か」
奇妙な民族衣装を着た髪の毛を立てた男が言って来た。
「これは、友達からの貰った護身道具です」
肩を竦める。
「冗談は、止めときな、そんな強力な式神が単なる護身用な訳がないだろう」
優子があさっての方を向いて言う。
「巻き込まれる事件の方が大きいもので」
優子の話など、ろくに聞いていない様子で男が余裕たっぷりな態度でいってくる。
「その娘を渡せ、そうすれば見逃してやる」
優子は、辛抱強く答える。
「事情も解らず、危険な相手にこんな少女を渡せる訳がありません。事情を説明してください」
男は、傲慢な態度で答えた。
「全ては、珊瑚帝国の為だ! 愚かな文明人よ、死して、帝国の礎になれ!」
再び白い塊が優子に迫ってくる。
ぬいぐるみが再び防ぐが、攻撃は、一つだけじゃなかった。
その攻撃が優子に直撃する寸前、木刀が白い塊を打ち砕いた。
「大丈夫か、委員長?」
木刀を構えた雷華が優子達の前に出て質問する。
「大丈夫。でも、どうしてこのタイミングで現れたの?」
「タイミングを見計らっていたからだ」
雷華の言葉に小さくため息を吐き優子が聞く。
「ピンチになるのを?」
苦笑しながら雷華が答える。
「相手が油断するのをだ。でも、そんなのんきな事を言ってられないみたいだったから出てきた」
「それは、ごめんなさい。なんとかなりそう?」
優子の謝罪と質問に複雑な顔をする雷華。
「難しいな、これは、ヤヤが用意してくれた、霊木で作った木刀だから、多少は、魔法を散らせるが、あいつが本気を出して来たらお手上げだ」
男は、うっとうしそうに言う。
「何なんだ? まあ、この風の精霊神の使徒、エフ様には、勝てん!」
風の塊を次々と撃ち放って来る。
その大半をぬいぐるみが防ぎ、残りを雷華が防ぐ。
「いつまでもつかな!」
エフと名乗った男が高笑いをあげたその時、一発の銃弾が迫る。
「そんな武器が通じるか!」
エフが風の防御膜を張るが、銃弾は、その膜をあっさりぶち抜き頬に傷を作る。
驚愕するエフ。
「馬鹿な、たかが弾丸が我が風の防御を貫けるわけ無い!」
それに対してホープが茂みから現れる。
「そいつらに怪我されると保護者として困るんでな」
エフがホープを睨みつける。
「貴様、何者だ!」
ホープは、拳銃を向けながら答える。
「俺か? 俺は、ホープ、さすらいのガンマンさ」
かっこつけるホープを無視して雷華が答える。
「八刃の盟主、白風の長の直属組織、オーフェンハンターのエースだよ」
エフも知っていた様子で嘲りを答える。
「詰り、人外に尻尾を振る犬って事だな」
ホープの目がすわる。
「俺も大人だ、一回だけ言い直すチャンスを与えてやる。何て言ったんだ?」
エフは、両手を天に向けて強大な風の塊を作る。
「何度でも言ってやる! ハチバなんて人外に尻尾を振る、飼い犬だってな!」
放たれた巨大な風の塊。
ホープが鼻で笑う。
「死亡確定!」
四連射された弾丸は、一発目で風の塊を拡散、二・三発目で粉砕、最後の弾丸が、全てを吹き飛ばす。
「馬鹿な! 我が最強の風の攻撃が……」
エフの顔が強張った。
そして、ホープが笑顔で告げる。
「遺言は、あるか?」
次の瞬間、地面が盛り上がっていき、エフの姿を隠してしまう。
舌打ちをしてホープが言う。
「追撃をしたいが、今回は、お前達の安全確保が先だな」
ホープが拳銃をしまって優子達を見る。
「結局、なんだったんだ?」
優子は、疲れからか、自分の腕の中で眠る少女を見ながら答える。
「この子が追いかけれられていたんです」
ホープは、その少女が持っていた球体を見て言う。
「これは、エレメタルコアじゃないか? これを何でこんなガキが?」
「詰り、それがこの子が襲われていた原因って訳だよね。帰ってヤヤと相談だね」
雷華の言葉に優子も頷く。
「当然、ホープさんが背負ってくれますよね?」
雷華の笑顔にホープは、諦めた顔で答える。
「仕方ない、男としては、女子供に力仕事をやらせられないからな」
「情けない!」
島の反対側にある海中と繋がる遺跡で、頭が禿げた中年の小太り男が、先程までホープと戦っていたエフを怒鳴る。
悔しそうな顔をして頭を下げるエフ。
その様子を一段高いところで見ていた老人が言う。
「そこまでじゃ、珊瑚帝国の司祭、ジーよ」
「しかし、我等が珊瑚の神の代行者、皇帝ゼット様」
反論しようとする小太りの男、ジーを一睨みで黙らせる老人、ゼット。
「土の精霊神の使徒、エヌからも報告を受けている、相手があのオーフェンハンターなら仕方あるまい。こちらもそれ相応な手段を講じるまで。例え人外と争うことになっても、われ等には、エレメタルコアが必要なのだからな」
そこにローブを纏った女性が入ってくる。
「その件、私、水の精霊神の使徒、ユーにお任せ下さい」
ゼットは、静かだが、迫力がある顔で問う。
「勝算は、あるのだろうな?」
ユーが頷く。
「はい。正面から戦うのは、愚作。搦め手を使い。必ずやエレメタルコアとあの娘を取り返します」
それに対してジーが忌々しげに言う。
「あの娘は、自分の立場をわきまえず計画の邪魔をした。この計画が成功した暁には、もはやあの娘は、不要の筈、連れ戻さずその場で……」
再びゼットが睨む。
「あれは、万が一の場合の手段だ。必ず連れ戻せ」
「了解しました」
ユーが深々と頭を下げるのであった。
問題の少女と共に優子達は、無事に較が所有する別荘に到着した。
「それで、このエレメタルコアって何なんだ?」
良美の質問に較が答える。
「簡単に言えば魔法の力の増幅装置だね。それもかなり強力な」
「そんな者をどうしてこの子が持っていたかが問題だよね」
智代の言葉に、較が複雑な顔をして、そしてエアーナが言う。
「とにかく、またトラブルに巻き込まれたって事ですよね」
優子が頭を下げる。
「私の所為でごめんなさい」
雷華が苦笑する。
「気にするな、どうせ、トラブルを呼び寄せてるのは、そっちの二人なんだからよ」
較と良美が指差された。
「今更否定する気も無いけどね。事前調査でも始めますか」
動き始める較であったが、珊瑚帝国の魔の手は、既に直ぐ傍まで延びていたのであった。




