序章:最初の切開の美学
【閲覧注意 / Warning】
本作には以下の過激な表現が含まれています:
・詳細かつ凄惨な医学的・身体的欠損描写(グロテスクな表現)
・倫理を逸脱した禁忌的な関係(インセスト要素)
・精神的・肉体的な監禁および拷問描写
・サイコパスによる異常な愛の形
本作はフィクションであり、いかなる犯罪行為や医療倫理の逸脱を助長・正当化するものではありません。
読後の精神的苦痛等について、作者は一切の責任を負いかねます。
グロテスクな描写や精神的に不安定な表現に耐性のない方は、直ちに閲覧をお控えください。
外の世界では、奥多摩が白く染まっていた。雪は音もなく降り積もり、松の林を包み込み、世界を絶対的な静寂へと沈めていく。だが、ここ――私が正確に摂氏十八度に保っている地下室では、唯一の音が響いている。EKGモニターを通して聞こえる、朱里の規則正しい鼓動だ。
ピッ。ピッ。ピッ。
その音は、私の大好きな音楽だ。サントリーホールで演奏されるいかなる交響曲よりも、遥かに美しい。
私は無影灯を動かし、鋭く白い光を朱里の青白い背中の皮膚へと集中させる。彼女は十分前に投与したプロポフォールの影響で、深い眠りに落ちていた。とても静かで、とても従順だ。
「朱里」
ステンレス製のオペ台に広がった彼女の黒髪を撫でながら、私は囁く。
「なぜ、兄さんがこんなことをするのか分かるかい?」
もちろん、彼女が答えることはない。だが、彼女は理解しているはずだ。外の世界は彼女にとってあまりにも過酷すぎる。人間の肉体とは脆い構造体であり、欠陥だらけで、時の流れと共に容易く崩れ去る。兄として――そして彼女を持つ唯一の人間として、彼女を完璧な状態に保つことこそが私の義務なのだ。解剖学的に。そして、永久に。
私は器具トレーから十号のメスを手に取る。冷たい金属の感触は、まるで私自身の指の延長のように馴染んでいる。
――スッ。
左肩甲骨の下に、五センチほどの垂直な切開を加えた。悲鳴はない。ただ真皮の層が開き、黄金色の皮下組織が顔を覗かせる。続いて、濃赤色の血液がゆっくりと滲み出してきた。
鋭い鉄の匂いが鼻腔を満たす。凡人にとって、これは死の臭いだろう。だが、私にとっては? これは献身の香りだ。
私は止血鉗子を使い、天才にしか成し得ない精密さで破れた血管をクランプする。彼女の血を無駄に流すことは許されない。朱里の体内にある液体の最後の一滴まで、それは私のものなのだから。
「あともう少しだよ、朱里」
生体適合性ポリマーでコーティングされた追跡用のマイクロチップを、彼女の筋肉の隙間に埋め込みながら呟く。
「これで、君は二度と迷子になることはない。たとえ逃げようとしても、君は私から逃れることはできないんだ」
私は傷口を縫合し始める。皮下埋没縫合。治癒した頃には、肉眼ではほとんど判別できないほどの細い白い線が残るだけだ。それは、私の永遠の所有印。
小さな処置が終わると、私は彼女の冷たい額に口づけをした。胃の腑から心地よい吐き気が突き上げ、悦楽が広がる。神の造形物を、より優れたものへと作り替えた者だけが味わえる高揚感。犬神江戸だけの所有物となった、至高の存在。
外の雪は激しさを増し、この屋敷に近づこうとする者の足跡を消し去っていく。私たちはここで安全だ。この銀色の檻の中で、私は彼女の主治医であり、恋人であり、そして神なのだ。
明日は、また別の場所を解剖しよう。もう少し、深く。
なぜなら、真実の愛とは言葉にするものではないんだよ、朱里。真実の愛とは、肉と骨の上に刻み込むものなのだから。
物語の幕開けをお読みいただき、ありがとうございます。
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次章では、邸宅に隠されたさらなる秘密が明かされます。




