斑目敏明、その過去
生贄ヒューマンという言葉に、思い出す。
あらゆる犠牲。あらゆるものに報いるために。……と決めてから、何年経っただろうか。
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斑目敏明は、上層では数少ない孤児だった。
自分は捨てられたのだ。12歳のある日に知らされてから、そのことばかり気にしていた。何か、究極的に必要とされたい。そうすれば、顔すら知ることができなかった誰かに、不要とされた……その過去すら塗り替えられる気がして。
その日は、雨が降りそうな夕方だった。もうすぐ雨が降る。たまたま友人と買い食いした日の帰りだった。急いで裏道を帰ろうとしていた。
学び舎での成績は悪くない。人間関係も悪くないだろう。だが、空虚は埋まらない。
自分は誰にも必要とされなかった。そのことだけが、心に重くのしかかる。赤子の頃だろうと、何か事情があると言われても、不安だった。
「……必要とされたい」
誰かに。何の理由もないほど究極的に。
呟いた途端、誰かが、嗤った気がした。男の声でも女でもない。あらゆる存在が混ざり合ったような、不気味な嗤い声だった。
顔を上げても、誰もいない。
『我々は叶えられる。その希望を叶えられる』
神による無限の犠牲。その抑えに。
「神……?」
どこからか響く声に、恐怖があった。けれど、希望があった。叶えられる、と声は言ったのだ。この空虚を埋めてくれる、その期待があった。
途端、背後から腕を引っ張られた。振り返るとローブの集団がいた。紋様は見間違えようもない、創世教のものだ。神殿の存在が、一体どうして。少年は怯えたが、腕を掴んでいた男は何事もなく告げた。
「神の声を聞いたな。お前に拒否権はない」
低い男の声だ。先ほどの不気味なものではない。
「何を……」
「生贄になるかどうか選べ」
年齢を感じさせない男……小野は、少年に告げた。
「選ばなかったら、どうなるんだ」
「無限の犠牲が続くだけだ。お前の適性も、ただ無為になるだけだ」
「……適性?」
小野の口元が、微かに歪んだ。
「安心しろよ。親にも学校にも既にうまく伝える。お前は特別なんだ」
「特別……」
その言葉は、まるで甘いジュースのようで。
「お前は神に選ばれたのだ。光栄に思え、斑目敏明」




