表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
42/67

斑目敏明、その過去

 生贄ヒューマンという言葉に、思い出す。


 あらゆる犠牲。あらゆるものに報いるために。……と決めてから、何年経っただろうか。


 ◆


 斑目敏明は、上層では数少ない孤児だった。


 自分は捨てられたのだ。12歳のある日に知らされてから、そのことばかり気にしていた。何か、究極的に必要とされたい。そうすれば、顔すら知ることができなかった誰かに、不要とされた……その過去すら塗り替えられる気がして。


 その日は、雨が降りそうな夕方だった。もうすぐ雨が降る。たまたま友人と買い食いした日の帰りだった。急いで裏道を帰ろうとしていた。


 学び舎での成績は悪くない。人間関係も悪くないだろう。だが、空虚は埋まらない。


 自分は誰にも必要とされなかった。そのことだけが、心に重くのしかかる。赤子の頃だろうと、何か事情があると言われても、不安だった。


「……必要とされたい」


 誰かに。何の理由もないほど究極的に。


 呟いた途端、誰かが、嗤った気がした。男の声でも女でもない。あらゆる存在が混ざり合ったような、不気味な嗤い声だった。


 顔を上げても、誰もいない。


『我々は叶えられる。その希望を叶えられる』


 神による無限の犠牲。その抑えに。


「神……?」


 どこからか響く声に、恐怖があった。けれど、希望があった。叶えられる、と声は言ったのだ。この空虚を埋めてくれる、その期待があった。


 途端、背後から腕を引っ張られた。振り返るとローブの集団がいた。紋様は見間違えようもない、創世教のものだ。神殿の存在が、一体どうして。少年は怯えたが、腕を掴んでいた男は何事もなく告げた。


「神の声を聞いたな。お前に拒否権はない」


 低い男の声だ。先ほどの不気味なものではない。


「何を……」


「生贄になるかどうか選べ」


 年齢を感じさせない男……小野は、少年に告げた。


「選ばなかったら、どうなるんだ」


「無限の犠牲が続くだけだ。お前の適性も、ただ無為になるだけだ」


「……適性?」


 小野の口元が、微かに歪んだ。


「安心しろよ。親にも学校にも既にうまく伝える。お前は特別なんだ」


「特別……」


 その言葉は、まるで甘いジュースのようで。


「お前は神に選ばれたのだ。光栄に思え、斑目敏明」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ