①② 最終話
クリスティンの頬に手を添えてクイッと上にあげたジョエルの柔らかい笑みはまるで少女漫画に出てくる王子様である。
何より二人の距離が近い。
思わず赤くなった頬を押さえた。
「………今、とても大切な話をしてるの」
「僕よりも?」
「勿論、貴方との時間も大切に思っているわ」
クリスティンが反撃とばかりにジョエルの腕を引いて、頬に小さくキスを落とす。
キョトンとした後に、とても嬉しそうに笑みを浮かべるジョエルに思わずキュンとしてしまう。
「……邪魔してごめん。明日は僕と食べてくれる?」
「えぇ、約束するわ」
「分かった……愛してるよ、クリスティン」
「ふふ、今日は随分と素直で可愛いのね」
「まぁね……オーロラ嬢、ごめんね」
ジョエルは内緒とでもいうように唇に人差し指を当てる。
オーロラは首をブンブンと縦に振る。
(か、かわいい……!)
そのままクリスティンの手を取り愛おしそうに唇を寄せると、ジョエルは機嫌が良さそうに去っていった。
「ふぅ……さて、話を戻しましょうか」
「!?」
クリスティンの切り替えの速さに驚いていた。
(何事もないように……だと!?)
クリスティンの男を手玉に取るようなテクニックを見ていると、同じ女性として羨ましい気持ちになるのと同時に憧れてしまう。
「まずはイワンとローレンス、どちらを選ぶの?」
「えっと、私を選んでくれる方で……」
「情けないこと言うわねぇ」
「私はクリスティン様みたいに手練れじゃないんです…!恋愛経験だってないんですから!!」
「こんなに男に媚びてますって顔と格好をしていて、中身とのギャップがすごいわね」
「そ、それは!ヒロインは自分の好きな女の子になれるんです……だから、つい」
「理想を詰め込みすぎたと」
「乙女ゲームと少女漫画の知識なら誰にも負けないんですけど……」
「実際、この世界はゲームじゃない。人生は一度きりの真剣勝負よ」
「ですよね!?私、どうすればいいんでしょう?」
「恋愛をするしかないわね」
「へ……?」
クリスティンにアドバイスを求めたつもりだったが、返ってきたのは"恋愛するしかない"という言葉だった。
もっと男を口説くには…とか、目を引く方法やコロコロと転がせる方法を学べるのかと思っていたが、思わずポカンとしていた。
「恋愛をしたことないなら、経験するしかないの」
「……っ」
「ドンドン経験値を積み上げていけばいい……貴女の好きなゲームと一緒。楽しいわよ?恋愛は」
「でも失敗するのが怖くて……乙女ゲームみたいに戻れないし」
「失敗こそ成功へと繋がる道よ?どんどん前に進みましょう」
「……はい」
「まぁ…とりあえず、イワンとローレンスの所に行ってみましょうか」
クリスティンに促されるまま、教室へと戻る。
ボーッとしながらパンを齧っているイワンと本を片手にブツブツと何かを呟いているローレンスの姿を見つけて足を止めた。
他のクラスメイトは疎らで、ポツンと座る二人の姿が目立つ。
「ほら、突撃よッ!!」
「む、無理無理無理ですから……!」
首を横に振る。
やはり顔が良すぎるせいで直視出来ない。
タイプな男性を前にすると、こんな自分がと尻込みしてしまう。
一歩また一歩と後ろに下がっていると……。
「仕方ないわね」
「へ……?」
「キッカケがないなら作れば良いのよ!」
「…???」
「いってらっしゃい」
クリスティンがニヤリと微笑んだ瞬間、視界がグルリと回る。
「ひゃ……!?」
華麗な手捌きによって前に倒れ込む。
クリスティンは何事もなかったように高笑いしながら去って行ってしまった。
(びっくりした…!)
起き上がろうとするが、手の力が抜けて床に額を打ちつけてしまう。
「いたた…っ」
「……大丈夫?」
そんな時、前に落ちる影……。
「え!?あっ、すみません……!!」
「手を」
「ありがとう、ございます……!」
前に伸ばされる手を掴む。
しかし緊張で足がもつれて、相手の胸へと凭れかかってしまう。
すぐに謝ろうと顔を上げると、触れそうになる唇と赤く染まる頬。
「……!」
「……っ」
心臓がバクバクと音を立てる。
『失敗こそ成功へと繋がる道よ?どんどん前に進みましょう』
震える唇を開いた。
「あっ、あの………!!」
(恋の始まり……?)
end
番外編、これにて終了となります!
最後までご覧頂きありがとうございました♪
番外編、これにて終了となります!
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